地元愛が鍵となる地方都市のスマートシティ化

2022年7月8日

建築物や道路の配置、土地の区画整理など、ハードウェアの整備を中心に進められてきた従来の都市計画。一度作られたハードウェアは、時代にそぐわなくなっても簡単には取り壊せない。そこで、さまざまな都市の課題を、最先端のICT技術の活用で解決するスマートシティに注目が集まっている。スマートシティが解決するのは、大都市が抱える課題だけではない。人口10万人以下の中小規模の地方都市も、スマートシティ化によって解決できる課題がいろいろとありそうだ。

ICTを活用した官民連携プロジェクトに取り組んできた山梨市

地方都市は、規模や人口、地理や気象、自然環境などの状況によって、抱える課題や直面する問題はさまざまだ。また、時代とともに変化する価値観やニーズにも柔軟な対応が求められる。スマートシティの命題についても、その地域に応じて個別に捉えることが必要だ。例えば、地方が抱える課題としては、鳥獣被害や小規模河川及び農業用水の管理、道路の損傷具合の把握、過疎地区における市民サービスの維持などで、都市部ではあまり問題にならない対象に多くの費用やマンパワーがかかっている。

NTT東日本と連携し、自営無線ネットワークを活用した地域版スマートシティへの取り組みを本格化すると発表した人口3万5000人ほどの山梨市も、そういった課題を抱えている地方都市の1つだ。

ブドウやモモなどの果樹農業を基幹産業とする山梨市とNTT東日本は、2017年から官民連携のプロジェクトとしてスマート農業に取り組んできた。自営無線ネットワーク「LPWA」の基地局を整備し、シャインマスカットの生産農家の圃場に、温湿度や照度などの環境データを取得できるセンサーを設置。農業従事者が自宅や外出先などから、それらのデータを確認できる仕組みを構築している。2018年からは自治体の防災対策として、市が管理する河川や土砂災害の特別警戒地域の一部にもセンサーを設置し、災害時の状況確認や定期巡回稼働の低減など、市域情報を効率的に把握できる仕組みを構築している。

山梨市とNTT東日本は、こうして活用してきた自営無線ネットワークを、さらに地域の福祉分野における課題解決にも発展させると発表。2020年11月から、地域版スマートシティとして本格展開している。

(図1)山梨市とNTT東日本によるスマート農場からスマートシティへの取り組みの経緯(NTT東日本の発表資料より引用) イメージ
(図1)山梨市とNTT東日本によるスマート農場からスマートシティへの取り組みの経緯
(NTT東日本の発表資料より引用)

福祉の課題解決に向けたスマートシティへの取り組み

山梨市の福祉分野におけるスマートシティの取り組みでは、高齢者の安否確認や緩やかな見守りに向け、「自宅」と「高齢者が集まる施設」の出入りを検知し、自宅の環境情報などを可視化することで宅内外から安否確認を行う。さらに、災害時の安否確認として、災害避難所に出入りした際に検知する仕組みを整備する。

例えば、センサーなどを身に着けた高齢者が、自宅や公民館などを出入りした際に家族にメールで通知する。その際、センサーを首からかけたり服などに付けたりすると、出掛ける際に忘れてしまったり無意識のうちに外してしまうことがある。そこで、靴にセンサーを内蔵させて活用することで、高齢者が意識することなく見守りを行う。

また、高齢者の自宅に温度や照度などの環境情報を取得できるセンサーや、ドアの開閉状況を検知できるセンサーを設置することで、宅内状況の可視化や異常検知時の家族への通知を可能にする。さらに、災害避難所に出入りした際に検知する仕組みも構築し、災害時に高齢者が無事に避難できたことを家族が確認できるとともに、どの避難所に居るかの位置情報も把握できる。

見守りに使われる各センサーは、照明や圧力、振動などのエネルギーを電力に変換できる電源レスの製品を採用し、電池切れで正しく検知ができないといったリスクも回避する。

(図2)山梨市のスマートシティが取り組む高齢者の見守り(NTT東日本の発表資料より引用) イメージ
(図2)山梨市のスマートシティが取り組む高齢者の見守り (NTT東日本の発表資料より引用)

地方都市が目指す住民に寄り添ったスマートシティへの取り組み

日本の自治体の多くは人口10万人以下の中小規模自治体だ。山梨市も人口約3.5万人の地方都市だが、だからこそスマートシティの推進に有利な側面もある。スマートシティの推進に欠かせない要素の1つが、住民からの理解とポジティブな感情や協力だ。

一般に、スマートシティや地方創生と聞くとどうしても官の領域であるように感じ、実際にそこで暮らす住民も受け身になってしまいがちだ。しかし、本来スマートシティや地方創生では、自治体が住民に寄り添い、住民を主役に据えて取り組んでいく姿勢が重要なはずだ。

山梨市のケースでも、すでに住民の生活を支える農業分野でのスマート化への取り組みが成功していることで、スマートシティへの取り組みにも理解が得られやすい。自分たちが主役となり、愛すべき地元をより良いところ、住みやすいところに変えていこうと考える前向きな気持ちこそが、スマートシティ化を後押しする。

一方で、インターネットの普及によって、若年層のITリテラシーは大都市と地方都市で大きな差がなくなってきている。コロナ禍による在宅勤務やリモートワークの推奨も、地方都市にいても都心と同じような仕事ができることを実感させた。このように、地方でも積極的にIT機器が活用されているという背景からも、住民のスマートシティ化への抵抗は少ないかもしれない。

山梨市でも、今後自営無線ネットワークを街づくりのベースインフラとして、産業の枠を超えた横断的な課題解決を図ることで、住民が安心して快適に過ごせる社会の実現をめざしていこうとしている。

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