スポーツの世界でAI審判が活躍できる舞台は整ったか

2024年10月21日

AIの活用分野は、年々広がりを見せている。最近はChatGPTのように、文章や画像、音楽などを生成するAIが話題になっているが、そもそもAIはデータ処理やパターン認識、予測などの幅広い機能を持っている。そういった機能を利用したAIの活用分野の1つがスポーツで、人間に変わって審判の役割を持たせようとしている。現状では、AI審判の活用はどこまで進んでいるのか。

人間では難しい微細な判定をAIに任せる

AIがスポーツの審判を務めると、どのようなメリットがあるのか。まずは、誤審を防ぐことが挙げられる。オリンピックが開催されるたびに話題になってきたように、近年はさまざまな競技において審判による疑義のある判定がクローズアップされ、スポーツ界を揺るがす事態が続いている。

そうしたスポーツの世界にAIを導入すれば、最先端のカメラやセンサーなどの高度なセンシング技術を使って、選手の動きやボールの位置などの情報をリアルタイムに把握できる。それらの情報を元に、AI審判がルールに従って試合の進行を管理したり、反則を判断したりする。

例えばテニスでは、ボールがライン上に乗っていたか否かを判定する。具体的な仕組みとしては、高速カメラやセンサーがボールの軌道をリアルタイムに検知し、さまざまな軌道パターンを学習したAIが正確な落下位置を判断してインかアウトかを判定する。他の競技でも、サッカーの場合は選手のオフサイドの判断や、ボールがコートから出たかどうかの判断、野球の場合はストライクゾーンの正確な識別やハーフスイングの判断など、微細な判断が求められる場面で能力を発揮する。特にAIならばルールの解釈の揺れが生じることもないので、人間と比べて公正な判定を下せるだろう。

複雑な体操競技の採点をAI審判がサポート

AI審判の活用として、特に注目されているのが体操競技だ。テニスやサッカー、野球などの球技であれば、インかアウトかなどがデジタルに判断されることで勝敗が決まる。しかし、体操のような競技の場合は、技の難易度や美しさ・雄大さ・安定性などが複数の審判員によって採点され順位を競う。その採点の難しさが、体操競技の課題となっていた。例えば、体操競技はルールの変更も多く、選手の技も日々進化していることから、審判員は常に新しい知識を取り入れる必要がある。

そこで、体操競技や新体操などの競技を統括する国際体操連盟(FIG)と富士通は共同で、AIなど最先端の技術を活用して採点をサポートする「Judging Support System(JSS)」の開発を進めている。JSSは競技者の動作をセンシングし、数値データとして分析することでAIが技を自動判定する。その結果を画面に表示したり、関節の角度など審判が正確な体の動きを見たい場面の数値情報を表示したりすることで、同一基準による正確な判定を支援する。

国際体操連盟は2019年に一部の種目からJSSの活用を始め、2023年9月30日から10月8日にベルギーのアントワープで行われた「第52回世界体操競技選手権大会」では、全10種目(男子:あん馬・つり輪・跳馬・鉄棒・平行棒・ゆか、女子:跳馬・平均台・段違い平行棒・ゆか)に適用された。今後も、さまざまな世界大会でJSSの本格運用が見込まれている。

(図1)FIGと富士通が開発するAIを活用した体操競技のサポートシステム(出典:富士通のプレスリリースより) イメージ
(図1)FIGと富士通が開発するAIを活用した体操競技のサポートシステム(出典:富士通のプレスリリースより)

AI審判の判定だけがすべてではない

AI審判を導入すれば、さまざまなスポーツにおいて正しい判定が可能になるだろう。ただ、スポーツをエンターテインメントとして見た場合には、正しい判定だけに頼っていると、面白みにかけるというデメリットもある。

今夏のパリオリンピックの柔道競技でも、審判の「誤審」「不可解判定」を巡って大論争が起きた。そこで、柔道においても、AI審判の導入を求める声が多く上がっている。その一方で、AI審判に頼り過ぎると、試合の面白みがなくなってしまう可能性があることを心配する声もある。柔道では試合の流れをつくるために、審判が「指導」を出すタイミングを考えている。例えば、最初の「指導」は試合が始まってから早いタイミングで出すが、反則負けとなる3つ目の指導を出すタイミングは結構待つこともあるという。これをAI審判に任せると、短い時間で指導が3つ続いて、両者が技をかける暇もなくすぐに勝負が決まってしまう。やはり、柔道では技の掛け合いを見るのが楽しみなので、指導だけで勝敗が決まってしまう試合は味気ない。

また、AI審判だけに頼っていては、正しい判定ができないという事例もある。韓国のプロ野球リーグでは今シーズンから、AI審判を一軍戦で本格導入した。AI審判は、センター及び1、3塁に設置されたカメラによる「自動ボール判定システム(ABS)」が投球を判定。その結果を、イヤホンを装着している球審がコールする仕組みを取り入れている。ところが、事前にAIが決めたストライクゾーンは、どのように通過してもストライクと判定されるため、例えばワンバウンドのボールでもストライクとなることもあった。こうしたことから、韓国のプロ野球ファンからは、基本的には人間が判定して、確認が必要な時だけAIに判定させた方が良いという声も多い。

こうしたことからも、まだまだAI審判の導入は過渡期といえそうだ。

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