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公共交通機関を充実させたコンパクトシティがスマートシティの鍵に

2022年8月5日

人口20万人以上の中核市も、スマートシティの推進に積極的な姿勢を示している。それらの都市は、人口100万人を超えるような大都市や、人口10万人以下の中小規模都市と比べて、スマートシティへの取り組みにどのような特徴が見られるのか。そのキーワードの1つが、コンパクトシティへの取り組みと言えそうだ。

LRTなど公共交通機関の充実でコンパクトシティを目指した富山市

全国には、人口1,000人以下の村から100万人を超える大都市まで約1,700の市町村がある。これらの市町村は政令指定都市を除き、人口の規模に関わらずほとんど同じような事務権限が認められているが、人口数千人の村と数10万人の市では、さまざまな面で事情が異なることは避けられないだろう。そこで、政令指定都市以外にも、人口20万人以上という要件を満たし、規模や能力などが比較的大きな都市に関しては事務権限を強化し、できる限り住民の身近なところで行政を行える都市制度「中核市制度」が1996年から施行されている。

現在、中核市は全国に62市(2022年7月現在)あるが、その1つ人口約41万人(2022年6月現在)の富山市は、47都道府県の県庁所在地の中での人口ランクが22番目(2021年10月1日現在)となる、北陸の中堅都市だ。その富山市が20年ほど前から目指してきたのが「歩いて暮らせるまち」、すなわち「公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり」だ。

富山市がコンパクトシティ政策の検討を開始した2003年当時は、全国で最も人口密度が低い県庁所在都市であり、住民が広い市域に分散して居住することによって、全国2位の自動車依存都市でもあった。しかし、市民の移動をそのまま自動車に依存していたら、高齢化によって自動車免許証を返納する人が増えると移動手段の確保が難しくなる。そこで富山市は、公共交通機関の路線内とその徒歩圏内に日常的なまちの機能を集約することで、すべての市民が暮らしやすくなるまちづくりを目指し、次世代型路面電車「LRT(Light Rail Transit)」の整備などに力を入れてきた。

2006年4月に開業した富山市のLRTの利用者数は開業から半年で約100万人となり、1年後には200万人を突破。その後、2009年12月に市内環状線が開業したことで増加傾向が見られ、2018年度の利用者は年間で530万人を超えている(富山市都市交通協議会の資料より)。

(写真1)富山市のLRTは、富山駅から富山港まで運行される「ポートラム」(左)や、中心市街地を周回する環状線で運行される「セントラム」の他にも、「サントラム」(右)や「アイトラム」などさまざまな形式の車両が市民の移動を支える イメージ
(写真1)富山市のLRTは、富山駅から富山港まで運行される「ポートラム」(左)や、中心市街地を周回する環状線で運行される「セントラム」の他にも、「サントラム」(右)や「アイトラム」などさまざまな形式の車両が市民の移動を支える

コンパクトシティを深化させたスマートシティの実現へ

こうして、人口減少や少子・超高齢社会の到来を見据えながら「公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり」に取り組んできた富山市では、町の賑わいや税収などさまざまな面で政策の効果が表れてきた。一方で、中山間地域をはじめとする郊外部においては、その成果が十分に実感できないという声もあがっている。

こうした課題を解決するには、近年目覚ましい発展を遂げるデジタル技術や各種データの活用によって、コンパクトシティ政策をさらに深化させる必要があると富山市は考えた。そして、その成果を市域全体にいきわたらせることで、それぞれの地域の特性を生かしながら市民一人ひとりの豊かな生活の実現を図る、「富山市版スマートシティ」を推進することを決定。2022年度には、センサーネットワークやデータ連携などを活用して市民生活の質や利便性の向上を図る「富山市スマートシティ推進ビジョン」(仮称)の策定を目指すと発表した。具体的には、郊外から主要な駅に向かう2次交通、家からショッピングモールまでをつなぐ3次交通を、デジタルの力を借りながら実現するという。

(図1)富山市型コンパクトなまちづくりの基本理念(出典:富山市都市マスタープラン) イメージ
(図1)富山市型コンパクトなまちづくりの基本理念
(出典:富山市都市マスタープラン)

一方で、富山市はこれまでにコンパクトシティへの取り組み以外にも、LPWA網とIoTプラットフォームからなる「センサーネットワークの構築」や、住民基本台帳の住所をGIS(Geographic Information System:地理情報システム)上の座標に紐づけた「地図上での住民や店舗の可視化」など、スマートシティに繋がるさまざまな取り組みを進めてきた。

(図2)富山市がこれまでに行ってきたスマートシティに繋がる主な取り組み(出典:富山市の発表資料より) イメージ
(図2)富山市がこれまでに行ってきたスマートシティに繋がる主な取り組み
(出典:富山市の発表資料より)

2022年3月に富山市が発表した「富山市スマートシティ推進ビジョン」の中間報告では、「富山市版スマートシティのコンセプト」として「ありたいまちの姿」が掲げられ、
・誰一人取り残されることなく、便利で安心して暮らせるまち
・地域の宝を未来へつなぐ、地域づくり・人づくりのまち
・互いの地域を尊重し支え合う、一体感のある持続可能なまち
といったことが、まちづくりの目標となっている。

公共交通機関の充実を積極的に進める中核市

富山市が20年ほど前から進めてきたコンパクトシティへの取り組みは、例えば「誰一人取り残されることがない」という目標において、公共交通機関の充実が貢献するなど、今後のスマートシティへの取り組みに大きな影響を与えそうだ。

人口41万人(2022年6月現在)と、富山市とほぼ同規模の中核市である香川県の高松市では、2017年度に国内で初めて、都市OSの世界標準となりつつある「FIWARE(ファイウェア)」を導入した。都市OSとは、さまざまな事業者や他の地域が提供するサービスや機能を、自由に組み合わせて活用するための共通の土台だ。

(図3)都市OSの機能(出典:内閣府資料「スーパーシティとデータ連携基盤について」) イメージ
(図3)都市OSの機能(出典:内閣府資料「スーパーシティとデータ連携基盤について」)
(出典:内閣府資料「スーパーシティとデータ連携基盤について」)

高松市ではスマートシティの持続的な成長に向け、こうした都市OSの導入だけでなく技術基盤の整備や地域課題の掘り起こしなどを行うため、「スマートシティたかまつ推進協議会」を設立したが、その中では「多核連携型コンパクト・エコシティ」という取り組みも進めており、「公共交通の再編」としてMaaS(Mobility as a Service)の実現に力を入れている。

(写真2)高松市では、JR四国やことでん(高松琴平電気鉄道)の他にも、小豆島など瀬戸内海の島を結ぶフェリーなども利用できるMaaSを実現することで、コンパクトシティへの取り組みを深めている。 イメージ
(写真2)高松市では、JR四国やことでん(高松琴平電気鉄道)の他にも、小豆島など瀬戸内海の島を結ぶフェリーなども利用できるMaaSを実現することで、コンパクトシティへの取り組みを深めている。

富山市や高松市は、中核市としてスマートシティへの取り組みで先陣を切っている都市なので、これらに続く中核市にとっても、公共交通機関の充実や再編がスマートシティ推進の参考になるかもしれない。

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