5Gの商業利用で世界に先行する中国

2021年6月14日

中国では、官民を挙げて5G推進に取り組んでいる。世界に先駆けてスタンドアローン型の5Gネットワークの構築が進み、産業分野でも約1,100件の5Gプロジェクトが進行中である。一方、日本は、製造業においてローカル5G活用が端緒に就いたばかりで、中国の取り組みは、貴重な事例の宝庫である。政府による支援策や、最新の普及状況など、中国のBeyond X 最前線を探った。

スタンドアローン型5Gで世界に先行する中国

中国では、2019年11月に国有通信大手3社による5Gの商用サービスが始まった。中国は、3Gや4Gの技術開発で出遅れたという反省から、早くから5Gの研究開発に着手しており、官民を挙げて5G推進を目指している。すでに71万以上の5G基地局が整備され、2020年に出荷された5G携帯電話端末は、218機種、1億6,300万台に達するという。

中国の5Gの特長は、5Gだけで単独運用できる「スタンドアローン(SA)型」で5Gネットワークを構築していることだ。日本や欧米では、4G LTEのコアネットワークと5Gの基地局を組み合わせた、「ノンスタンドアローン(NSA)型」での5G整備が主流である。NSAは、既存の4Gインフラを活用し安価かつ素早く、5G通信網を構築できるというメリットがある。しかし、NSA型の5Gは、高速、大容量ではあるものの、低遅延や多数同時接続というような5Gのメリットを享受することはできない。NTTドコモは、2021年度中にSA型の5Gサービスを開始する方針を打ち出している。しかし、全国に約300存在する地級市(中国における、省と県の間の行政単位)以上の都市で、既にSA型サービスが提供されている中国とは、大きな差がある。

中国も、2019年の商用サービス開始当初は、NSA型のみであった。しかし、2020年3月には、政府が「5Gの加速的発展を推進する通知」、そして5月には5Gを柱とする「新基建」(新型インフラ建設)政策が打ち出され、SA型による5G推進が加速した。特に、北京市や、ファーウェイやテンセントの本社がある広東省深?市では、それぞれの市内だけで4万以上の基地局が設置され、市内全域でSA型の5G通信が可能となっている。

5G通信 イメージ

SA型の整備で、産業界での5G実用化が加速

5Gのメリットを最大限に生かせる環境が整ったことで、中国では産業界における5Gの実用化が加速している。2018年から開催されている5G導入事例のコンテスト、「ブルーミングカップ(綻放杯)」の参加件数も年々増加しており、2020年の第3回には、第1回の10倍以上となる4,289件のユースケースが集まった。

政府が産業分野での5G利用を推進していることもあり、2020年のブルーミングカップで上位10件に選ばれた事例のうち、半数以上が、工場での検査工程の自動化や、炭鉱、鉱山、港湾での危険な作業の遠隔操作など、産業分野での活用事例だ。例えば、江蘇省の精密部品工場の事例では、5Gを活用したAI画像判定を導入した。AIによる判定を行うためには、検査対象部品をカメラで撮影し、その画像をアップロードする必要がある。これまでの通信速度では、検査に必要な高画質画像を高速にやりとりすることが難しかったが、5Gが導入されることで、人が作業する10倍のスピードで検査を行うことが可能になった。また、広東省のスマート港湾事例では、コンテナの積み下ろしを行うガントリークレーンを遠隔操縦するシステムが構築された。同港には、ARパノラマ管理や無人運転といった先端技術のほか、AIによる港湾内を走る車のリアルタイムモニタリングや安全管理も導入されている。

AI活用イメージ

2020年11月には、先端産業集積地「光谷(Optical Valley)」としても知られる武漢市で、「2020中国5G+インダストリアルインターネット大会」が開催された。同大会では、湖北省が5Gインフラに約2兆円を投資したことを発表したほか、習近平国家主席が祝辞を送るなど、産業分野での5G活用が国策として推進されていることが伺える。同大会では、武漢から1,000km離れた炭鉱にあるロボットを遠隔操作するデモンストレーションや、同じく1,000km離れた所から遠隔運転が可能な自動運転車や5GとAIを活用した検査システムなどが展示された。中国では、5Gを活用したスマート工場プロジェクトが、1,100件進行中だという。

政府による強力な支援が、迅速な導入を後押し

中国の国有通信大手3社は、2021年の5G関連投資を、前年比5%増の3兆円とすると発表している。政府による手厚い支援も継続しており、例えば広州市では、製造業向け5Gソリューションの導入に対して8,000万円の補助金を、また、5Gを導入する企業に1億6,000万円の支援、そして5G分野で卓越した業績を上げた個人に対する報奨金として8,000万円など、手厚い支援が用意されている。

2020年2月と3月に、中央・地方政府から5G推進に向けた指示が13本出されるなど、政府による5G推進には、新型コロナウイルス流行による景気落ち込み対策という側面もあった。しかし、米中摩擦が続き、5Gをめぐる争いが米中の覇権争いの様相を呈する中、中国による戦略的な5G推進はますます加速するとみられる。SA型の5G活用で世界に先行する中国の動きから、今後も目が離せない。

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