5Gとロボットで進化する医療の未来

2021年7月30日

2021年に入り、5Gや手術支援ロボットを利用した実証実験が続々と実施されている。遠隔にいる熟練医からアドバイスを貰いながら診察を行う、あるいは、遠隔から手術そのものを行うことが現実になる日が近づいている。このような技術が実用化されれば、医師が大都市圏に集中する「医療の偏在」と「医療格差」の解消に、大きく貢献すると期待される。そうした未来の遠隔医療の実現に向けた最新の取組みや現状を探った。

5Gで病院をつなぎ、専門医による遠隔医療を実現

5Gの高速・大容量の通信能力を、遠隔医療に活用する動きが日本でも本格化している。2021年1?3月には、長崎大学病院やNTT西日本などが、長崎県の五島中央病院にローカル5Gを構築した。五島中央病院での診療の状況を、4Kカメラなどを使って4K内視鏡や部屋全体を撮影し、ローカル5Gと光回線を使いリアルタイムに長崎大学病院に伝送する実証実験が行われた。4K内視鏡カメラで送られてきた高精細画像を利用することで、従来は食道炎と見分けることが困難な食道がんを発見するなどの成果が得られたという。

5月には、高知赤十字病院の消化器内科内視鏡室で行われた内視鏡検査の4K映像を、神戸大学医学部附属病院国際がん医療・研究センターと香川大学医学部付属病院にリアルタイムに伝送する実証実験が行われた。同実験では、4Gを6回線束ねた5Gと同等レベルの携帯電話回線が利用されたが、内視鏡の映像だけでなく、医師の手元を映した映像も遅延なく伝送することに成功した。

遠隔医療 イメージ

こうした試みは、離れた場所から医師の診察を受ける「オンライン診療」の一歩先を行く。医者と患者が通信回線を通じてやりとりするオンライン診療は、問診レベルのやりとりであれば、従来の4Gでも十分対応可能だ。しかし、患者と向き合っている医師と、より詳しい知識や経験を持つ医師とを、より高性能な通信でつなぐことができれば、高度な専門知識をもつ医師のいる医療機関へアクセスすることが容易になる。専門的な医療を受けにくい状況にあった人にとって、これは大きな助けとなる。ただし、遠隔地にいる専門医から正確な助言を受けるためには、医療機器から出力される高精細な映像や画像データなどを双方で共有する必要があり、5Gが重要な役割を担うことになる。

手術支援ロボットを遠隔操作、5Gが実現するオンライン手術

遠隔からアドバイスを送るだけではなく、ロボットによる遠隔手術の実現に向けた実証実験も始まっている。2021年4月には、メディカロイドが開発した国産の手術支援ロボット「hinotori サージカルロボットシステム(以下、ヒノトリ)」を利用し、模擬手術を行う実証実験が行われた。同実験では、神戸大学医学部附属病院国際がん医療・研究センターと、統合型研究開発・創出拠点(神戸国際医療交流財団が運営するラボ施設)を結び、遠隔操作に必要な高精細な手術映像とロボットの制御信号をリアルタイムに伝送することに成功した。中国では、2019年にブタを使った実験で、5Gを利用した遠隔操作外科手術が行われているが、商用5Gネットワークを介した手術支援ロボットの遠隔操作の実証実験は世界初となる。

オンライン手術 イメージ

手術支援ロボットとしては、これまで米国インテュイティブ・サージカル社の「ダヴィンチ」が主流であったが、同社の特許の多くが2019年に満了となったことで、さまざまな開発が世界中で進んでいる。ヒノトリもその一つで、2020年8月に、国産としては初めて製造販売承認を取得した。このようなロボットの開発、そして、5Gが普及することで、遠隔地にいる患者をオンラインで手術できる環境が整いつつある。

課題を解決し、「医療の偏在」と「医療格差」の解消へ

制度面でも、例えば、ロボット支援手術の保険適用拡大で、前立腺がんや腎臓がん、肺がん、直腸がん、胃がん、膵臓がん、胆管がん、十二指腸がんなどが保険対象となるなど、遠隔医療や遠隔手術の実現に向けた整備は進みつつある。また、厚生労働省が2019年7月に改定した「オンライン診療の適切な実施に関する指針」で、遠隔手術を数年以内に解禁・実用化する方針が示されている。しかし、医療保険から医療機関に支払われる診療点数について、現状では直接、患者に接している医師にしか診療点数が入らないなど、遠隔医療や遠隔手術の実現に向けた課題は未だに多い。

「医療の偏在」と「医療格差」 イメージ

技術面でも課題がなくなったわけではない。今後、スタンドアローン式の5G回線が普及し、5Gの特徴の一つである低遅延が実現すれば、遠隔手術の安全性は高まると考えられるが、それでも手術を行っている最中に回線品質が劣化したり、何らかの原因で情報がうまく伝達できなくなるリスクへの備えも必要だ。制度面の整備とあわせ、今回紹介したような実証実験を積み重ね、こうした課題を一つひとつ解決していくことで、安全な遠隔手術が実現する日が近づいていくだろう。

医師が大都市圏に集中する日本においては、「医療の偏在」と、都市と地方との「医療格差」が深刻化している。手術を受けたくても、医師不足が原因で叶わないというケースも生じている。上記の実証実験が行われた長崎県には、971の島があり、そのうち51島に人が住んでいるが、専門医へのアクセスが大きな課題となっている。5Gは、このような課題の解決に大きく貢献できる技術だ。全国に5Gが普及することで、どこからでも専門医のアドバイスを受けたり、熟練医が操作するロボットによる手術を受けられる日が一日も早く到来することを期待したい。

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