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宇宙からの情報がより地球を身近に! 前編 JAXAとNTTが取り組む光・無線通信技術とは

2022年2月4日
宇宙からの情報がより地球を身近に! 前編 JAXAとNTTが取り組む光・無線通信技術とは
宇宙からの情報がより地球を身近に! 前編 JAXAとNTTが取り組む光・無線通信技術とは

これまでの宇宙開発は、アメリカやロシア、中国などが国家プロジェクトによって月探査などの大がかりな計画を実行してきた。一方で、近年では民間企業による、さまざまな宇宙ビジネスが注目されるようになった。そうした宇宙ビジネスを成功させる上でも重要になる課題が、どのようにして地上と宇宙を結ぶ高速・大容量の通信インフラを構築するかだ。今回はNTTと共同で、地上と宇宙を結ぶ光・無線通信インフラ実現に向けた研究を進めているJAXA(宇宙航空研究開発機構)の研究開発部門研究戦略部計画マネージャーの佐藤勝氏に、宇宙環境での通信インフラ構築に関わる取り組みや、その可能性について伺った。前編では、光通信などの無線通信技術の研究概要について紹介しよう。

宇宙にはすでに数多くの人工衛星が飛んでいる

人工衛星が打ち上げられている地球周回軌道は、大きく「低軌道」、「中軌道」、「静止軌道」の3つに分類される。「低軌道」は高度2,000kmまでの軌道で、衛星の周回周期が約90分と短いため地球観測などに利用されている。佐藤氏によれば、「日本のような中緯度帯の場合、低軌道の地球観測衛星と通信できる可視時間は10分から15分くらいしかないので、その間に通信をしなければならないという制約があります」という。「中軌道」は高度2,000kmから3万6,000kmまでの軌道で、地球上のより広いエリアをカバーできることから主にGPSやQZSSなどの測位衛星に使われている。「静止軌道」は高度3万6,000kmの軌道だが、その高度になると衛星が地球の自転と同じスピードで移動し、地球上から常に同じ場所に見えるようになるので、通信・放送衛星や気象衛星に使われている。

このように、地球から近い宇宙空間にはさまざまな用途の人工衛星が打ち上げられている。そうした人工衛星から送信される情報に加えて、地球以遠の月や火星などの宇宙探査に利用される宇宙機(宇宙探査機)などが収集する情報についても、今後増大することが予測される。そのため、宇宙空間においても、大量の画像やデータなどをより高速に伝送し活用する通信インフラが必要だ。また、宇宙ビジネスの拡大など、人類が宇宙空間へ活動範囲を広げていくためにも、宇宙の環境整備が重要になってくるだろう。

このような背景を踏まえ、NTTとJAXAは「地上と宇宙をシームレスにつなぐ高速大容量でセキュアな光・無線通信インフラの実現」や「宇宙利用や宇宙探査の飛躍的な高度化・活性化を基盤的に支えるキー技術の整備を目指す研究開発」に共同で取り組むことを、2019年11月に発表した(図1)。NTTが進める、光を中心としたネットワーク・情報処理基盤となる「IOWN(Innovative Optical & Wireless Network)」構想実現に資する「光・無線ネットワーク技術」とJAXAの豊富な「宇宙機のシステム構築技術」を掛け合わせることによって、災害に強い高速大容量通信インフラの提供や次世代の宇宙探査を可能とする自律的なエコシステム(生態系)の確立などを目指すのだ。

(図1)内閣府が描く「Society 5.0」(出典:内閣府の資料)
(図1)NTTとJAXAで進める高速大容量でセキュアな光・無線通信インフラが目指す世界観
(出典:NTTとJAXAの発表資料) cJAXA/NTT

地上と宇宙との通信で光が必要になってくる理由について佐藤氏は、「衛星からの情報は、電波を使って地上に送信されているのですが、電波は有限の資源であり高速・大容量の通信を求めると広い帯域が必要になります。一方で、光は電波と比べて桁違いに広い帯域を有するので、電波より多くの情報を送ることができます。こうしたことから、今後は光・無線通信を使って地上に情報を伝送する技術が重要になってきています」と語る。

光・無線通信を実現する3つの研究テーマ

NTTとJAXAによる光・無線通信インフラ実現に向けた取り組みの合意から2年が過ぎ、当初発表された共同研究テーマは、現在どのように進められているのだろうか。

1つ目のテーマ「低軌道衛星と地上局間通信の大容量化に向けた衛星MIMO技術の適用」は、送信機と受信機の双方に複数のアンテナを用いて通信の大容量化を実現するMIMO技術を、低軌道の衛星に適用させる研究だ(図2)。

(図2)衛星MIMO技術の適用イメージ(出典:NTTとJAXAの発表資料) cJAXA/NTT
(図2)衛星MIMO技術の適用イメージ
(出典:NTTとJAXAの発表資料) cJAXA/NTT

衛星通信では通信距離が長くなり、電波の伝わり方が地上とは大きく異なるため、携帯電話や無線LANなどで実用化されてきたMIMO技術をそのまま適用することが難しい。そこで、NTTが保有する受信タイミングや周波数誤差が異なる複数信号を分離する技術と、JAXAが保有する衛星軌道を考慮して通信容量を解析可能とする技術や低軌道衛星システム設計にかかる知見を組み合わせることで、低軌道衛星と地上局間における低軌道衛星MIMO技術を確立しようとしている。「現在、2022年度の打ち上げを予定している革新的衛星技術実証3号機の小型実証衛星3号機に搭載する装置を開発しており、この装置を使って軌道上で技術実証を行います」(佐藤氏)。

2つ目のテーマは、「超高速大容量宇宙光無線通信に向けた光増幅技術の適用」に関する研究だ。宇宙で運用される地球観測衛星や国際宇宙ステーション、月近傍のゲートウェイなどが収集する、大量の画像データなどの情報をより高速に伝送し活用するにはGbpsクラスの伝送容量の通信を実現する必要がある。そのために必要となる増幅器などの通信装置を、NTTとJAXAが持つ最先端の通信技術を組み合わせて開発しようとしている(図3)。「宇宙でこうした装置を利用する場合、宇宙放射線の問題はどうしても避けて通れません。現在、宇宙の放射線環境に耐えうるような装置の開発について、両者で検討しているところです」(佐藤氏)。

(図3)光増幅技術の適用イメージ(出典:NTTとJAXAの発表資料) cJAXA/NTT
(図3)光増幅技術の適用イメージ
(出典:NTTとJAXAの発表資料) cJAXA/NTT

3つ目のテーマ「次期衛星搭載に向けた観測用、通信用無線デバイスの効果実証」では、これまで観測が難しかった、高層大気中の氷雲の状況を観測し気候モデルの精度向上に貢献するために、テラヘルツ帯の無線デバイスによる効果実証を行おうとしている。そのために、NTTが持つテラヘルツ帯の半導体技術とJAXAが持つ衛星搭載用のテラヘルツコンポーネント技術を用い、300GHz帯の増幅器を製作して、それらが宇宙環境で使えるかどうかを検証する計画を立てているという(図4)。

(図4)衛星搭載用テラヘルツ帯(300GHz帯)の増幅器技術(出典:NTTとJAXAの発表資料) cJAXA/NTT
(図4)衛星搭載用テラヘルツ帯(300GHz帯)の増幅器技術
(出典:NTTとJAXAの発表資料) cJAXA/NTT

両者はこれら以外にも新しいテーマの立ち上げを検討しているという。また、JAXAは、NTTがスカパーJSATと構築を目指す「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」に関しても、宇宙データセンタなどを活用してコンピュータ処理した情報を、地上に送信するネットワーク実現に向けた検討に参加しているという。

JAXA研究開発部門研究戦略部計画 マネージャー 佐藤勝氏 cJAXA
JAXA研究開発部門研究戦略部計画 マネージャー 佐藤勝氏 cJAXA

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