柏の葉が目指すスマートシティ構想

2021年10月1日
柏の葉が目指すスマートシティ構想
柏の葉が目指すスマートシティ構想
話し手
  • 柏の葉アーバンデザインセンター
  • ディレクター(新産業創造担当)
  • 後藤 良子

現在、全国各地でスマートシティへの取り組みが行われているが、一言でスマートシティといっても、それぞれまちづくりのコンセプトやテーマが異なる。2014年に住宅や商業施設、オフィス、ホテル、ホールなどの都市機能が集積してオープンした「柏の葉スマートシティ」は、どのようなテーマでスマートシティに取り組み、そこではどのような5G活用の可能性が考えられるのか。柏の葉のまちづくりの拠点となる「柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)」のディレクター後藤良子氏に、現在の柏の葉スマートシティの取り組み状況と、今後の5G活用の可能性について伺った。まちづくり・都市計画における調査研究からコンサルティングまでを手掛ける株式会社URBANWORKSの代表取締役も務める後藤氏は、UDCKではIoTビジネス共創ラボを中心に、実証実験の誘致や新産業創造を担当している。

柏の葉スマートシティが取り組む
4つのテーマ

柏の葉スマートシティは、秋葉原駅まで約30分、上野駅まで約34分で結ぶ、つくばエクスプレス線柏の葉キャンパス駅を中心としたエリアだ。以前はゴルフ場だった駅の周りに、「東京大学柏キャンパス」、「千葉大学環境健康フィールド科学センター」や「国立がん研究センター東病院」などの研究・教育・医療施設をはじめ、「ららぽーと柏の葉」といった商業施設も集っていることから、住むにも買い物をするのにも便利な「住みたい街」として、近年注目を浴びている。

2019年5月には、柏の葉アーバンデザインセンターと三井不動産が幹事を務める「柏の葉スマートシティコンソーシアム」が、国土交通省の「Society5.0」実現に向けたスマートシティモデル事業の先行モデルプロジェクトに選定され、「スマートシティ実行計画」が策定された。この計画で、柏の葉スマートシティは「モビリティ」「エネルギー」「パブリックスペース」「ウェルネス」という4つのテーマを掲げ、「民間+公共のデータプラットフォーム」「公・民・学連携のプラットフォームを活用したオープンイノベーション」「分野横断型のサービス創出」という3つ戦略にもとづいたまちづくりに取り組んでいる(図1)。

(図1)柏の葉スマートシティが取り組む4つのテーマと3つの戦略
(図1)柏の葉スマートシティが取り組む4つのテーマと3つの戦略
(資料提供:柏の葉アーバンデザインセンター)

ETC2.0プローブデータを活用して交通を見える化する
「モビリティ」の取り組み

柏の葉スマートシティでは2020年度に、柏の葉キャンパス駅と東京大学柏キャンパスを結ぶ自動運転バスを導入した。現在、レベル2の自動運転で商用運転を開始しており、約2.6キロの区間のうち1.2キロだけドライバーが手放しのまま運行されている。

駅周辺の交通の可視化では、柏の葉キャンパス駅周辺を通過したETC2.0プローブデータを抽出して蓄積する機能を実装した。柏の葉スマートシティではこうして蓄積されたデータに基づき、日別・曜日別・時間帯別の通過台数や、走行距離別の分布を可視化するモニタリングレポートを作成している。ETC2.0プローブデータによる通行実績のモニタリングは、自動運転バスの走行ルートの見直しにも活用され、一般車の通行台数が少ないルートに見直された。

また、柏の葉スマートシティは「公道における電動キックボード走行の実証実験」が行われる地域の1つとなっている。第2弾の実証実験では、2021年5月27日から10月31日まで、駅周辺の道路など公道の中でエリアが区切られ、スマートフォンなどでその場で登録すれば、キックボードがレンタルできる(写真1)。「電動キックボードについては、通常はヘルメットを被っての走行が義務づけられています。今回の実証実験中でもヘルメット着用が推奨されていますが、義務ではありません」。

柏の葉キャンパス駅でレンタルできる電動キックボード
(写真1)柏の葉キャンパス駅でレンタルできる電動キックボード

柏の葉スマートシティでは、こうした新しいモビリティの開発環境を提供する「KOIL MOBILITY FIELD」を2021年6月にオープンした(KOILは、柏の葉オープンイノベーションラボの略称)。まだ公道では走れないものを開発のために走らせる道路や、鳥かごのように金網で囲まれたドローンの飛行エリアもある(写真2)。

モビリティの開発を支援するテストエリア「KOIL MOBILITY FIELD」
(写真2)モビリティの開発を支援するテストエリア「KOIL MOBILITY FIELD」

AIやクラウドを活用して需要予測の精度を向上させる
「エネルギー」の取り組み

柏の葉スマートシティでは2015年に電力貯蔵用NAS電池システムが設置され、「エリア・エネルギー・マネジメント・システム(AEMS)」の構築によって、分散電源エネルギーの街区間電力相互融通が本格稼動している。これによって、地域レベルでの電力ピークカットと防災力強化を実現し、災害時の電力供給が細かく制御できるようになった。「大規模災害が起きた時には、街区間で電力を融通しあうことが可能になります。さらに、高層マンションのエレベーターや病院などの重要施設に、限られた電力を供給できるような仕組みがすでに構築されています。今後は、AIやクラウドを活用して需要予測精度を向上させ、さらなるCO2の削減や省エネを図っていきます」。

さらに、CO2削減に向けた再生可能エネルギーの利用に関しては、柏の葉スマートシティ内の施設「柏の葉ゲートスクエア」および「ららぽーと柏の葉」に太陽光発電設備のパネルが2800枚設置されている。「これらの太陽光パネルについても、保守管理にIoTを活用したプラットフォームを構築して、発電効率を細かくチェックするサービスを構築しているベンチャー企業が、現在実証実験に取り組んでいます」。

AIカメラやセンサーによる見える化で住民を守る
「パブリックスペース」の取り組み

「パブリックスペース」への取り組みはまだ準備段階だが、AIカメラや各種のセンサーをエリア全域に展開する予定だ。柏の葉スマートシティでは、実証実験によりすでに約3キロ圏内のエリアを200mほどのグリッドで区切り、グリッドごとに設置された温湿度センサーとLoRaWANによって、約2年分のデータが蓄積されている。「今後はこれらを利用して、日を遮るものがなく特に暑くなっているエリアや、公園のように木があって涼しいエリアなどを割り出し、子供の通学路を考えたり緑化のための参考値にしたいと思っています」。

「柏の葉オープンイノベーションラボ(KOIL)」では、オフィスの換気や着席、トイレの利用状況の可視化と体温、マスク着用を検知するシステムを導入した。KOIL内に設置された各センサーからのデータをクラウドへ集約し、1階入口と6階に設置されたデジタルサイネージに表示してリアルタイムで確認できる(写真3)。KOIL会員向けに、同画面をPCやパソコンやスマートフォン上でも閲覧できるアプリの提供もしている。

オフィスの換気や着席状況などを見える化
(写真3)オフィスの換気や着席状況などを見える化

柏の葉キャンパス駅の北側には、「アクアテラス」という雨水調整池がある(写真2)。通常、雨水調整池といえば関係者以外立ち入り禁止で金網に囲まれ、誰も入れないようになっているイメージがある。しかし、アクアテラスはオープンに誰でもが出入りでき、池の水位が下がっている時は水辺まで行って散歩ができる、親水公園のように整備されている。「アクアテラスには、水質管理だけでなく水位管理のためのセンサーも設置されており、それを柏の葉スマートシティから少し距離のある柏市役所からもウェブブラウザ上で確認できるようになっています」。

親水公園のように楽しめる雨水調整池「アクアテラス」
(写真4)親水公園のように楽しめる雨水調整池「アクアテラス」

住民の健康管理にも役立てていく
「ウェルネス」の取り組み

柏の葉スマートシティでは、2020年秋にポータルサイト「スマートライフパス柏の葉」を立ち上げた。住民がスマートライフパス柏の葉に紐付けられた、さまざまなウェルネス関連のスマホアプリを利用することで情報が蓄積され、エリア全体の健康状況などに関わる解析に使わるようになる(図2)。「こうして集められた健康情報などのウェルネスデータは、将来的には病気を予防する未病などへの取り組みに繋げていったり、健康管理に課題がありそうな人にアドバイスを提供するなどのサービスにも繋げていく想定です」。

柏の葉スマートシティが立ち上げたポータルサイト「スマートライフパス柏の葉」の取り組み
(図2)柏の葉スマートシティが立ち上げたポータルサイト「スマートライフパス柏の葉」の取り組み
(資料提供:柏の葉アーバンデザインセンター)

また、柏の葉スマートシティではIoTを活用したスマートホスピタルの実現に向けた実証実験プロジェクトの一環として、病院外から遠隔での再来受付を可能にする「遠隔チェックイン」サービスを開発した。現在、柏の葉エリアにある国立がん研究センター東病院と共同で実証プロジェクトを行っている。国立がん研究センター東病院は日本のみならず、海外からの来院もあるため完全予約制になっているが、予約をとっていても長時間待つこともある。「遠隔チェックイン」サービスではGPSアプリを利用し、スマホアプリでチェックインすれば駅前の商業施設で買い物するなど、長い待ち時間をじっと病院ロビーで待つのではなく、気晴らししながら待てるようにした。「遠隔チェックインは、患者さんの心のストレスを少しでも減らすという取り組みでもあります」。

郊外型のスマートシティで生かされる5Gとは

柏の葉スマートシティでのこうした取り組みは、「横浜みなとみらい21」のような都市型のまちづくりではなく、郊外型のまちづくりといえる。もともとはゴルフ場だったエリアを開拓して、一から始めているまちづくりなので、いろいろな新しい試みが柔軟にスタートできる条件が揃っている。

5Gの活用についても今後いろいろと検討されていくだろう。「ウェルネス」の分野では、国立がん研究センターと三井不動産が連携協定を結び、2022年開業予定の国立がん研究センター東病院と連携した宿泊施設で5Gの通信環境を整備させ、遠隔診療や在宅医療に繋がる新たな診療モデルの創出を目指している。

一方で、柏の葉スマートシティはまちのユーザーである「生活者」と共創して推進する「みんなのまちづくりスタジオ」が立ち上がり、ディスカッションを始めている。「住民の方々の意識も、新技術の導入に対して積極的なエリアなのかなと感じています。さらに、5Gによって今までできなかったことが実現できるようになれば、新しい形でのまちづくりのあり方をあらためて実装できるのではないでしょうか」。

住民、自治体や企業など、さまざまな立場から先進的なまちづくりに取り組んでいる柏の葉スマートシティにとって5Gは、サステナブルな生活に不可欠なライフインフラとして重要な役割をもつことになるだろう。

柏の葉アーバンデザインセンター 後藤氏

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