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カゴメのエキスパートアドバイザー湯地氏が語る健康経営のポイント

2023年5月29日
話し手
  • カゴメ株式会社
    健康事業部 課長 兼 健康経営エキスパートアドバイザー
  • 湯地 高廣(ゆじ・たかひろ)

カゴメは「トマトの会社から、野菜の会社に」というビジョンを掲げ、野菜の加工品を中心に販売を行っているが、2018年に健康事業部を創設し、同社がこれまで培ってきた野菜に関する知見を活かしながら生活者の健康寿命の延伸に貢献するビジネスを開始した。その事業部に属する健康経営エキスパートアドバイザー 湯地高廣氏は、これまでセミナーや講演を数多く行ってきたほか、数多くの企業の健康経営をサポートしてきた。そこで、湯地氏に健康経営を成功させるためのポイントを聞いた。

カゴメ株式会社 健康事業部 課長 兼 健康経営エキスパートアドバイザー 湯地 高廣(ゆじ・たかひろ)氏
カゴメ株式会社 健康事業部 課長 兼 健康経営エキスパートアドバイザー 湯地 高廣(ゆじ・たかひろ)氏

健康経営の動向

まず、湯地氏に昨今の企業の健康経営への取り組み状況を聞くと、「健康経営のニーズは確実に高まっています。特に中小企業はリクルート効果、つまり、いい人材を集めるために健康経営に取り組まなければならないという背景があります。また、財政難の健康保険組合多く、健診データの改善に取り組まざるを得ないというのも理由としてあります」と述べた。

同氏によれば、健康経営に取り組む目的は、経営者側の立場からいえば、社員の満足度やモチベーションの向上、医療費の削減、事業リスクの軽減、企業価値・コーポレートブランドの向上、リクルート効果などがあり、従業員の立場でいえば、健康増進、個人の医療費負担の適正化、職場環境の快適化などがあるという。

健康経営に取り組むメリット(出典:カゴメ)
健康経営に取り組むメリット
(出典:カゴメ)

ポイントはコミュニケーション

健康経営に向けた活動としては、ハイリスク者への対応に加え、ポピュレーションアプローチ(集団に対して健康障害へのリスク因子の低下を図る方法)が増えているという。

「ハイリスク対応とポピュレーションを比べると、ポピュレーションも増えていると感じています。ポピュレーションアプローチをしっかりとやっていきましょうというのは、国の動きとしてもあります」(湯地氏)

そして、ポピュレーションアプローチに関して多くの健保組合が抱える課題は、無関心層をどう取り込むか、取り組み始めた活動をどう継続させるか、PDCAをどう回していてくかだという。

湯地氏は、これらの課題に対する有効な対策は、コミュニケーションだと語った。

「私が大事にしたいのは、ヘルスコーチングと継続定着です。例えば、自分の体重が少し減ったことを人に伝えることです。紙資料に手を動かして記録するのもいいですし、同じ部署内でチャットしたり、ランキング化するなどです。また、システムエンジニアの会社に多いのですが、画面を長く見て肩こりがあるといった時には、『頭の重さは6~8キロほどあって、ボーリングの球で言うと13ポンドぐらいです。それが1日中前に出て負担をかけている』いう話をすると、みなさん興味を持って隣の人に伝えたりします。こういったトリビアの要素を入れて伝えると、その人も腹落ちして、他の人に伝えたくなります」(湯地氏)

カゴメでは野菜摂取量をチームで競う参加型のモバイルアプリ「チーム対抗!ベジ選手権R」や野菜摂取量推定機「ベジチェックR」の普及を通じて『人に伝える』、『ランキング化する』といったことを実現している。

カゴメはアプリ「チーム対抗!ベジ選手権R」野菜摂取量推定機「ベジチェックR」の普及を進めている(出典:カゴメ)
カゴメはアプリ「チーム対抗!ベジ選手権R」野菜摂取量推定機「ベジチェックR」の普及を進めている
(出典:カゴメ)

「チーム対抗!ベジ選手権R」は、参加者が毎食の野菜摂取量を入力したり、野菜クイズに答えたりすることで獲得したポイントを、チームごとに合計して競い合う参加型の健康増進プログラム。このアプリを使って対抗戦形式で楽しんで参加してもらうことで、継続性を維持したり、改善効果を見える化できるという。カゴメ社内でも活用しており、社長含む参加社員のポイントやランキングも閲覧できるという。

もう一方の「ベジチェックR」は、センサーに手のひらを押し当てると約30秒で皮膚に蓄積されているカロテノイド量を測定することによって、野菜摂取レベルと推定野菜摂取量が分かる機器。カロテノイド量は、野菜を食べて、消化、吸収、蓄積されるまでおおよそ2~4週間かかるという。「ベジチェックR」のスコアは「チーム対抗!ベジ選手権R」のポイントにも影響する。

「まず、『誰かと一緒にやります』ということを宣言させること、そして自分がチャレンジしていることを他のメンバーに伝えること、あとは競い合うことによって、自分が努力しないと他のメンバーの足を引っ張ってしまうといった考え方を引き出せます」(湯地氏)

健康経営で考えておきたい視点(出典:カゴメ)
健康経営で考えておきたい視点
(出典:カゴメ)

他のIT活用で湯地氏が有効だと感じている方法は、「未来予測」と「検査キット」だという。

「『未来予測』は、健康診断のビッグデータから未来の疾病リスクを予測するというものですが、例えばこのままだと、3年後に倒れる確率がどれくらいなのかを出します。そういう予測を見ると、『健康は当たり前ではない』という恐怖観念が生まれ、人は行動変容します。『検査キット』は、例えば尿で測ってポストに入れたら、クラウド上に結果が表示されるといったものです。結果に対してはレコメンドやチャットボットで管理栄養士のアドバイスが聞けます。オンライン診療では、診療を無料にして、薬でマネタイズするものもあり、診療費で足踏みしていた人たちの行動が変わります」(湯地氏)

「検査キット」では、ダイコーホールディングスが健康管理アプリ「wellness-kun」(ウエルネスくん)を提供しており、従業員の健康をクラウドで一元管理することが可能で、検査結果を人工知能(AI)により解析して検査結果を検出する。一方の「未来予測」では、NECソリューションイノベータや日立製作所がソリューションを提供している。

NECソリューションイノベータの健診結果予測シミュレーションでは、過去の蓄積された定期健診データをAIで分析し、導き出した健診結果予測モデルを用いて、現状の生活を続けた場合の将来予測や、生活を見直した場合の将来予測を提供する。

NEC健診結果予測シミュレーションの予測結果(出典:NECソリューションイノベータ)
NEC健診結果予測シミュレーションの予測結果
(出典:NECソリューションイノベータ)

また、日立製作所の医療ビッグデータを用いたリスク分析ソリューション「Risk Simulator for Insurance」では、年齢や性別、糖代謝や肝機能、脂質などに関わる検査数値、生活習慣や既往症の有無など200以上の項目を入力すると、将来5年の間に発生する8大生活習慣病にかかる入院や医療費などを予測する。保険会社が既存の査定基準の見直し支援 や引受査定の自動化に利用したり、公的医療保険運営者が保健指導の計画支援や加入者への意識付け支援に利用しているという。

そのほか、愛媛県では、健診・医療・介護のビッグデータ(国保・協会けんぽ)を一元的に活用し、特定健診受診率の向上をはじめとする医療費適正化対策や健康寿命の延伸等に取り組むとともに、地域の特性に応じた疾病予防、健康づくり事業を推進している。

ビッグデータにより作成した高血圧の分布地図(出典:愛媛県)
ビッグデータにより作成した高血圧の分布地図
(出典:愛媛県)

健康経営成功のポイント

湯地氏にポピュレーションアプローチで成功している企業の特徴を聞くと、健康経営推進担当者自身が楽しんでいることが共通だと述べた。

「喫煙率が高いから、事業所全部を禁煙しようというのではなく、禁煙する代わりに喫煙所にゴルフのシミュレーション置くとか、囲碁や将棋ができようにするなど、『奪った分何か楽しみを作ってあげよう』みたいに、担当者自身が楽しんでいる企業は成功していると感じます」(湯地氏)

湯地氏に、今後、取り組んでいきたいことを尋ねると、同氏はカゴメの社員としての活動と、個人としての考えの2つを示してくれた。

「カゴメでの活動では、カゴメが持っている野菜に関する知見を社会に還元し、睡眠や運動で課題がある企業に対してソリューションを提案し、従業員自身がハッピーになるだけではなく、その家族も巻き込んで、世の中にウェルビーング(身体的・精神的・社会的に良好な状態)が当たり前の状態を作っていきたいと思っています。例えば、セミナーを実施したら、アンケートの満足度が高かったとか、ウォーキングキャンペーンに多くの人が集まったということだけではなく、その内容を家に帰って『こういうことをやると体に良いみたいだよ」と話したくなるような文化を作っていきたと思っています」(湯地氏)

その一つが「ナトカリ」という考え方だという。

「『ナトカリ』は野菜等に含まれるカリウムで、食事で摂ったナトリウム(塩)を排出しようという減塩の新たなアプローチです。野菜を摂ることは健康に良いというのはみんな知っていますが、よりターゲットをシャープにして高血圧の予防には野菜を食べましょうといったサービスを提供していきたいと思っています」(湯地氏)

湯地氏個人としては、ウェルビーングな社会を作っていくことが目標だという。

「健康経営や健康投資というのは、お金や予算がなくてもできる方法がたくさんあります。ポスターを手書きする、コラムを自分で編集して配信するなどは自治体にも転用できると思っています。自治体から、お金がないからやりたくてもできないみたいな声をたくさん聞くので、お金がなくても健康増進できる方法を広めていきたいと思っています。一つのヒントが生活動線や趣味に掛け合わせることです。趣味にお金を使っている人はたくさんいます。そこに健康を掛け合わせればいいと思っています。別にゴルフ場に何度も行ってくださいとか、そういう話ではなくて、ゴルフの動きを取り入れて体の使い方をコントロールするなどです。食事もそうですが、セルフマネジメントを高めると健康行動も高まることが分かっています」(湯地氏)

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