5Gが高度計の誤作動を引き起こす? 周波数から見る5Gと航空機の関係

2022年3月4日

2022年1月、米国から驚きのニュースが飛び込んできた。空港付近で開始される予定だった5G通信サービスが、航空機の安全に影響を及ぼす可能性があるとして、運航のキャンセルや目的地の変更を行う航空会社が続出した。米国では2018年10月に5Gの商用サービスが開始されている。なぜ、今になって航空機の安全性が取り沙汰されるのか、日本の5Gにも同様のリスクがあるのか、明らかにしよう。

隣同士で相性が悪い? Cバンドの5Gと航空機の高度計

1月18日、全日本空輸と日本航空は、日本と米国を結ぶ一部の便を欠航することを発表した。米国航空当局(FAA)から、翌19日から米国で利用が開始される予定の5Gサービスの電波の影響で、電波高度計が誤作動する可能性があると指摘されたからだ。1月19日は350便以上が欠航するなど、全米の空に大きな混乱が生じたが、結局、携帯電話大手AT&Tとベライゾンが、サービスの開始を延期したことで混乱は収まった。

隣同士で相性が悪い? Cバンドの5Gと航空機の高度計 イメージ

今回、問題視されたのは、通称「Cバンド」と呼ばれる周波数帯の電波だ。米国では、昨年この帯域(3.7?3.98Hz)の周波数オークションが実施され、米国のAT&TとVerizonは、あわせて800億ドル強を投じて利用権を購入していた。Cバンドは、6GHz未満の周波数である「Sub6」の電波だ。より周波数の高いミリ波と比べると、Sub6は減衰が少なく、広域まで電波が届き、障害物があっても回り込んで届くという特徴があるため、AT&TとVerizonは、Cバンドを使った5Gサービスの開始により、5Gサービスのカバーエリアを拡大することを狙っていた。

実は、Cバンドの隣にある4.2~4.4GHzは、以前から航空機の高度計に利用されている。航空機に使われる高度計には、気圧高度計と電波高度計の2種類がある。このうち電波高度計は、航空機から地面に向けて電波を出し、反射を感知することで地上からの高さを計測するもので、離着陸するときなど空港周辺だけで使用される。この電波高度計に使われているのが4.2~4.4GHz帯の周波数なのだ。電波高度計が利用する周波数帯とCバンドの周波数帯が近いことから、以前から空港近傍でのCバンドサービスがレーダー高度計に干渉する可能性が指摘されており、今回の混乱を招いた。

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航空業界と通信業界の対立で、答えが出ないまま延期が続く

2020年に米国の航空無線技術委員会が無線干渉の危険性を指摘したように、Cバンドと電波高度計が干渉するリスクは依然から知られていた。一方、米国の携帯電話業界団体であるCTIAは、5Gは航空輸送のリスクにはならないと反論している。本来であれば、Cバンドの5Gサービスは昨年12月に開始予定だったが、航空当局の要請で1ヵ月延期になり、1月5日に開始になる予定が、さらに延期され19日開始となり、そして今回の混乱を受け、さらに延期となっている。

再延期されて一旦は混乱が収束したものの、1月には、デルタ航空やユナイテッド航空など、米国の主要な旅客・貨物航空会社数社のCEOはホワイトハウス国家経済会議、航空局、通信委員会、およびブティジェッジ米運輸長官に書簡を送り、Cバンドの5Gサービスによる「壊滅的な混乱」を警告するなど、米国の通信会社と航空会社の間で対立はいまだに続いている。

日本の5Gは大丈夫?

Cバンドに含まれる3.7G?4.2GHz帯を活用した5Gサービスは、米国以外にも日本や欧州で始まっているにもかかわらず、なぜ米国だけでこのような問題が生じるのか、不思議に思う読者も多いだろう。その答えは、5G基地局の電波の出力にある。

例えばフランスでは、空港近辺の5Gは出力を下げ、指向性を強めてレーダー高度計に影響が出ないようにしている。出力の弱いアンテナをきめ細かく設置することで、広い範囲をカバーするやり方だ。一方、米国では、出力の高いアンテナで広い範囲をカバーする方式が採用されている。航空当局によれば、米国のCバンドの5G基地局は、フランスと比較して2.5倍の大出力を許されているという。また、アンテナの角度についても、フランスでは下向きに設置する制限があるが米国ではそのような規定が存在しない。同じCバンドであっても、米国のCバンドの危険性が指摘されるのはこのような事情による。航空機が低高度を飛行する離着陸時に、高出力の5G基地局から干渉を受ける可能性があるというわけだ。

日本の5Gは大丈夫? イメージ

日本では、5G導入の検討段階において、航空機の電波高度計との干渉についての評価が行われている。総務省が2018年に公表した報告書では、「空港周辺(1km程度)の航空機の進入経路の周囲200m程度の範囲で基地局の設置制限を行い、航空機電波高度計との周波数離調100MHz程度を確保して基地局へのフィルター挿入を行うことにより、共用可能」とされた。今回の混乱を受け、金子恭之総務大臣は、1月21日の閣議後の会見で、「これまで日本では5Gが電波高度計に影響を与えたという報告はない」と説明している。

6G時代に向け、周波数帯の住み分けと干渉調整はますます重要に

しかし、日本の5Gも、干渉の問題と無縁ではない。航空機の電波高度計は問題とならなかったが、3.7GHz帯を5Gと共用する衛星通信の地球局との干渉が問題となり、結果、5G基地局と衛星通信の地球局の間に距離を取ることが求められた経緯がある。今後、5Gの普及が進み、さらにBeyond 5G/6G時代が到来すれば、携帯電話の通信に電波を割り当てる機会は増えていく。他のシステムと干渉しないように電波の割り当てを見直す必要が生じるような場面も出てくるかもしれない。電波を有効かつ安全に利用するための、電波の「交通整理」は、これからますます重要になっていくだろう。

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