宇宙に広がる通信活用が人類を進化させる

2022年01月14日
話し手
  • 公益財団法人未来工学研究所
  • 理事
  • 和田 雄志氏

2021年にはアメリカのロケットで複数の民間人が宇宙旅行を体験、日本でも実業家の前澤友作氏が国際宇宙ステーション滞在を実現させるなど、まさに「宇宙旅行元年」となった。一方で、宇宙を観光旅行の場にするだけでなく、私たちの生活を豊かにするために活用するさまざまな取り組みも進められている。そこに、高速で大容量のデータ通信はどのように利用されるのだろうか。今回は、宇宙と地上を結ぶ最先端の通信技術の役割や、それらの技術活用によって可能になる社会像について考えてみた。それをもとに、宇宙と地上を結ぶ通信によって導かれる人間の未来像について、公益財団法人未来工学研究所の理事 和田雄志氏にお話を伺った。

Society 5.0が実現する社会で求められる課題とは

 政府は日本の未来像を、「狩猟(Society 1.0)」「農耕(Society 2.0)」「工業(Society 3.0)」「情報(Society 4.0)」に続く、新しい文化を基盤とする社会「Society 5.0」という指針でまとめている(図1)。Society5.0では、「未来の産業創造と社会変革」「経済・社会的な課題への対応」「基盤的な力の強化」「人材、知、資金の好循環システムの構築」といったことが求められているが、それらを実現するにはなにが必要になるのだろうか。

(図1)内閣府が描く「Society 5.0」(出典:内閣府の資料)
(図1)内閣府が描く「Society 5.0」
(出典:内閣府の資料)

 Society 5.0の中核になるのが、ビッグデータとAIによってサイバー空間とフィジカル空間をシームレスにつなぐ構想だ。その構想を支える基盤として、今後、大容量で高速、セキュアな通信インフラの重要性がますます高まっていくだろう。一方で、持続可能な経済・社会活動を確立していく上では、エネルギーや環境・気候変動、防災、スマートシティなどさまざまな分野において、今後は宇宙空間をICTインフラ基盤として効果的に活用することがより重要になってくると考えられる。

 未来の社会事象や科学技術が複合した諸課題に取り組んできた和田氏は、「Society 5.0とはいっても、それ以前から続く狩猟社会や農耕社会、工業社会、情報社会の上に成り立っている社会であることを忘れてはいけません」と指摘する。「コロナ禍において、これまであまり陽が当たらなかったエッセンシャルワーカーといわれる人たちの重要性が再認識されました。Society 5.0においては、そういった人たちも働きやすくなる社会を構築していくべきだと思っています」(和田氏)。

未来工学研究所の理事 和田雄志氏
未来工学研究所の理事 和田雄志氏

地上と宇宙を結ぶ高速・大容量通信ネットワークの役割

 Society 1.0から積み上げられてきた、農業や漁業、工業といった従来の産業を進化させながら、地球規模の環境やエネルギー問題にも対応していくにも、「宇宙というフロンティアを活用すべき」と和田氏は語る。2021年5月にはNTTとスカパーJSATホールディングスが、新たな宇宙事業「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」の構築を目指すと発表している(図2)。

 「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」は、NTTのネットワーク及びコンピューティングインフラとスカパーJSATの宇宙アセット・事業を活用し、地上からHAPS(高高度基盤ステーション)や宇宙空間の低軌道・静止軌道まで複数の軌道上の通信をネットワークで統合する。さらに、それらの軌道上にある衛星と地上を光無線通信ネットワークで結び、分散コンピューティングによる高度なデータ処理を実現させようとしている。

(図2)NTTとスカパーJSATが構築を目指す「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」(出典:NTTとスカパーJSATホールディングスの発表資料)
(図2)NTTとスカパーJSATが構築を目指す「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」
(出典:NTTとスカパーJSATホールディングスの発表資料)

 「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」の活用によって、地上や宇宙で収集したセンシングデータを統合する「宇宙センシング」や、宇宙における大容量通信及びコンピューティング基盤を提供する「宇宙データセンター」、Beyond 5G/6Gを見据えた宇宙コミュニケーション基盤を提供する「宇宙RAN(Radio Access Network)」といった事業が予定されている。

宇宙との高速・大容量通信でなにができるようになるのか

 このように、宇宙活用の活発化という背景から、近年は国内外の企業が大量に小型人工衛星を打ち上げ、グローバルにサービスを展開する民間主導のビジネスが活発化している。経済産業省の予測では、2020年から2024年までに最大2400機近くの⼩型人工衛星が打ち上げられると見られている(写真)。最終的には、低軌道の複数階層で数万機の小型人工衛星が打ち上げられ、リモートセンシングや衛星インターネットサービスの提供、自然災害の観測などが行われる計画だ。

(写真)日本の宇宙ベンチャーも積極的に小型人工衛星を開発し、宇宙ビジネスに参入しようとしている(左はispaceが開発した小型人工衛星、右はSynspectiveが開発した小型人工衛星)(TOKYO SPACE BUSINESS EXHIBITION 2021より)
(写真)日本の宇宙ベンチャーも積極的に小型人工衛星を開発し、宇宙ビジネスに参入しようとしている
(左はispaceが開発した小型人工衛星、右はSynspectiveが開発した小型人工衛星)(TOKYO SPACE BUSINESS EXHIBITION 2021より)

 小型人工衛星には、植物や水の有無、地表や海面の温度、地表の高さ、雲の状態などを調べるさまざまな種類のセンサーが搭載されている。それらのセンサーから送られてくる情報を解析すれば、天気予報から気候変動や地盤変動の様子、災害の被害状況の確認などが分かるようになる。最近では、センサー情報を農場の管理や収穫予測で農業分野に活用したり、漁場の探索などで漁業に活用する動きもある。さらにビジネス分野では、空き地を探して駐車場に適した土地を自動検出するサービスの提供なども検討されている。

 宇宙から地上をスキャンする場合は面単位となるため、その情報量は膨大になる。例えば、太陽光を反射した対象物の色を記録して地表の様子をスキャンする光学センサーは解像度の向上が期待されており、今後も高速・大容量の通信が必要になってくる。人工衛星と地上との高速・大容量通信は、こうした宇宙の活用を支える基盤となる。一方で、地上に設置された多数のIoTセンサーからの情報も統合して活用するには、5Gを利用して高速・大容量かつ低遅延にデータ収集する必要がある。

 このような技術が普及していけば、自然災害を事前に予測して警告を発したり、凶作が予想される地域に対して支援が準備できるようになる。「宇宙の開拓は、新ビジネスを生み出すことだけに注力するのではなく、従来の産業をより進化させるためにも活用されるべきです」(和田氏)。

宇宙と身体がつながって生み出される人間の進化

 地上だけでなく宇宙でも高速大容量のデータ通信が利用できるようになると、自然現象だけでなくさまざまな社会事象に関しても予測が可能になり、私たちの生活は大きく変わっていくかも知れない。和田氏は、最先端技術の活用を宇宙といったマクロの視点からだけでなく、人間の体というミクロの視点から捉えることも重要であると考える。

 ここで和田氏は、20世紀初頭、当時の新聞に掲載されていた、「家にいながら映像を見たり、買い物を楽しめるようになる」と書かれた未来予測記事(1901年1月、報知新聞「二十世紀の預言」)を例に上げる。こうした電気通信系のテクノロジーに関する予測は、インターネットの普及などによってほとんど実現しているが、その当時には予測できなかったことがあるという。「それは、人間の体を進化させることについての予測です。すなわち、人間の能力がテクノロジーによって拡張できるということに関しては、ほとんど予測されていないのです」(和田氏)。

 テクノロジーの進化は、ロボットによって人間の手や足の力を拡大させ、遠隔通信によって視覚と聴覚の機能を拡張させた。ただ、これらの進化は、20世紀のテクノロジーが目指してきたことであると和田氏は見ている。では、今、なぜ人間の体を拡張させることが必要になるのか。「大切なことは、テクノロジーが進化したからなにができるのかを考えるのではなく、社会がどう変わるかを予測してテクノロジーを進化させることです。例えば、日本は今後高齢化が進み人口が減っていくことで、公共の交通機関が使えなくなるという移動の課題があります。それ以外にも、今後は高齢化が進むと程度の差はあれ、視覚障害や聴覚障害、記憶障害などに悩まされる人が増え、それが社会課題になるかもしれません」(和田氏)。

 移動の課題に関しては、従来のテクノロジーによって自動運転などで解決できるだろう。その他の課題解決に必要になってくるテクノロジーが、人間の体の拡張であると和田氏は述べる。視覚と聴覚については、すでにアバターロボットの活用などによって地球上のあらゆる場所に目と耳を置くことができるようになりそうだ。それ以外の五感に関して、触覚については最近になってリアルハプティクス技術を活用して、遠隔にあるロボットと人間が双方向にスキンシップをとりながら協調作業をする研究が進められるようになった。嗅覚や味覚に関しても、バイオテクノロジーとICTを融合させた研究がいろいろと進められている。「脳についても、徐々に外部からの測定でその人が考えていることが分かったり、考えるだけでロボットを操作できたりする研究が進んでいます。また、顔の表情や声のパターンを分析して、今その人がどういう気分でいるのかが分かる感情情報処理といった技術の研究も始まりました」(和田氏)。

遠隔操作で人の代わりにカフェで働く分身ロボット「 OriHime-D」
遠隔操作で人の代わりにカフェで働く分身ロボット「 OriHime-D」

 こうした、人間の感覚や思考に関する情報を、地球上のどこからでも送ったり受け取ったりできるインフラが構築されると、自分の身体が世界中に分散されてつながっているような感覚が得られるかもしれない。さらに、そのインフラを宇宙にも拡張させることで、地球にいながら気軽に宇宙旅行が体験できる新しいエンターテイメントも誕生するかもしれない。2022年は、そんな人類の新しい進化の一歩を踏み出せる年になることに期待したい。

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