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宇宙からの情報がより地球を身近に! 後編 高速・大容量通信で分かる地球の健康状態

2022年2月18日
宇宙からの情報がより地球を身近に! 後編 高速・大容量通信で分かる地球の健康状態
宇宙からの情報がより地球を身近に! 後編 高速・大容量通信で分かる地球の健康状態

前編では、JAXAがNTTと共同で取り組んでいる、「地上と宇宙をシームレスにつなぐ高速大容量でセキュアな光・無線通信インフラの実現」および「宇宙利用や宇宙探査の飛躍的な高度化・活性化を基盤的に支えるキー技術の整備を目指す研究開発」の概要と進捗状況などについて紹介した。後編では、実際にそうしたインフラが実現されればどのように活用されるのか、私たちの生活はどう変わっていくのかについて、引き続きJAXA(宇宙航空研究開発機構)の研究開発部門研究戦略部計画マネージャーの佐藤勝氏から伺った。

宇宙の情報は宇宙で処理をする

前編でも紹介したように、NTTがスカパーJSATと構築を目指す「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」に関しても、JAXAは宇宙データセンタなどを活用してコンピュータ処理した情報を地上に送信する技術の検討に参加している。宇宙データセンタとは聞き慣れない言葉だが、具体的にはどのような役割を持つのだろうか。

例えば、宇宙から地球を観測することを目的とした人工衛星には、光学センサーを使う衛星と、電波(マイクロ波)センサーを使う衛星の2種類がある。多くの人工衛星で搭載されている光学センサーは、太陽の光が地上の物体に当たって反射した光を捉える。そうやって反射した光の強さを調べることによって、植物や森林、田畑の分布状況、河川や湖沼、市街地などといった地表の状態を知ることができる。ただし、太陽光がささない夜や雲で太陽光が遮られたりすると観測できない。一方の電波センサーは、可視光より波長の長いマイクロ波を衛星から送信しその反射波を観測するので、昼夜天候に左右されずに地表を観測できる。

写真 光学センサーで観測した岐阜県白川郷の衛星画像(ALOSより観測)の例 (左)と電波センサーで観測した富士山周辺の衛星画像(JERS-1より観測)の例 (右) (JAXAのホームページより引用)cJAXA
写真 光学センサーで観測した岐阜県白川郷の衛星画像(ALOSより観測)の例 (左)と電波センサーで観測した富士山周辺の衛星画像(JERS-1より観測)の例 (右) (JAXAのホームページより引用)cJAXA

このうち、電波センサーを使って地表を観測する人工衛星の場合、センシングしたデータをデジタル処理して画像データに変換するために、通常はすべてのデータを地上にあるデータセンタに送っている。だが、それらのデータにはユーザが必要とする情報以外のデータも含まれているため、必要なデータのみを送る場合に比べて時間が掛かってしまう。「電波センサーのデータを、宇宙データセンタで画像データに変換できるようになれば、必要な画像情報だけを効率よく地上に送れるようになります。一方で、私たちは今でも、グーグルアースなどを活用して自分の家の写真などを結構細かく見たりしていますが、大容量のデータ伝送によって高精細な画像が大量に送られるようになれば、屋上や屋根にできた細かい傷まで見えるような世界になってくると思います」(佐藤氏)。

このように、宇宙から高速・大容量な通信インフラを使ってデータが地上に送られるようになると、宇宙から見た、より精密な地上の地図が作れたり、災害対策や農業での作物生育状況の観測、漁業での海面温度の計測など、さまざまな分野でセンシング情報を役立てることが可能になるだろう。政府が打ち立てたSociety 5.0が目指している、「未来の産業創造と社会変革」や「経済・社会的な課題への対応」の実現にもつながっていく。

例えば、地球観測衛星では、より広範囲で高精度な地球の画像を一度に伝送できるようになるという。「低軌道衛星の場合、可視時間が10分から15分しかないのでその間に一気に地上に観測したデータを送らなければなりません。高速・大容量の通信インフラが使えるようになれば、より精度の高い画像が短時間で地上に送信できるようになります」(佐藤氏)。

宇宙は地上の生活を豊かにしてくれる

Society 5.0の構想では、サイバー空間とフィジカル空間という、仮想世界と現実世界を融合させてシミュレーションを行い、さまざまな社会課題を解決に結びつけようとしている。こうした動向に対し、佐藤氏は「宇宙と地球を結ぶ高速・大容量の通信インフラは、Society 5.0を支える基本的な通信基盤になると思います」と語る。

JAXA研究開発部門研究戦略部計画 マネージャー 佐藤勝氏 cJAXA
JAXA研究開発部門研究戦略部計画 マネージャー 佐藤勝氏 cJAXA

自然災害に備えたセンシングについても、宇宙という高い視点から監視を行うメリットは大きい。「例えば、火山の活発なところを定期的に観測していますが、通信インフラがさらに充実することにより、災害状況の把握といった防災の分野にも一層貢献していければと考えています。災害時に地上のネットワークインフラで障害が起きても、宇宙から直接ネットワークにアクセスして情報を提供し続けることができるのも強みです」(佐藤氏)。

また、地上と宇宙が結びつくことによって、ネットワークを利用できるエリアが広がっていく。地上のネットワークインフラは平面的にしか広がっていかないが、宇宙も活用することでインフラの環境が3次元に広がっていく。「それによって、特に移動体でのネットワーク利用が期待されています。飛行機や船だけでなく、すでに実用化に向けた取り組みが進んでいる空飛ぶ車などにおいても、いつでも誰でもどこでも快適な環境で通信できる世界になっていくと思います。その際、利用者は地上のインフラなのか宇宙のインフラなのかを意識することもないでしょう」(佐藤氏)。

佐藤氏はNTTとの共同研究の取り組みについて、「JAXAとしても非常に重要な取り組みと考えています。私個人としても、NTTさんのIOWN構想の中で触れられている、宇宙と地球が結び付いた未来の姿について非常に興味深く感じています。JAXAの技術とNTTの構想を掛け合わせ、『地上と宇宙をシームレスにつないでいく』ことで一緒に明るい未来の社会を実現できればと考えています」と意気込みを語った。

日本でも、自前で宇宙機を開発し宇宙旅行などのサービス実現に取り組むスペースXやブルーオリジンのような民間企業が徐々に現れてきた。一方で、地球と宇宙をシームレスにつなぐ高速・大容量通信インフラの実現は、国内だけでの活用に閉じずグローバルに展開していくことも重要だ。NTTとJAXAによる研究成果が、国際標準として認められようになることにも期待したい。

(写真)日本の宇宙ベンチャーSPACE WALKERが2029年での初飛行を目指す有人スペースプレーンのイメージ(TOKYO SPACE BUSINESS EXHIBITION 2021より)
(写真)日本の宇宙ベンチャーSPACE WALKERが2029年での初飛行を目指す有人スペースプレーンのイメージ(TOKYO SPACE BUSINESS EXHIBITION 2021より)

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