5Gが変える教育の未来

2021年6月14日

このコロナ禍において、小中学校では1人1台端末の用意と、学校における高速大容量な通信ネットワークの整備がほぼ完了した。ICTを活用した教育が本格的にスタートする2021年には、5Gの普及も進み、VR技術を活用したより臨場感のある教育の実現も期待される。GIGAスクール構想が目指す、「誰一人取り残さない」教育の実現に向け、5Gで教育現場がどのように変わるのかを解説する。

2021年はGIGAスクール元年

2021年4月から「GIGAスクール元年」ともいうべき、小中学校における一人一台端末環境下での学びが本格的にスタートする。GIGAスクール構想とは、「Society5.0時代を生きる子供たちに相応しい、誰一人取り残すことのない公正に個別最適化され、創造性を育む学びを実現するため、『1人1台端末』と学校における高速通信ネットワークを整備する」ものだ。本来は3年かけて実現する計画だった。しかし、コロナ禍で計画は前倒しとなり、2020年度中には、小中学校で1人1台端末と、学校における高速大容量な通信ネットワークの整備がほぼ実現した。文部科学省は、「StuDX Style」という特設サイトを作成し、GIGAスクール構想で整備された新たなICT環境を教育に活用する実践事例などを紹介している。

GIGAスクール元年 イメージ

5Gで臨場感あふれる教育が実現

ICTを活用する環境が整ったところで、日本は本格的な5G時代を迎える。これにより、教育のかたちが、大きく変わっていくことが期待されている。例えば、VRやARによる五感を使った、より臨場感のある体験型授業が実現する。社会科では、海外の世界遺産を、教科書の写真ではなく、実際に現場にいるかのような臨場感で体験しながら授業を受けることが可能になる。2018年12月には、沖縄県で三山時代の今帰仁城 (※注1) を再現した高精細な4KVRコンテンツを、5Gを使ってヘッドマウントディスプレイやタブレット端末などに配信する実証実験が行われた。当時は、現地を訪問した修学旅行生や地元の学生を対象に、5Gでのコンテンツ配信を行ったが、今後、5Gが全国に普及すれば、どこからでもこうしたコンテンツを利用することが可能になる。

臨場感のある体験型授業 イメージ

高精細の映像を活用した教育は、特に手を動かしながら教えたりすることが必要な分野で効果が大きいと期待される。文部科学省は、「令和2年度専修学校における先端技術利活用実証研究」において、調理師や看護師教育向けのVR教育プロジェクトを採択した。調理工程や、個々の調理の手法、食材の衛生管理などをVRで体験できるほか、複数人で作業を分担しながら行うグループ実習なども実施する。

反転学習に効果を発揮する5G

こうしたデジタルコンテンツは、何度でも繰り返して学ぶことができるため、反転学習の教材としても有効だ。反転学習とは「教室での授業」から「自宅での宿題」というような従来の教育プロセスを反転したものだ。反転学習では、まず、学生がオンデマンドで学習できるデジタル教材を利用して自習する。その上で、個々に合わせた指導や「アクティブ・ラーニング」と呼ばれる双方向の能動的授業によって理解を深めていくのが反転学習だ。従来、宿題として学生に委ねられていた知識の咀嚼と活用に重点を置くのが、反転学習の大きな特徴であり、知識を詰め込む教育ではなく、課題を解決できる人材を育成するためのツールとして注目される。

反転学習を効果的に実施するためには、5Gは欠かせないツールだ。オンライン授業を導入した大学でのアンケート調査では、オンデマンドのデジタル教材は場所と時間に縛られないため、「自分のペースで効率良く学べ」、対面授業よりも受講率と理解度が高いという結果が出ている。一方、ネガティブな点として、「目が疲れる」に続いて「ディスカッションがやりにくい」という回答が多い。学生がディスカッションに慣れていないという一面もあるが、通信帯域不足の問題が円滑なディスカッションを行う上での課題となっているのが現状だ。5Gが普及すれば、この問題は解決する。同様に、デジタル教材で高精細の画像を利用しても、5G回線があればダウンロードや配信に問題は生じない。

誰一人取り残すことのない教育の実現に向けて

GIGAスクール構想は、誰一人取り残すことのない教育の実現を目指す。この目的のためにも、5Gは大きな役割を果たすと期待される。高速、低遅延、そして多数同時接続が可能な5Gを活用すれば、例えば、1人の教師が複数の学校で一斉に授業を展開する事ができる。離島や僻地など、教員を確保することが困難な場所で、質の高い教育を実現するための手段として、遠隔教育は有力な選択肢だ。例えば新潟県では、離島の粟島と本土を結ぶ海底光ファイバーケーブルを、2022年3月までに敷設する計画が進んでいる。遠隔授業の実施のほか、無医村である粟島での遠隔医療サービスの実現を目指す。

2020年7月に、学校法人 仙台育英学園とNTTドコモ東北支社が、5Gの教育活用で連携することを発表したが、そのテーマの一つは、「距離・時間・空間を越えた新たな時代の教育現場実現へ向けた取組」である。在りし日の史跡の姿を、時間を越えて再現して伝える教育、そして、遠隔から誰でも参加できる教育、そんな新たな教育の姿が5Gで実現する日が近づいている。

※注1: 14世紀前半から15世紀前半までの約100年、古代琉球が、南部の南山(山南)、中部の中山、北部の北山(山北)の3勢力に分かれて争っていた戦国時代を、「三山(さんざん)時代」と呼ぶ。今帰仁城(なきじんじょう)は、沖縄本島北部から奄美地方までを支配していた北山王の居城。1416年に、中山を支配していた尚巴志(しょうはし)によって滅ぼされ、尚巴志による三山が統一され琉球王国が誕生した後は、琉球王府が派遣した看守役人の居城となった。城壁の長さは約1.5km。高さは最も高い所で8mあり、城全体の規模としては首里城に次ぐ大きさを誇る。

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