海外のEdTech事情を見てみる

2024年11月5日

近年、DXの推進や新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、教育(Education)の現場にテクノロジー(Technology)を取り込んで遠隔教育を行うなどのイノベーションを起こす、EdTech(エドテック)の取り組みに注目が集まってきた。日本は海外と比べて、教育現場へのIT機器導入が遅れているが、先行する他の国ではどのようにEdTechを取り入れようとしているのだろうか。

日本では50年以上前から最新テクノロジーによる教育の研究が

そもそも日本でも、ICTなどのテクノロジーを教育の現場で活用する取り組みは、50年以上前から行われている。例えば、教育工学におけるコンピュータ利用の研究は1960年代から進められており、この頃にコンピュータで教育を支援するCAIシステム(Computer Assisted Instruction system)の開発が始まった。また、CMI(Computer Managed Instruction)と呼ばれる、コンピュータ管理教育システムの開発もその頃から始まっている。

ただ、当初は8ビットパソコンを使ったカタカナ表記や、線を主体にした単純なグラフィック画面しか使えなかったため、実際に学校などの教育現場に受け入れられるコンテンツがなかなか生まれなかった。その後、Windowsパソコンの普及によって、平仮名や漢字だけではなくさまざまなビジュアルを含んだコンテンツも制作できるようになった頃から、教育現場でのICT活用の可能性が広がっていく。

現在、EdTechは特にAI(人工知能)や通信機能を生かしたコンテンツが中心で、生徒向けの学習支援システムや教師のための授業支援システムの他にも、英会話やプログラミングなどが学習できるeラーニング、学校での利用を主眼に置いたSNSなど、教育現場での利用に限らないさまざまなサービスが登場している。

韓国では2028年までに一部の教科を除きデジタル教科書に移行

韓国では2025年3月に始まる1学期から、日本の小学校に相当する初等学校の3~4年、中学1年、高校1年の数学・英語・情報・国語科目で、AIを搭載したデジタル教科書を導入する方針だ。韓国教育部は「少子化に対応した教育システムへの変更」および「地域や家計による教育格差の緩和」を目的に、学生一人ひとりに最適な教育を提供する「デジタル基盤教育革新方案」を発表。その目的の実現に、デジタル教科書を利用するEdTechを進めようとしている。

デジタル教科書は、AIのチューター(教師)が生徒のレベルや学習理解度、進捗度などを分析し、繰り返し学習できるようサポートするタブレット型の教科書だ。担当教員は、ダッシュボードから生徒の様子をチェックすることができる。韓国では2028年には、音楽や美術、体育、倫理を除くすべての教科でデジタル教科書が用いられる予定だが、移行期間中は教師、生徒ともに混乱を避けるため、デジタル教科書と紙の教科書が併用されるという。

韓国教育部では、デジタル教科書の導入によって「生徒が事前に授業の知識を得て、その後に教師と討論するプロジェクト学習などの授業が行える」としている。その一方で、親からは「すでにスマートフォンやタブレットを使いすぎている子どもたちにとって、デジタル教科書を使う機会が多くなると脳の発達に悪影響を及ぼす可能性があるのではないか」という心配の声も出ているようだ。

韓国でEdTech事業を展開するサムソンのサマーキャンプ(出典:サムソンのプレスリリースより引用) イメージ
韓国でEdTech事業を展開するサムソンのサマーキャンプ
(出典:サムソンのプレスリリースより引用)

EdTech市場を牽引するインドのスタートアップ

人口13億人を超える世界有数の経済大国インドでも、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響によって、学校閉鎖を余儀なくされたことからEdTechが注目されている。インドではパンデミックにより、約2億人の就学児童が既存教育を実施できない事態に陥ったことから、オンライン学習への移行及び利用拡大が進んでいる。

そもそも、都心から離れたインドの農村部や遠隔地では教育インフラが不十分であり、質の高い教育を受ける機会が限られているといった課題があった。都市部と比較して、教師の質や教育施設の整備が遅れているため、教育の質に大きな差が生じている。また、インドは世界で最も若い人口を抱える国の1つであり、毎年数百万人の新入生が学校に入学している。その一方で、教育インフラの整備が追いついておらず、教師や学校の不足が深刻な問題となっている。さらに、学校や地域によって教育の質に大きなばらつきがあるため、教育の標準化が求められている。

そうした課題を抱える中、インドではEdTechのスタートアップが成長を見せている。その1つVedantuは、主に3歳から18歳の子どもを対象としたライブ型授業を展開するeラーニングのスタートアップで、教師が生徒の様子を見ながらクイズやアクティビティを交えて授業を行う。また、2011年に設立されたBYJU'Sは、現在1億人以上の登録ユーザーを抱える。インタラクティブな学習コンテンツとAIを活用した個別指導により、学生の学習効果向上を目指している。

インドでは政府が「自立したインド」を掲げ、様々な分野における政策を打ち出しているが、その中でもオンライン学習を含むEdTech分野に対しては積極的に政策を進めている。 インドは2020年に新たな全国教育政策(NEP2020)を承認し3歳からの早期教育を取り入れるとともに、2030年までにすべての子どもが早期教育を受けられることを目指しているので、今後もインドがEdTech業界の成長を牽引していくかも知れない。

成長が期待されるインドのEdTechスタートアップ(出典:VedantuのWebページより引用) イメージ
成長が期待されるインドのEdTechスタートアップ(出典:VedantuのWebページより引用)

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