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城崎温泉が観光DX基盤によるデータ活用でリピーターを獲得
目次
データを活用しながら、観光地CRMを推進する豊岡観光DX推進協議会
兵庫県北部に位置する城崎温泉では、豊岡観光DX推進協議会を設立し、観光DXに取り組んでいる。同協議会では「まち全体が1つの温泉旅館」をコンセプトに掲げ、2021年度、「豊岡観光DX基盤」を構築した。
「まち全体が1つの温泉旅館」のコンセプトでは、駅が玄関、温泉街のメインストリートが廊下、各旅館が客室、物産店が売店、外湯は大浴場と位置付け、地域全体をひとつの温泉旅館に見立てている。
「豊岡観光DX基盤」の構築は、デジタル技術を使って収集したデジタルデータや旅行者向けアプリ等を活用することで、顧客満足度の向上、事業者の売上アップ、観光事業者の業務負担軽減につなげることが目的だ。

(図1)「豊岡観光DX基盤」を構築(出典:豊岡観光DX推進協議会)
また、行政や観光推進の専門機関である豊岡観光イノベーションは、DX基盤により地域全体の宿泊データをタイムリーに把握し、効率的で効果的なマーケティング活動を行う。また、地域に必要なデータを提供しながら観光マネジメントを行うことで、地域全体の収益性を高め、経済波及効果を増加させようとしている。
さらに、デジタルサービスにより来訪者の利便性を向上させ、満足度を上げることで、ロイヤルカスタマー(商品・サービスに愛着や信頼を持っている顧客)を育て、持続的な地域全体の発展につなげようとしている。
これらの取り組みを実施する際に協議会が行ったのが、若手経営者から吸い上げた意見を整理して方向性を定めるというものだ。
具体的に出た意見としては、コロナにより個人旅行の割合が増えたため、顧客の満足度向上に取り組む必要があることや、繁忙期と閑散期での適切な経営資源の配分・管理に向けた単価アップ、コスト削減、生産性向上といったものであり、意見を踏まえて豊岡観光DX基盤を構築し、宿泊施設のデータを1つの基盤に集約した。
このデータを活用することで、観光事業者は、前年と比較して予約の増減がある日をヒートマップで閲覧することや、需要を予測して収益を最大化するための価格推移をダッシュボードで閲覧することが可能になった。
また、市や観光地域づくり法人はこれらのデータを分析することで、観光指標(NPS:顧客推奨度、消費額、宿泊日数)の正確な値の把握やエリア動向をレポートとして事業者に提供することもできるという。
そして、2022年度にはデータ活用をさらに進めるために、共通PMS(Property Management System:顧客予約管理システム)の構築やメールマーケティングによるリピーター獲得を行った。また、観光地CRM(Customer Relationship Management)で得られた知見をECに活用し、地域物産の販売力向上を目指していく。そして、2024年に年間9.3億円の追加消費(2019年比)を生み出そうとしている。
観光地CRMでは、セグメント分けしてデータを分析することで、顧客ニーズを見出すことや、顧客との関係性の強化によるリピーターの獲得につなげることが可能になる。
共通PMSの構築では、宿泊施設ごとにバラバラだったPMSを共通化することで、整ったメッシュでデータを蓄積することが可能になったという。また、データ活用の必要性意識が高まり、これまでPMSを使ったことがない宿泊施設もデータ活用の重要性を認識。データ入力する動機付けにもなり、データ収集がしやすくなったという。
その一方、高齢の経営者はITに対するリテラシーが低く、PMSのメリットを伝えきれていないことや、現場のスタッフにPMSの使い方を浸透させにくいという課題もあったという。

(図2)さらに共通PMSとメールマーケティングシステムを構築(出典:豊岡観光DX推進協議会)
取り組みの成果としては2022年の観光消費額は、2019年比でプラス3.8億円となり、2024年の目標であるプラス9.3億円(2019年比)に対して、進捗率は40.9%となった。リピーター率や一人あたりの消費額は目標を上回ったという。

(図3)取り組みの成果(出典:豊岡観光DX推進協議会)
さらに、2023年1月には スマホアプリ「豊岡市スマホ観光ナビ」が誕生。このアプリでは、飲食店、観光スポットのクーポン、おすすめスポットの表示、城崎温泉外湯券(宿泊者用)のデジタル登録機能、外湯混雑状況の表示機能などを備える。

(図4)さらに共通PMSとメールマーケティングシステムを構築(出典:豊岡観光イノベーション)
協議会では、これらのデータも活用しながら、観光地CRMを推進していくという。
統合DB(データベース)システムの構築で販売金額の底上げを図る小谷村
DXにより、官民一体で魅力発信を行おうしているのは、長野県小谷村(おたりむら)だ。同村では、観光客の消費行動データを広域的に収集し、統合DBシステムを構築。蓄積した分析データを地区の観光協会等のステークホルダーのみならず、観光事業者全体にオープンソースとして提供しようとしている。
長期滞在をはじめとしたサービス改善を促すことで、リピート客の増加、客単価向上により、販売金額の底上げを図る狙いだ。このシステムは、2025年3月のリリースを目指しており、エリアの深掘りや長期滞在等、観光客のニーズに関する仮説を構築し、動態データを基に検証を実施。客層や訴求のタイミング、ジャンルの統一等、データを基に観光客目線でさまざまな切り口で効果的なPRを検討していくという。

(図5)小谷村の計画ロードマップ(出典:小谷村)
交通機関・渋滞情報を可視化してオーバーツーリズムの未然防止を図る箱根町
交通機関・渋滞・駐車場の満空情報をリアルタイムで可視化し、最適な周遊ルートと観光資源を表示・推奨するデジタルマップを導入して、旅行者の行動変容につなげ、オーバーツーリズムの未然防止・抑制と消費拡大の両立を図っているのは、神奈川県箱根町だ。
同町では、既存の地図サービスや自前で構築するデジタルマップを介して、渋滞予測・駐車場の満空情報、飲食店の混雑など交通や観光状況を可視化。観光コンテンツの情報をストレスなく検索できる環境を整備している。
また、渋滞状況・店舗等の情報と季節・時間帯・現在地等の旅ナカの状況を自動的にマッチングし、空いている周遊ルート、観光資源を表示・推奨する。食・歴史散策などコンテンツを中心とした周遊ルート作成だけでなく、早朝・夜間観光など渋滞緩和を目的としたルート、車や公共交通機関など交通手段を考慮したルートなども提案する。

(図6)箱根観光デジタルマップ(出典:箱根町観光協会)
高付加価値化のポイント
観光庁では、観光地・観光産業の再生・高付加価値化に取り組むにあたり、まずは適切な手順を理解し、その手順に沿って施策を進める必要があるとして、5つのステップを紹介している。
ステップ1では、再生・高付加価値化を進めようとする地域において、自治体、観光地域づくり法人(DMO)、金融機関といったステークホルダーを巻き込み、体制づくりを行う。
ステップ2では、「ロードマップ策定」を行い、観光客に対し地域全体が統一された価値を提供出来るように、観光再生のステークホルダーが向かう方向性を合わせ、ビジョン・コンセプトに落とし込む。
ステップ3としては、ロードマップに沿った宿泊施設や観光施設のハード改修、廃屋の撤去等を実施。
ステップ4として「総合的な観光地高付加価値化」に取り組むことで、ハード改修の効果をさらに高める。
最後に、ステップ5として「持続可能な観光地経営体制の構築」を行うことで効果が長期にわたって持続する体制を作る。特に、デジタル技術を活用したDXに取り組むことは、顧客満足と働き方改革を同時に実現可能となるとしている。

(図7)高付加価値のための5ステップ(出典:観光庁)
今後は、こういった点も考慮して、観光DXに取り組むと良いだろう。
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