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ローカル5Gが疲弊する医療現場を救う! 先端技術で実現する医師の働き方改革

2022年3月4日

「3時間待ちの3分診療」などと批判されることもある日本の病院。その背景には、医師や看護師などの処理能力を患者数が上回るという実態と、長時間労働で疲弊する医療現場がある。ローカル5Gやスマートグラスを活用し、このような課題を解決しようとする取り組みが、昨年12月に川崎市で始まった。聖マリアンナ医科大学やNTTドコモなど4者コンソーシアムによる実証実験では、病院内にローカル5G環境を構築し、多数対多数の高精細映像伝送やAIを活用したX線画像診断などの検証が行われた。医師の負担を軽減し、救急医療体制の強化を目指す取組みを紹介する。

通信エリアを柔軟に構築できるローカル5Gが活躍する医療現場

今回検証されているシステムの一つが、360 度カメラを活用した映像共有と、スマートグラスを利用した医師の手元映像の共有だ。360度カメラで、患者のバイタルモニターや、経過を記載したホワイトボードなどを撮影し、関係者で情報を共有するとともに、救急医療室で治療に当たる医師がスマートグラスを装着し、患者の様子を、院内の医師にローカル5Gで配信する。

実証実験では、NTTドコモの支援により、聖マリアンナ医科大学に基地局を設置し、専用のローカル5G環境を構築した。病院でローカル5Gを利用することには、いくつかのメリットがある。まず、ローカル5Gは、病院で使われている医療機器や、現在利用されているWi-Fi とは異なる周波数を利用しているため、電波干渉の可能性が低い。また、病院は、X線防護のために壁に鉛板が仕込まれているような特殊な環境であり、ドアを閉めると電波が入らなくなるようなケースも多い。そのため、通信エリアを柔軟に構築できるローカル5Gが有効だ。直進性が高く、廊下の曲がり角や物陰などで電波が届かない不感地帯が生じてしまうという課題に対しては、電波を反射する反射板を設置し、必要な場所を漏れなくカバーできるように5Gエリアを構築した。

通信エリアを柔軟に構築できるローカル5Gが活躍する医療現場 イメージ

360度カメラとスマートグラスで医師の運用を効率化し、タイムロスを最小限に

緊急搬送されてくる患者にどのような治療が必要になるか、事前に全てを把握することはできない。そのため、重症外傷患者や傷病者を受け入れる時には、どのような状況にも対応できるよう、多くの医師やスタッフが招集されるのが一般的だ。救急医療現場では、数人の患者に対し50人以上の医師やスタッフが招集され、スタッフ間での情報共有に支障をきたすこともあるという。担当科での通常業務を離れ、必要かどうか分からない救急医療のために待機することが、医師の長時間労働の一因となっていた。

今回検証したシステムでは、医師は自分の担当科での業務を続けながら、360 度カメラとスマートグラスを通じて配信される情報を確認し、自分が救急医療室に行く必要があるか、あるいは、どのタイミングで行くべきかを判断できる。現場にいる医師やスタッフの数を最小限にとどめ、医師の現場滞在時間を削減するとともに、医師の長時間労働を減らす効果が期待されている。

360度カメラとスマートグラスで、効率的に情報共有(出典:NTTドコモプレスリリース) イメージ
360度カメラとスマートグラスで、効率的に情報共有
(出典:NTTドコモプレスリリース)

また、院内をストレッチャーで移動する救急患者の映像を撮影し、別の場所にいる医師のタブレットへ 5Gでリアルタイム配信する検証も行われている。従来は、患者の容体急変に備え、多数の医師や看護師が付き添っていた。5Gで患者の症状をリアルタイムに医師と共有し、緊急時に対応できる体制を整えることで、医療行為を行えないスタッフだけで患者の移動を安全に行うことができる。ICUから血管撮影室への移動中など、医師が少ないエリアへの移動時に活用することを想定したもので、遠隔で医師が見ているとわかれば、移動を担当するスタッフの精神的負担も減るだろう。移動先で待機している医師に患者の状態が伝われば、治療開始までの時間も短縮できる。

360度カメラとスマートグラスで医師の運用を効率化し、タイムロスを最小限に イメージ

AIとローカル5Gで適格な診断を担保しつつ、医師の負担と患者の待ち時間を削減

重症患者には、呼吸維持や生命維持のため気管内チューブなどの器具が装着されている。このような器具が正しい位置にあるかを確認するためには、X線画像を利用する。通常、気管内チューブ位置の確認のためだけにX線画像が撮影されることはない。そのため、医師は、本来の診断に加えて、気管内チューブの位置確認のため、二重でX線画像を確認し、画像診断を行っている。実証では、モニターに映し出したX線画像を4Kカメラで撮影し、クラウド上のAIシステムで自動判定する。4Kカメラとローカル5Gを活用することで、AI 解析に必要な解像度での映像伝送が可能となるため、診断の正確さを担保しつつ、医師の負担と患者の待ち時間削減を実現する試みだ。

気管内チューブなどの位置をAIで自動判定(出典:NTTドコモプレスリリース) イメージ
気管内チューブなどの位置をAIで自動判定
(出典:NTTドコモプレスリリース)

深刻化する医者の長時間労働もローカル5Gが解決

今回の実証では、これ以外にもローカル5Gを活用した遠隔 CT 画像の共有や大容量 X 線動画データの転送の検証が行われている。このような取組みの背景には、日本の医師の長時間労働が大きな問題となっていることがある。医師の働き方改革を議論する厚生労働省の検討会では、「3.6%が自殺や死を毎週または毎日考える」、「6.5%が抑うつ中等度以上」など、医師が置かれた過酷な状況が赤裸々に報告され、2024年4月からの時間外労働の上限規制の導入につながった。

とはいえ、その内容は、一般の勤務医は、時間外労働時間の上限を年960時間に、そして、地域医療のためにやむを得ない場合や、研修医や専門医をめざす医師など技能向上のための診療が必要な場合には、特例で年1860時間まで認めるというものだ。健康障害リスクが高まるとする時間外労働時間の「過労死ライン」は、1カ月あたり80時間とされる。これを単純計算すると、年間960時間であるから、医師の長時間労働の深刻さが分かるだろう。

深刻化する医者の長時間労働もローカル5Gが解決 イメージ

コロナ禍で疲弊した医療現場のサポートにも活躍するローカル5G

新型コロナウイルスの感染拡大が長期化し、最前線で闘う医療従事者の疲弊感はこれまで以上に高まっている。2022年1月には、濃厚接触者となった医療従事者でも、無症状で毎日の陰性確認等の要件を満たせば医療業務に従事することが可能となったが、今回検証されているような技術を活用すれば、感染リスクを抑えつつ、救急医療体制を強化することが可能になる。

高齢化の進展や、大規模災害、新興感染症の拡大など、救急医療に求められる役割はますます大きくなる。医師の負担を抑えつつ、緊急事態に対応できる救急医療体制を構築するためには、今回検証しているような先端技術の活用が欠かせない。4 者コンソーシアムでは、今後、実証実験の結果を踏まえて聖マリアンナ医大病院へのシステム本格導入を行うとともに、地域医療への反映・普及を目指すという。5Gなどの先端技術の活用により、全国の医師の負担の軽減と、医療体制の強化が早期に実現することを期待したい。

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