デジタルツインで進化する花火大会の未来

2022年5月20日

日本の夏の風物詩といえば花火大会。毎年、全国各地の花火大会巡りを楽しみにしていた人も多いだろう。コロナ禍となり中止になった花火大会がある一方で、最新テクノロジーを駆使して、新しい花火大会の姿を模索する試みも始まっている。未来の花火大会はどのように変貌していくのだろうか。デジタルツインを活用した取組みを追った。

市場規模が10分の1に。コロナ禍で大打撃を受けた花火産業

いまだに収束が見通せないコロナ禍が続くなか、日本の夏を彩る花火大会も大きく影響を受けている。今年は、観覧方法に配慮した上で開催される花火大会の数が増えているものの、4月8日には、隅田川花火大会の3年連続中止が発表されるなど、通常通りとはいかない状況にある。花火産業の市場規模は全国で約200億円と言われるが、コロナ禍で、市場規模が1/10になったという。近年は、著名な花火大会には海外からも観客が集まることが多かったのだが...。花火業者や主催者の損失に、観客の飲食費などを加えると経済損失額は5000億円規模にのぼるという。

実は、コロナ禍になる前から花火大会は過渡期を迎えていた。観客が増え続け、安全性が確保できないことや、安定収入の確保が難しいなどの理由から、2018年には福岡の「西日本大濠花火大会」が、そして2021年には広島の「宮島水中花火大会」が打ち切られた。さらにコロナ禍による影響も加わり、花火大会の未来が見通せなくなっている。

そんな苦境にあっても、新しい形に挑戦する花火大会がある。2021年8月28日、大阪府のりんくう花火大会の実行委員会が中心となり、オンライン花火大会が実施された。リアルのりんくう花火大会には約5万人が参加するが、YouTubeのライブ配信には約4500人が参加した。同花火大会では、単に動画を見るだけではなく、「おうち花火でコラボを楽しむ」をコンセプトに、オンライン動画を見ながらカウントダウンして、自宅や手持ち花火ができる公園などから一緒に盛り上がる企画が実施された。

オンライン開催されたりんくう花火大会(出所:泉佐野青年会議所プレスリリース) イメージ
オンライン開催されたりんくう花火大会(出所:泉佐野青年会議所プレスリリース)

デジタルツインとVRで仮想の花火を楽しむ

2022年1月から2月にかけて、オンライン花火をさらに進化させ、デジタルツインを活用した新しい花火大会が開催された。仮想空間であれば、どれだけ多くの観客が集まったとしても、密の心配をする必要はない。デジタルツインで仮想空間に再現された舞台は、福岡市・大濠公園。観客数の増加で、安全確保の観点から継続が難しくなり、惜しまれつつ2018年を最後に終了となった「西日本大濠花火大会」をモチーフにしたデジタル花火大会だ。

この企画は、2021年6月に開催された、JAXA主催、FUKUOKA Smart EAST推進コンソーシアム後援のアイデアソンから生まれた。JAXA職員や衛星データ解析の専門家からアドバイスを受けながら、JAXAの衛星データを活用して地域課題を解決するアイデアについて話し合い、発表するイベントでは、「NOBOSEMON(のぼせもん)」が最優秀発表チームとなった。この、「NOBOSEMON」が、内閣府の宇宙開発戦略推進事務局による、「令和3年度 課題解決に向けた先進的な衛星リモートセンシングデータ利用モデル実証プロジェクト」に応募し、採択されたことで、一般財団法人リモート・センシング技術センター(RESTEC)やTISなど4者によるデジタル花火大会が実現した。

実証実験のイメージ(出所:TISプレスリリース) イメージ
実証実験のイメージ(出所:TISプレスリリース)

仮想空間上に再現された花火を楽しむためには、VRゴーグルが必要だ。今回の実証実験では、参加者の自宅に段ボール製のVRゴーグルを郵送し、自由にデジタル花火を楽しめるようにした。体験後には参加者へのアンケートを実施し、このようなイベントの収益性などを分析し、今後の施策展開に活用するという。

実証は終了しているが、RESTECでは、人工衛星画像を用いてデジタル空間に再現したデジタルツイン都市、デジタル福岡にて開催される花火大会を舞台にしたVR360度ストーリー作品「遠い日の宙(そら)」を一般公開しており、今もVR作品として楽しむことができる。

デジタルツインで、リアルの花火大会のDXを実現

岩手県陸前高田市では、リアルの花火大会の改善にデジタルツインを活用しようという取組みが行われた。デジタルツイン上でのシミュレーションを行うことで、観客席から花火が見えない、あるいは、搬入しようとしていた機材が入らない、というようなトラブルを防ぐことができる。同大会のオフィシャルパートナーであるミライトが、大会会場である高田松原運動公園の3D点群データを取得し、大会会場のデジタルツインを構築。打ち上げられる花火が観客席からどのように見えるかの検証や、臨時設備の設置シミュレーションなどに活用した。

デジタルツインで観客席から見える花火を再現(出所:FIREWORKSプレスリリース) イメージ
デジタルツインで観客席から見える花火を再現
(出所:FIREWORKSプレスリリース)

花火大会の会場のデジタルツインがあれば、非常事態の避難誘導のシミュレーションを行うこともできる。2001年には、兵庫県で開催された花火大会で発生した群衆雪崩で、見物客11名が圧死する痛ましい事故が発生した。このような事故を防ぐためにも、人の流れが集中しやすい場所や、リスクの高い導線を事前に把握することが役に立つ。観客席から花火がどのように見えるかを事前に把握できれば、より見やすい席を高値で販売するなど、花火大会の収益性向上にも効果を見込めるかもしれない。デジタルツインが、コロナ禍で今までにない舵取りが求められる花火大会の運営に貢献することに期待したい。

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