• HOME
  • Beyond X 最前線
  • サトウキビの栽培から収穫、製糖までを効果的に連携させるスマート農業

サトウキビの栽培から収穫、製糖までを効果的に連携させるスマート農業

2022年6月3日

2022年2月、鹿児島県の南西諸島、奄美群島に位置する徳之島において、クボタやNECなど5者による、サトウキビ栽培のスマート化を目指す実証実験が始まった。徳之島では、2016年からクボタの営農支援システム「KSAS」が導入されるなど、以前からスマート農業の実現に向けた取組みが行われていた。山がちな地形で、耕地面積の狭い小規模農家が多い日本では、米国などで展開されている、大規模な農地に最適化されたスマート農業の仕組みがそのまま適用できるとは限らない。徳之島という離島において、また、サトウキビという、収穫後の取り扱いに注意が必要な作物を対象とした実証実験からは、日本のスマート農業が進むべき道のヒントが得られるのではないだろうか。離島でのサトウキビ栽培にはどのような課題があり、スマート化によってそれがどう解決されるのか、現地の様子を探ってみた。

機械化と営農支援システム活用で効率化が進むサトウキビ栽培

砂糖の原料であるサトウキビ。スーパーで見かける1kgの砂糖は、およそ8本のサトウキビから作られる。日本国内のサトウキビ生産は、ほぼ全てが沖縄と鹿児島県の南西諸島で行われており、徳之島は、南西諸島でも有数のサトウキビ生産地だ。一方で、徳之島の農業就業人口の約6割が65歳以上と高齢化が進んでおり、農家戸数は年々減少傾向にある。島の基幹作物であるサトウキビ栽培の活性化のためには、データを活用した効率化や、スマート農機やドローンを活用した省人化が求められる状況だ。

今回の実証実験に参加する南西糖業は、かねてから収穫作業の機械化や、営農支援システムの活用を進めてきた。現地で2つの製糖工場を運営する南西糖業は、自社農場で栽培したサトウキビに加えて、協力農家のサトウキビを買い上げ、製糖を行っている。徳之島では、農機を所有しない小規模農家が多いため、このような農家から収穫などの機械作業を請け負っており、2020/2021年の収穫では、収穫作業のほぼ全てがハーベスター(収穫や伐採を行う農業機械及び林業機械の総称)で行われるまでに至っている。

サトウキビ収穫の様子(出所:クボタ プレスリリース) イメージ
サトウキビ収穫の様子
(出所:クボタ プレスリリース)

しかし、農家からは直前に作業の依頼をされることも多く、そのたびに現場に出向いて畑の場所や現状確認をする必要があった。農地の場所によっては、片道40kmかかる場合もあり、時間と費用が発生していた。また、かつては紙の台帳の地図を色分けして圃場管理をしていたが、これも大きな作業負担だったという。そこで、南西糖業では、クボタの営農支援システム「KSAS」を導入した。「KSAS」は、電子地図による圃場管理や作業の記録、収量の分析などの機能を有する、農場経営を見える化ツールだ。導入以前は、調査員を雇用し、栽培の有無や生育状況等の調査を行っていたが、ドローンによる撮影を行い、位置情報を地図に関連づけて、「KSAS」と組み合わせて使うことで、効率化を図ってきた。

収穫したらすぐに製糖! 劣化を防ぐには、農地と工場の連携が不可欠

2022年2月から始まった実証実験では、このような効率化に加えて、サトウキビ栽培の課題である、収穫作業と製糖作業の連携を目指す。サトウキビは、一度製糖してしまえば、長期保存が可能なため、消費地から遠い離島などの生産に適した作物といえる。しかし、収穫後のサトウキビは、すぐに製糖しないと、糖度が落ちて品質が劣化してしまう。農地で収穫されたサトウキビは、すぐに製糖工場に運び、「原料糖」に加工する必要があるのだ。

収穫したらすぐに製糖! 劣化を防ぐには、農地と工場の連携が不可欠 イメージ

これまでは、島内に広がるサトウキビ農地のどこで、どのくらいの規模の収穫作業が発生するのかについて、タイムリーに把握・共有することができていなかった。製糖工場では、いつどのくらいの量のサトウキビが搬入されるかを予測することができないため、サトウキビの劣化を防ぐために長時間操業したり、逆に、サトウキビが搬入されるまでの待機時間が発生するなどの影響が出ていた。今回の実証実験では、収穫作業を行うハーベスターの稼働情報を「KSAS」に送信し、ハーベスターの位置情報や稼働時間のデータを収集する。このデータから収穫作業の進捗状況を把握し、島内2ヵ所の製糖工場に、いつ、どのくらいのサトウキビが搬入されるかを正確に予測することで、製糖工場の効率的な稼働の実現を目指す。

収穫期のみならず、生育状況の把握や収量予測にもICTを活用

単収向上には、生育初期の状況を迅速かつ的確に把握し、必要に応じて補植などの追加作業を行う必要がある。しかし、徳之島では、高齢などで離農した農家や島外へ転出した不在地主による農作業の外部委託や農地貸出も増加しており、これが管理不足による単収の低下の原因となっている。

今回の実証実験では、NECの農業ICTプラットフォーム「CropScope」を活用し、衛星やドローンで撮影した画像のAI解析などによる初期生育状況の把握や収量予測を行うことで、このような課題の解決を図る。衛星やドローンを利用することで、これまで、多大な労力と時間をかけて目視で行っていた生育状況の確認を省力化し、「CropScope」で分析することで、圃場ごとに、気象や土壌などの最新の情報や病害リスクを確認できる。さらに、複数圃場の生育や収穫量、品種や営農のデータを組み合わせて比較することにより、次の栽培に向けて改善施策を検討することも可能だ。圃場管理が改善することができれば、雑草等の夾雑物の混入による製糖工場の歩留低下の予防にもつながる。

収穫期のみならず、生育状況の把握や収量予測にもICTを活用 イメージ

植付から栽培、刈取、製糖まで、一連の作業が有機的に結びついているサトウキビ栽培。人出不足の中で、効率化と生産性の向上を実現するためには、全てのプロセスにおいてデータを収集し、データに基づいて全体最適の農業を実現する必要がある。2年間の実証期間を経て、徳之島のサトウキビ農業がどのような進化を遂げるのか、期待したい。

「未来図メディア」メールマガジン登録

5G×IoTの最新情報やイベント・セミナー情報を
いち早くお届けします。

ミライト・ワンのソリューションに関するご質問、ご相談など
ございましたらお気軽にお問い合わせください。

ページトップへ