社会課題解決からメタバースまで活用が広がる3D都市モデル

2022年5月6日

リアルに存在する都市のデジタル化が進もうとしている。都市のデジタル化といっても、ゲームなどで利用するVR空間に仮想世界を作るのではない。実際に存在する都市をデジタル技術で仮想空間に忠実に再現し、現実空間と連携させてシミュレーションを行う。そうやって作られた3D都市モデルが、社会課題の解決からメタバース上でのバスツアーまで幅広い分野で活用されようとしている。

現実空間と仮想空間を連携させる国家プロジェクト

国土交通省は日本の国土を3Dデータ化し、誰でもが自由に使える形で公開するプロジェクト「PLATEAU(プラトー)」を、2020年12月に立ち上げた。PLATEAUの目的は、実際に都市空間に存在する建物や街路に名称や用途、建設年などの都市活動情報を与え、都市空間そのものを3Dの仮想空間に再現する都市空間情報プラットフォームの構築だ。

現実空間と仮想空間を融合すれば、都市計画の立案や都市活動のシミュレーション、分析などに役立つ。特に期待されているのが、災害モデルへの対応だ。例えば、浸水想定区域図を3D都市モデルに重ねれば、避難場所の検討など防災政策の高度化が図れる。

PLATEAUのように、3Dモデルを活用するプロジェクトとしては、フィンランドの「ヘルシンキ3Dプラス」などが知られる。また、一都市ではなく、国土全体をバーチャルに再現しようとする取組みでは、シンガポールが先行する。すでに、シンガポールでは、国土全体の地形や建築構造物、交通機関などの社会インフラのさまざまな情報を統合した3D都市モデル「バーチャル・シンガポール」が仮想空間上に構築されている。都市開発が盛んなシンガポールでは、道路の整備なども進めるにも政府機関や省庁の連携が悪く、工事に無駄が多いなどの課題があり、こうした課題解決のツールとして「バーチャル・シンガポール」が提案された。

(図1)シンガポールの町の3D都市モデル「バーチャル・シンガポール」(出典:バーチャル・シンガポールのYouTube動画より引用) イメージ
(図1)シンガポールの町の3D都市モデル「バーチャル・シンガポール」
(出典:バーチャル・シンガポールのYouTube動画より引用)

太陽光発電のシミュレートでスマートシティの課題に対応

物理空間に実在する環境を仮想空間で再現し、さまざまなシミュレートを行って将来予測などに役立てようとする技術は「デジタルツイン」と呼ばれている。当初は機械の故障予測や監視などに活用されていたが、最近ではPLATEAUのように社会課題解決に対応しながら住みやすい都市を構築する、スマートシティの実現にも活用しようとする事例が増えてきた。

スマートシティの実現においては、太陽光発電など再生可能エネルギーの利用は切り離せない。建物の屋上スペースを利用して太陽光発電パネルを設置する際には、効率的な発電を実現できる屋根や屋上スペースを選定する必要がある。また、反射光による周辺建物への光害発生を確認したり、都市スケールで発電量を可視化することが重要だ。

そこで、2022年3月に実施された3D都市モデルによって、太陽光発電量の推計を試みる実証実験においてPLATEAUを活用することになった。太陽光発電パネル設置に伴う光害発生の有無をシミュレートし、設置の実現性を確認することが目的だ。

(図2)PLATEAUを活用した太陽光発電量の推計をシミュレートする実証実験のイメージ(出典:Project PLATEAUのツイッター公式アカウントより引用) イメージ
(図2)PLATEAUを活用した太陽光発電量の推計をシミュレートする実証実験のイメージ
(出典:Project PLATEAUのツイッター公式アカウントより引用)

3D都市モデルとメタバースを組み合わせた観光バスツアーも

PLATEAUのような3D都市モデルは、スマートシティ実現にむけて幅広い分野で活用できそうだ。大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会では、東京の「大丸有」地域を対象にしたスマートシティ実現を目指し、同エリアを訪れた人の動きに合わせた空間を設計しようとしている。そのための情報を収集するため、センサーの配置を3D都市モデル上でシミュレーションし、設置エリアや具体的な設置箇所、センサーで取得可能な範囲・精度などを3D空間に可視化する「センサー配置シミュレーション」の実証実験に取り組んでいる。

また、横浜のみなとみらいエリアでは観光庁と国土交通省都市局が連携し、3D都市モデルをベースに構築されたメタバース上で、VR(仮想現実)とAR(拡張現実)、MR(複合現実)を融合したXR(クロスリアリティ)コンテンツを開発しようとしている。2021年12月18日から2022年1月16日まで実施された実証実験では、XRコンテンツをオープントップバスと組み合わせた観光バスツアー「KEIKYU OPEN TOP BUS -YOKOHAMA- NAKED XR TOUR」が実施された。

(図3)みなとみらいで実施された観光バスツアー「KEIKYU OPEN TOP BUS -YOKOHAMA- NAKED XR TOUR」のイメージ(出典:PLATEAUのホームページより引用) イメージ
(図3)みなとみらいで実施された観光バスツアー「KEIKYU OPEN TOP BUS -YOKOHAMA- NAKED XR TOUR」のイメージ
(出典:PLATEAUのホームページより引用)

ミライトでも、建設現場やレジャー施設などさまざまな環境で3Dレーザースキャナーやドローンを活用し、工場やオフィスなどの屋内から屋外の大規模社会インフラまで、目的に合わせて点群データを取得する3Dモデル提供サービスを進めている。点群データを利用して構造物などを3Dの仮想空間上に再現すれば、自由視点での閲覧や計測、各種シミュレーションでの利用などデジタルツインの基盤として活用できる。3D都市モデルと連携させれば、さらにスマートシティの精細な分析にも活用できるだろう。

(図4)ミライトが提供する点群データのイメージ画像 イメージ
(図4)ミライトが提供する点群データのイメージ画像

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