5Gと気候変動

2021年6月28日

5G時代には、データ通信量が増加することで消費電力も増加する。しかし、地球温暖化対策の国際枠組みである「パリ協定」の目標達成には、電力消費による温室効果ガス(GHG: Greenhouse Gas)排出量を抑えることが必要だ。基地局の消費電力削減など、5Gが社会にもたらす様々なメリットを享受しつつ、気候変動リスクを緩和するために不可欠な取組みの現状を探る。

5G時代には、通信量の増加とともに電力消費量も増加

自動運転やスマートシティの実現は、利便性の向上に加え、省エネやエネルギー効率の向上を通じた温室効果ガス(GHG)排出量にも貢献する。5G、そして、その先のBeyond5G、6G技術は、こうした社会を実現するために不可欠なインフラであり、気候変動対策という観点からも重要である。一方、データ処理量が増えれば、その分、電力消費量も増えることになる。中国電信が深?市で行った実証実験では、5G基地局の消費電力は、4Gの基地局の3~4倍であるという結果が出た。5Gでは、同じエリアをカバーするために必要な基地局の数が4Gよりも多いことを踏まえれば、実際の消費電力はさらに大きくなるとみられる。総務省が発表したBeyond 5G推進戦略では、省エネ対策が講じられないと仮定した場合、2030年のIT関連の電力消費量は、2016年の36倍に達すると試算されている。

地球温暖化 イメージ

フランス政府の諮問機関は、無制限のデータ利用や頻繁な機種変更に警鐘

フランス政府の独立諮問機関である気候高等評議会(HCC)は、5Gが広く普及すれば、温室効果ガス(GHG)排出量が今後10年間で増える可能性が高いと警告している。HCCの試算には、データ通信量の増加にともなう電力消費増に加えて、5Gに対応した新たなスマートフォンの製造や、通信インフラやデータセンターの建設により発生するGHG排出量も計算に入れられている。

HCCは、無制限のデータ利用が可能なモバイル定額料金を禁止し、データ利用料に比例する従量制料金設定を義務付けることなどを提言している。また、特にGHG排出量が多いとされるスマホの製造・流通過程については、新規購入を抑制するため、リサイクルや修理された製品の購入に対して低減税率を適用することや、海外から輸入された端末には、環境コストを反映する炭素税を導入することなどを提言している。実際、フランス政府は、Apple社が旧機種のiPhoneの性能を意図的に低下させたとされる事例で、2020年に同社に約30億円の罰金を課しており、短期的に機種変更を促すような商業行為に対して厳しい目を向けている。

電力消費削減に向けた通信事業者やインフラ事業者の取り組み

通信事業者にとっては、基地局の消費電力を削減することが重要となる。例えばNTTドコモは、1年間に約30億キロワット時(kWh)の電力を消費しているが、その約7割が基地局関連である。NTTドコモは、2030年までに、トラフィックあたりの電力消費量を、2013年に比べて10倍効率化させる目標を掲げている。同社は、基地局の消費電力を抑える取り組みとして、ソーラーパネルと蓄電池を備え、ソーラーパネルで発電した電力を夜間や停電時にも使える「グリーン基地局」を展開している。

グリーン基地局 イメージ

フィンランドのNokiaは、2021年3月、5G基地局の電力消費量を2023年までに半減すると発表した。同社は、2030年までに温暖化ガス排出量を41%削減する目標を掲げており、基地局の電力消費削減は目標実現に向けた取組の一つだ。Nokiaの「AirScale 5G mMIMO Base Station」では、最新のチップセットを使ったMassive MIMO技術とソフトウエア機能改善により、従来の基地局と比較して消費電力を抑えている。今後は、次世代のチップセットの採用や、さらなる電力消費量最適化を可能にする高度なスリープモード機能の開発により、電力消費量半減の達成を目指す。

スリープモード、つまり、トラフィック量などに応じて柔軟に基地局機能の電源をオンオフする技術により、消費電力を削減しようとする取組は通信各社で進んでいる。例えばEricssonは、「MIMO Sleepモード」という機能を開発している。複数のアンテナがある基地局で、トラフィックが少ない夜間に、一部のアンテナの電源をオフにして、電力消費を抑える仕組みだ。EricssonとVodafoneは、機械学習により最適な時間にMIMO Sleepモードを適用できるように設定する実験をポルトガルで行い、各基地局の電力を平均14%削減することに成功した。

5Gにより社会が享受するメリットは大きいが、電力消費の増加というデメリットも存在する。特に、発電の8割以上を石炭やLNGなどの化石燃料に依存する日本においては、通信インフラにおける電力量費の削減は、GHG排出量の削減に直結する。2050年にカーボンニュートラルを達成するとの政府目標の実現に向け、通信各社の取組が注目される。。

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