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未来の観光のカタチを広島県が実現 ~世界遺産や歴史的建造物に最新技術が融合~

2023年2月13日

コロナ禍で人々の生活スタイルが変化しているが、観光スタイルもまた大きく変化している。個人旅行や家族旅行など観光客の小グループ化や、移動手段をマイカーやレンタカーに切り替える観光客の増加、野外アクティビティへの需要の高まりなど、密を避けて安心して楽しめる旅行形態や観光地が求められている。また、ワーケーションやブレジャーなど、仕事と余暇を組み合わせた滞在型旅行などのニーズも高い。一方で、今後インバウンドの復活も期待される中、日本のツーリズムはどう進化し、観光地はそれにどう対応していくべきか。そのヒントは、いち早くツーリズムのDXに取り組んでいる広島県にありそうだ。

世界遺産で取り組むストレスフリー観光

広島県ではコロナ禍前の2018年5月、農業や製造業、観光業にいたるさまざまな産業の課題解決や新サービスを創出するプロジェクト「ひろしまサンドボックス」を立ち上げた。そこでは、広島の名産品であるレモンの樹にIoTデバイスを取り付け、環境や樹に関して収集したデータをAIで分析し、レモン農家の勘と経験をデジタル化するなどDXへの取り組みが進められた。

「ひろしまサンドボックス」の中で観光分野のDXとして取り組まれたプロジェクトが、厳島神社で有名な宮島エリアにおけるストレスフリー観光だ。厳島神社は、1996年に世界遺産に登録されたことで、コロナ禍前は繁忙期になると世界中から観光客が押し寄せていた一大観光名所だ。一方、島内は人や車のキャパシティが限られているため渋滞が多発。観光客は待ち時間が増えてしまい、お土産などの買い物に費やす時間も減ったという。これによって、地元での消費が減退する傾向も見られ、受け入れ側の地域にとっても無視できないストレスとなっていた。

こうした課題の解決に向けた「ストレスフリー観光プロジェクト」では、データやAI、IoTを駆使し、交通混雑のみならず、観光に関わるさまざまなストレスを解消することを目指して、2018年から2020年までの3年間、実証実験が実施された。実験では、駐車場に車両検知センサーを設置し、島内カメラの画像からAIで人数をカウントして、混雑状況や人流データを収集。それらのデータをもとに、島内の観光案内とともに、人流予測から混雑状況をデジタルサイネージで見える化するシステムを開発した。

さらに、LINEで宮島口の車の渋滞情報から島内各地の混雑状況、トイレの満空情報、宮島の観光スポットの紹介などが会話形式で閲覧できるシステムを開発し、車や観光客に対して混雑回避を促した。また、集めたデータをもとに、閑散期でも観光客に来てもらう体験型イベントを考えるなどの取り組みを進めている。

実験開始当初は、顔認証システムで島内カメラの画像から性別などの属性情報を取得しようとしたが、コロナ禍によって観光客もマスクを常用するようになり検知率が低下。それによって、骨格による検知に切り替えるなど、データ収集が満足に行えない状況が続いたものの、取得したデータや情報によって今後の混雑予測のベースにもなり得るAIアルゴリズムが開発できた。また、これまでは見えてこなかったトイレの混雑状況が把握でき、自治体における観光地のトイレ増設の判断材料になったことも実証実験の成果であるという。

積極的にICTを取り入れた観光体験

厳島神社と同じく、1996年に世界遺産に登録された平和公園では、被爆時の様子をVRで体験しながら巡る「ピースパークツアーVR」が行われている。1時間20分のツアーでは、ガイドとともに公園内を回り、原爆ドーム対岸など4ヵ所でVRゴーグルを装着。賑やかな中心街が薄暗いがれきの山に一変して炎に包まれる惨状や、負傷者が行き交う相生橋に黒い雨が降り注ぐ様子を360度の映像で体験できる。

(画面1)被爆時の様子をVRで体験しながら巡る「ピースパークツアーVR」(出典:「ピースパークツアーVR」の公開ページ) イメージ
(画面1)被爆時の様子をVRで体験しながら巡る「ピースパークツアーVR」
(出典:「ピースパークツアーVR」の公開ページ)

また、広島の街を8Kで360度空撮したプロジェクト「デジタル3Dコンテンツ in 平和記念公園」も公開されている。広島平和記念資料館や相生橋など、原爆ドーム周辺の施設に表示されたアイコンを選択すると、それぞれの建造物の歴史や背景が学べる。そこから「現在の様子を見る」というボタンを押すことで、再現された戦前の景色も見られるようになっている。

(画面2)広島の街を8Kで360度空撮したプロジェクト「デジタル3Dコンテンツ in 平和記念公園」(出典:「デジタル3Dコンテンツ in 平和記念公園」の公開ページより) イメージ
(画面2)広島の街を8Kで360度空撮したプロジェクト「デジタル3Dコンテンツ in 平和記念公園」
(出典:「デジタル3Dコンテンツ in 平和記念公園」の公開ページより)

広島平和記念資料館など一部施設は、建物の周辺や内部も閲覧可能だ。案内の内容は、広島平和文化センター元理事長のスティーブン・リーパー氏が監修し、3DデータはアメリカのMatterportが開発したデジタルツインプラットフォームを活用して作成された。一部の物品(被爆ピアノなど)に設定されたタグを選択すると、持ち主に関連した物語や過去の演奏動画などが視聴できる。

このように、最新のICT技術を活用することで、従来の観光とは違った新しい体験ができるようになった。「ピースパークツアーVR」は現地に行かなければ体験できないが、「デジタル3Dコンテンツ in 平和記念公園」はパソコンを使ってどこからでも体験できる。だが、「デジタル3Dコンテンツ in 平和記念公園」は海外でも閲覧できることから、コロナ禍のバーチャル観光の体験が今後のリアル観光の呼び水になることに期待している。

インバウンドの復活に向けて情報発信

海外から見ると、広島はやはり世界で初めて原子爆弾が投下された都市として広く知られており、外国人旅行者にとっては観光というよりも、原爆ドームなどが持つ恒久平和というメッセージ発信の方がより重要だと見られている。広島県観光連盟としても、広島は知名度はそれなりにあるものの、観光地としての存在感はまだまだ物足りないものがあると感じているという。

そこで、広島県観光連盟では、訪日・在日外国人向けに10言語展開、累計20,000記事以上の日本の情報が集まるプラットフォーム「MATCHA」(訪日旅行者に向けて日本の情報を発信するWEBマガジン)に対応した、コンテンツ管理システム「MATCHA Contents Manager(MCM)」を導入した。


(動画)MATCHAで公開されている広島のプロモーションビデオ

MCMは自治体や企業などによって、地域自らが多言語で情報発信するコンテンツを制作し、自由に投稿できる観光サイトだ。広島県観光連盟では、広島県が何度も訪れたくなる「リピータブルな観光地」になることを目指し、100万人が集う1ヵ所よりも、1万人が熱狂する100ヵ所を作ろうと、魅力あふれる観光プロダクトの造成に取り組んでいる。

MCMの導入を通して、2023年5月に開催されるG7サミット広島や、2025年に開催される大阪万博に向け、広島の新たな観光の魅力の発信を強化し、インバウンドのさらなる誘客を目指すという。

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