光技術でカーボンニュートラルの実現に貢献するIOWN構想

2022年2月18日

脱炭素という世界的な潮流を背景に、IOWN構想の実用化に向けた技術開発が加速している。IT関連の消費電力量が爆発的に増加し、エレクトロニクス(電子)技術の限界を超える技術革新が求められる今、「次世代の通信・コンピューティング融合インフラ」としてのIOWNへの期待は高い。NTTグループ、そして世界の脱炭素の実現に不可欠なIOWNの実用化に向けた動向を追った。

ムーアの法則では追いつかない? 爆発的に増加するIT関連の電力消費

IoTやビッグデータ、AIの利用拡大によりデータ処理量の増加が加速度的に進み、通信ネットワーク設備やデータセンターの消費電力が急増している。シスコシステムズは、月間のデータ通信量(IPトラフィック)は、2017年から2022年までの5年間で3倍に増え、396エクサバイト(1エクサバイトは、10億ギガバイト)に達すると予測する。データ量が増えれば、処理に必要な計算量も増加し、結果としてより多くの電力を消費する。科学技術振興機構の低炭素社会戦略センターによる試算では、現状のまま省エネ対策がなされない場合、世界のIT関連の消費電力量は、2030年に2016年の5000倍に急増するという。

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また、過去50年にわたって情報通信産業を支えてきたムーアの法則の限界も取りざたされている。これまでは、CPU性能が1年半から2年で2倍になることで、電力消費の増加をある程度抑制することができた。しかし、今や半導体の微細化技術が物理的な限界を迎えつつあり、同時に、データ処理量がムーアの法則による性能進化では吸収しきれない勢いで急拡大している。

光技術を活用するIOWN構想で現在の技術の限界を克服

迫りくる限界を克服し、データ処理能力の拡大と電力消費の削減を両立させようとするのが、NTTが2019年に発表したIOWN構想だ。IOWNは、Innovation Optical and Wireless Networkの略称で、光電融合技術と光通信技術の開発による「次世代の通信・コンピューティング融合インフラ」を実現し、情報の伝送だけではなく、メモリや演算も、電子ではなく光で実施することを最終目標に掲げる。2030年頃の実現を目指し、低消費エネルギーという特徴を持つ光技術を、5Gの次の世代であるBeyond 5G/6G時代の通信・コンピューティング基盤として活用しようとする構想だ。

IOWNは、大きく3つの技術要素から構成されるが、なかでも、圧倒的な低消費電力、高品質・大容量、そして低遅延の伝送を実現するためにかかせないのが、オールフォトニクス・ネットワーク(All-Photonics Network: APN)だ。IOWN構想では、APNにより、ネットワークから端末まで、すべてにフォトニクス(光)の技術を導入し、現在のエレクトロニクス(電子)の技術では困難な、「電力効率100倍」、「伝送容量125倍」、そして「エンド・ツー・エンド遅延200分の1」という、圧倒的な技術革新を目指している。

このブレークスルー実現の鍵となるのが、エレクトロニクスとフォトニクスを融合させた光電融合技術だ。電子回路は、性能の上昇にともない消費エネルギーが増え、発熱する。しかし、光は処理が高速になっても消費エネルギーはほとんど増えない。そのため、回路の中の処理を光で行うことができれば消費エネルギーと発熱を抑制することができる。しかし、光はどこでも通ることができるため、集積回路に閉じ込めることが難しい。NTTは、ナノフォトニクス技術で光を集積回路に閉じ込めることに成功し、これが、IOWN構想の実現に向けた大きな一歩となった。

オールフォトニクス・ネットワークが実現する新たなeスポーツ体験

NTTは、2021年11月に開催されたR&Dフォーラムで、エンド・ツー・エンドで100Gbpsを実現するようなAPNの実証環境を用意し、大容量、低遅延、そして遅延揺らぎゼロの通信回線をeスポーツで実証した。東京と大阪にいるプレーヤーがeスポーツで対戦する時には、物理的な距離の違いによりネットワーク遅延の度合いに違いが生じる。これが遅延ゆらぎだ。11月の実証では、大阪側にクラウドサーバーが用意されたため、東京にいるプレーヤーの通信には、大阪と東京間の光ファイバー長である約700kmの伝送にともなう往復約7ミリ秒の遅延が発生する。遅延ゆらぎを測定し、APNでどこでも同じ遅延となるように調整することで、フェアなプレー環境を実現することができるのだ。

eスポーツイベントへのAPN技術の適用イメージ(出典:NTTニュースリリース) イメージ
eスポーツイベントへのAPN技術の適用イメージ
(出典:NTTニュースリリース)

カーボンニュートラルの実現に不可欠なIOWN

こうしたIOWNの実用化に向けた技術開発を後押しするのが、脱炭素に向けた動きだ。NTTは、新たな環境エネルギービジョン「NTT Green Innovation toward 2040」を策定し、2040年度までにカーボンニュートラルの実現を目指す。GHG排出量の削減のうち、45%をIOWNによる電力消費量の削減により実現する方針だ。このゴールを達成するためには、2030年ではなく、2026年頃からIOWNの実用化を進めていく必要があるという。

NTTでは、2024年に最初のIOWNデバイスを開発し、25年にシステム開発を完了させ、26年から商用導入を開始する計画を立てている。そして2030年には、消費電力が大きいデータセンターとモバイルネットワークの脱炭素を達成することを目指す。日本全体の電力需要の約1%を消費するNTTにとり、IOWNはグループの脱炭素目標を達成するために欠かせない技術なのだ。もちろんIOWNが普及すれば、NTTグループのみならず、世界の脱炭素に大きなインパクトがあるだろう。2030年に向けた技術開発の動きに注目だ。

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