• HOME
  • Beyond X 最前線
  • 自治体と再エネ事例紹介~100%CO2フリーの電力を県庁舎に導入、山形県の取り組み~

自治体と再エネ事例紹介~100%CO2フリーの電力を県庁舎に導入、山形県の取り組み~

2024年5月27日

山形県は、奥羽山脈に出羽山地、飯豊連峰、そして、蔵王、鳥海山、月山などの日本の百名山に数えられる山々を擁している。また、内陸の盆地に流れている最上川に沿うように置賜、村山、最上、庄内をはじめとした多くの都市や農山村が形成されている。これらの地形を生かし、戦後から高度経済成長期にかけて、水力発電等の水資源開発が盛んに行われ、60年以上にわたって「水力発電」を展開してきた希少な土地である。また、東日本大震災において、再生可能エネルギーの重要性を感じ、翌、2012年には「山形県エネルギー戦略」を策定、自治体による風力発電や太陽光発電などの先導的事業の実施や、浄水場への太陽光発電設備又は、小水力発電設備の導入など、今日まで積極的に事業を展開している。今回は、山形県の先進的な再エネの取り組みを紹介する。

「山形県エネルギー戦略」を策定し、再エネの導入を促進

山形県は、2012年3月に「山形県エネルギー戦略」を策定し、県民生活や産業活動を支えるエネルギーの安定確保と、安全で持続可能な再エネの導入を促進するための施策を展開している。

この戦略の中では、県内への安定供給体制を整備するとともに、広域的なネットワーク機能を有する電力会社の系統線と連携した供給網を通じて県外にも供給する「再生可能エネルギーの供給基地化」を図ることを促進。また、再エネおよび代替エネルギーによる「電力」と「熱」の地域分散型の供給体制を整備するとともに、地域内での統合利用の普及を促進し、省エネの推進と併せて、エネルギーの地産地消と災害に強いシステム構築を進めようとしている。

さらに、ものづくり産業や農業を始めとする各産業分野との連携による技術開発に先行して取り組むとともに、再エネの導入拡大を通じた県内産業の振興やエネルギーの地域需要の創出などを通じた地域活性化につなげていこうとしている。
同県では、「山形県エネルギー戦略」に基づき、2011年度から2020年度を前期、2021年度から2030年度を後期として、それぞれエネルギー政策推進プログラムを作成し、取り組んできた。

そして、「電源」と「熱源」の総和として、2030年度において電力換算として約100万kWの新たなエネルギー資源の開発を目指している。

(図2)「ゼロカーボンやまがた2050」達成イメージ(出典:山形県) イメージ
(図2)「ゼロカーボンやまがた2050」達成イメージ(出典:山形県)

2019年度末までの実績

2019年度末における実績を振り返ると、風力発電は目標の45.8万kWに対して、2019年度末の実績は8.2万kWで、進捗率は17.9%。風力発電は目標に対して低調に推移しているものの、今後、陸上風力及び洋上風力の案件の進捗が見込まれるという。

太陽光発電は目標の30.5万kWに対して、 2019年度末実績は32.2万kWで、進捗率105.6%と順調に推移している。多様な実施主体が発電事業に参入したことやメガソーラーなどの事業用太陽光発電も一定程度進んだことから、戦略の開発目標を達成した。

太陽光発電の具体的な取り組みとしては、県有地7箇所、市町村有地等6箇所の公有地において太陽光発電事業を導入。先導的・実証的な取り組みとして、積雪量の多い場所において、県(企業局)が太陽光発電事業を実施した。

比較的積雪が多く日照時間の少ない地域での実証的な取り組みとして、企業局初の大規模太陽光発電所である「県営太陽光発電所」を建設し、2013年12月25日より発電を開始した。県営太陽光発電所は、村山市の元園芸試験場村山ほ場に、最大出力1,000kWの大規模太陽光発電所を建設した。年間発生電力量は1,050MWhを想定し、これは一般家庭約310戸分に相当するという。

(写真1)「県営太陽光発電所」(出典:山形県) イメージ
(写真1)「県営太陽光発電所」(出典:山形県)

また、企業局が運営する浄水場での経費節減や停電時の電源確保を目的として、2012年度に「酒田工業用水道遊摺部(ゆするべ)浄水場」の管理棟屋根に太陽光発電設備を設置したほか、2014年度に「最上広域水道金山浄水場」管理本館および「庄内広域水道朝日浄水場」管理本館に太陽光発電設備を設置した。山形県は、全国的にも豪雪地帯で、冬季は暖房で電気を多く使うため電力の需要が夏より多くなる。そして、冬になり、雪が積もると、調達先の太陽光発電所の多くで、太陽光パネル上に雪が積もってしまうため、発電量が減ったり、中には、全く発電しなくなってしまう太陽光発電所もあるという。このように積雪時の電力調達や供給は、雪による影響も多く受けており、雪国ならではの課題に対応した活用も求められる。

(写真2)「酒田工業用水道遊摺部浄水場」(出典:山形県) イメージ
(写真2)「酒田工業用水道遊摺部浄水場」(出典:山形県)

地熱・温泉熱発電は目標の8.1万kWに対して、2019年度末実績は0.0万kW。温泉熱バイナリー発電の実証実験の事例や、地熱発電に関し、事業者から導入や調査等についての相談はあるものの、地熱発電及び温泉熱発電については、ともに導入実績はないという。

中小水力発電は目標の2.0万kWに対して、2019年度末実績は2.0万kW(進捗率100.0%)。 河川、ダム、農業用水路等を活用し、県、市町村、土地改良区など多様な実施主体による導入や大規模案件の進捗もあり、戦略の開発目標は2018年度までに達成した。具体的な取り組みとして、農林水産部が推進する農業水利施設を活用した発電事業や企業局における発電事業を実施した。

バイオマス発電は目標の1.4万kWに対して、 2019年度末実績は7.6万kW。(進捗率542.9%)県産木材を使用する発電事業者に加え、輸入木質バイオマスも使用する大規模な発電事業者の進出もあり、目標を大幅に超える実績となっている。また、蓄糞や汚泥を利用したバイオガス発電の導入も進められている。

(表)山形県の2019年度末における再生可能エネルギー開発実績(出典:山形県) イメージ
(表)山形県の2019年度末における再生可能エネルギー開発実績(出典:山形県)

そのほか、家庭及び事業所については、太陽光発電や木質バイオマス燃焼機器等の導入を、2019年度まで延べ1万件近く支援した。

最上町(もがみまち)木質バイオマスエネルギー地域冷暖房システムでは、2012年度までに、3基の木質チップボイラーを整備し、町立病院、健康センター、福祉センター、園芸ハウス、特別養護老人ホームなどの冷暖房のための熱を供給している。

(図3)最上町のこれまでの木質バイオマスの活用状況(出典:最上町) イメージ
(図3)最上町のこれまでの木質バイオマスの活用状況(出典:最上町)

2030年度までの施策

2021年度から2030年度までの後期では、大規模事業の県内展開促進 、再エネの地産地消、地球温暖化対策としての再生可能エネルギーの導入拡大と利用の促進などを推進する。

再生可能エネルギーの地産地消では、FIP制度導入や卒FIT電源出現拡大を見据え、地域の小規模な電力を束ねるアグリゲーターの育成を支援する。また、市町村と地元事業者による「山形モデル」の小水力発電の導入を引き続き進めていく。 山形モデルは事業の計画段階から市町村、県、地元事業者が一緒になって勉強するところから始める取り組み。

FIP制度は、FIT制度のように固定価格で買い取るのではなく、再エネ発電事業者が卸市場などで売電したとき、その売電価格に対して一定のプレミアム(補助額)を上乗せすることで再エネ導入を促進する制度。FITは再エネで発電した電力を、一定期間、固定価格で電力会社が買い取ることを国が義務付ける制度。卒FITは、この買取期間が終了することだ。

さらに地産地消では、やまがた新電力のノウハウを活用し、各地域に小規模な地域新電力を創出していく。

地球温暖化対策としての再エネの導入拡大と利用の促進では、CO2フリー電気としての再エネを求める企業等に対して、県内で発電されたCO2フリー電気を供給する基盤を形成し、CO2フリー電気の環境価値を県内企業が取得できる仕組みを構築していく。

最近では、2024年4月、やまがた新電力は、山形県企業局及び県土整備部の水力発電・太陽光発電、県内の再エネ(再生可能エネルギー)発電事業者から供給される再エネ電力を、100% CO2フリーの電力として、県施設、市町村施設、民間施設へ供給を開始した。都道府県庁舎における100%CO2フリーの電力の導入は、北海道・東北では初だという。

(図1)やまがたCO2フリーの電力の概要(出典:やまがた新電力) イメージ
(図1)やまがたCO2フリーの電力の概要(出典:やまがた新電力)

また、同じく4月、山形県酒田市の酒田港が「海洋再生可能エネルギー発電設備等拠点港湾(基地港湾)」に指定された。同港は洋上風力発電に用いる巨大な風車を組み立てて積み出す拠点となり、基地港湾としては、全国で6番目の指定となる。

山形県は2020年に行われた、全国知事会「第1回ゼロカーボン社会構築推進プロジェクトチーム会議」において、吉村知事が2050年までに二酸化炭素排出の実質ゼロを目指す「ゼロカーボンやまがた2050」を宣言している。この大きな目標の達成に期待がかかる。

「未来図メディア」メールマガジン登録

5G×IoTの最新情報やイベント・セミナー情報を
いち早くお届けします。

ミライト・ワンのソリューションに関するご質問、ご相談など
ございましたらお気軽にお問い合わせください。

ページトップへ