5Gと自動配送ロボットで「宅配クライシス」を解決

2022年2月4日

近年、物販系ECの拡大などを受けた配送需要の高まりを背景に、宅配業におけるドライバー不足が深刻化している。特に、最終拠点からエンドユーザーへの「ラストワンマイル」の配送を担うドライバーは、再配達問題もあり激務を強いられている。ドライバー不足や労働環境の改善に貢献し、さらには、新型コロナウイルス感染拡大による非接触型の配送需要の高まりにも対応するソリューションとして期待される、自動走行ロボットによる配送サービスの実用化に向けた動きを探った。

ギグワーカーでは解消できない「宅配クライシス」

フードデリバリーでは、注文後に数十分で自宅に商品が届くサービスが実現しているが、これは、ギグワーカーといわれる請負労働者の存在に支えられている。ギグワーカーの人数が多い都市部では有効でも、人手不足や高齢化がより深刻な地方では成立しない。また、都市部であっても注文が集中したり、荒天時にはサービスが利用できなくなることがある。

増え続ける荷物を消費者に配達するための労働力を継続的に確保することが困難である以上、宅配クライシスを根本から解消するためには自動化技術は必須といえる。「地域が抱える人口減少、高齢化、産業空洞化などの課題を、デジタルの力を活用することによって解決していく」ことを目指すデジタル田園都市国家構想の具体例として、自動配送やドローン宅配が挙げられるのはそのためだ。

2020年以降、民間による自動配送サービス開発が加速

このような状況で、ロボット開発や自動運転技術に強みを持つ企業は、積極的に自動配送ロボットの開発に取り組んでいる。特に、自動走行ロボットの公道実証基準・手続きが明確になった2020年秋以降に、パナソニックやホンダがロボット開発に本格着手するなど、民間の開発は一気に加速した。

川崎重工は、「近未来モビリティ」を注力分野に定め、2021年1月に自動搬送ロボットの開発部門を立ち上げた。また、「自動運転の民主化」をビジョンに掲げるティアフォーは、オープンソースの自動運転OS「Autoware」の開発と世界展開に注力する。この両社に損害保険ジャパンなどが加わり、ラストワンマイル配送事業の事業性や技術性を検証するための実証実験が、2021年11月から12月にかけて、東京都墨田区および江東区で実施された。同実験では、川崎重工とティアフォーがそれぞれ開発した2種類の自動搬送ロボットに「Autoware」を搭載し、介護付きホームや、在宅介護サービス利用者向けに医薬品や食品、日用品などの生活必需品の配送を行った。

川崎重工が開発した自動配送ロボット(出典:川崎重工プレスリリース) イメージ
川崎重工が開発した自動配送ロボット
(出典:川崎重工プレスリリース)

種類の違うロボットを同時に制御したり、多数のロボットを遠隔から操作するためには、高速で安定した通信環境が不可欠だ。また、ロボットが人にぶつかったりする事故を防ぐためには、低遅延の通信も欠かせない。携帯各社も、ラストワンマイルの配送サービスの実用化に向けた実証実験に積極的に取り組んでおり、5Gで自動走行ロボットを運用する実証実験も増えてきている。

オフィスから公園まで、携帯各社による自動配送ロボット実用化に向けた取組み

NTTドコモと都市再生機構は、2021年10月、横浜市・金沢シーサイドタウン並木一丁目第二団地において、自動配送・遠隔操作ロボットを活用した配送実証実験を実施した。高精度の自動運転、遠隔操作を実現するため、実証現場に5G環境を整備し、あわせて、ドコモの「docomo IoT高精度GNSS位置情報サービス」を利用した。これにより、位置精度1.5cm程度で配送ロボットを制御することができる。ロボットには360度全方位カメラも搭載し、高精細映像を高速伝送する。完全自律走行が困難な細い通路などでは、人が遠隔操作することで、配送ロボットをより幅広いシーンで活用する狙いがある。

ソフトバンクは、2021年1月から、ソフトバンク竹芝本社内のセブンイレブン店舗からオフィスの各階へ、スマートフォンから注文された商品をロボットが届ける実証実験を行っている。注文を受けたセブンイレブンの店舗スタッフが、自律走行型ロボット「RICE」に商品を詰めると、ロボットは注文者が待つオフィスエリアの入り口まで自動走行する。ロボットはエレベータと連携しているため、40階建てのビルのどこにでも商品を届けることが可能だ。ソフトバンクは、今後、ロボットの台数を増やし、より高度な運用の検証を進めていく予定だ。

RICEによる配送イメージ(出典:ソフトバンクプレスリリース) イメージ
RICEによる配送イメージ
(出典:ソフトバンクプレスリリース)

西新宿では、2022年1月より、KDDIによる5Gと自動走行ロボットを活用した配送サービスの実証実験が始まった。KDDIがティアフォーや損保ジャパンなどと実施する同実証では、『「ヒトが移動する」街から「モノが移動する」スマートシティへ』をテーマに自動走行ロボットがホテルから公園まで飲食物を届けるなどの実験を行う。

法案成立で、実用化に向けた動きはさらに加速

このような自動配送ロボットによるサービスが実用化されれば、人手不足の解消のみならず、配達用車両や配達用バイクの削減を通じた渋滞緩和などの効果も期待できる。一方で、実用化に向けては、通信環境の整備のみならず、道路のバリアフリー化や、歩車未分離の公道における安全管理といった課題を解決する必要がある。

現在、自動走行ロボットなどを活用した配送サービスの早期実現に向けた関連法案の準備が進んでおり、2022年中にも成立する見込みだ。制度が整うことで、自動配送ロボットの実用化に向けた民間の取組みもますます加速することが予想される。5Gやロボットなどの最新技術により、宅配クライシスが解消される日が一日も早くやってくることを期待したい。

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