水素を積極的に活用する神戸市のスマートシティ構想

2025年6月23日

神戸市では、地球温暖化防止の切り札として期待されている水素に注目し、「水素スマートシティ神戸構想」を掲げている。民間企業が進める技術開発への支援や、市民の身近なところでの水素の利活用を促進するなど、産学官の連携のもと、さまざまな取り組みを推進している。現在、神戸市では、将来的に水素を多くの人々が利用することができるように、「作る」「運ぶ」「溜める」「使う」といった水素のサプライチェーン構築に向けた、さまざまな実証事業が行われている。

水素を作って運び、溜めておくプロジェクト

「作る」「運ぶ」「溜める」を実証するプロジェクトは、川崎重工業や岩崎産業などで構成される「技術研究組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)」が実施している。水素を、オーストラリア・ビクトリア州にある炭田より採掘される褐炭を用いて現地で製造。褐炭は石炭の一種で、石炭は炭化度が高い順に、無煙炭、瀝青炭(れきせいたん)、亜瀝青炭、褐炭、亜炭などに分類されている。石炭火力発電では主に瀝青炭が利用されており、褐炭は瀝青炭と比較し水分量が50%~60%と多く、低品質で乾燥させると自然発火しやすいなどの特徴を持つ。これによって輸送に適さず、これまでは採掘された炭田周辺での利用にとどまっていた。

一方で、水素を身近なエネルギーとして利用するには、安価で安定した水素の流通が重要になる。そのために必要なのが、水素を大量に製造し、効率的に輸送する技術だ。そこで神戸市では、海外で安く作られた水素を運搬する技術の実証が行われている。水素をガスの状態で運搬することは非効率だが、-253℃まで冷却すると液体になり体積を1/800まで圧縮できる。HySTRAはオーストラリアで作られた水素を、液化水素運搬船で長距離輸送する技術の実証にも取り組んでおり、2022年2月に日豪実証航行に成功している。

こうして海外から運ばれてきた液化水素を国内で使用するために、神戸空港を核とした人工島である神戸空港島の「神戸液化水素荷役実証ターミナル(Hytouch神戸)」で荷揚して、貯蔵する実証実験が進められている。Hytouch神戸に作られた容積2,500㎥のタンクは真空断熱層を有しており、外部からの熱を遮断することで、液化水素のまま長期間貯蔵することが可能だ。

(図1)神戸空港島の液化水素貯蔵・荷役基地 Hytouch神戸(出典:HySTRA) イメージ
(図1)神戸空港島の液化水素貯蔵・荷役基地 Hytouch神戸
(出典:HySTRA)

ポートアイランドに水素発電所を設置

一方、「使う」に関しては、CO2を排出しない電気を作る未来をめざして、国の支援を受けながら民間企業とともに、発電の燃料を水素に替える実証事業が行われている。川崎重工業などが実施している「水素コージェネレーションシステム(CGS)」のプロジェクトでは、水素を燃やして発生する熱風で発電機を動かして電気を作る実証設備(ガスタービン)が置かれている。

また、神戸港内に作られた人工島である神戸ポートアイランドには、「Hy touch神戸」に貯めておいた水素も使って発電する「神戸水素発電所(水素CGS活用スマートコミュニティ実証地)」がある。この発電所では、建物が並ぶ街中で水素だけを使って発電し、できた電気と熱(蒸気)を病院やスポーツセンター、国際展示場、下水処理施設に供給。施設の冷暖房や、温水プールの熱源として利用している。

今後も引き続き実証試験を進め、季節変動による水素ガスタービンの性能変化やエネルギー制御における最適な熱電併給バランスに関するデータを取得していく予定だ。これらの実証試験を通じて、燃料となる「水素」と「天然ガス」、コミュニティで利用する「熱」と「電気」を総合管理し、経済性や環境性の観点から最適制御するために開発した「統合型エネルギーマネジメントシステム(統合型EMS)」の確立を目指している。

(図2)神戸水素発電所の概要(出典:兵庫県Webサイト) イメージ
(図2)神戸水素発電所の概要(出典:兵庫県Webサイト)

水素で走る燃料電池自動車を普及させる

神戸市ではさらに、水素を燃料として電気を作り、モーターを動かして走行する燃料電池自動車(FCV)も積極的に活用し普及させようとしている。すでに公用車として3台導入し、2023年度からは神戸市バスとして「水素バス」の運行が始まっている。

2024年11月には「水素で走るごみ収集車」(燃料電池自動車)の導入実証も実施。ごみ収集車を走らせることで、市民生活に身近な部分でも水素の活用が進められることをPRすることが目的だという。実証では、CO2削減量などの車両導入効果や、坂道・住宅地での操作性といった検証が行われた。

燃料電池自動車の普及には、水素を充填する水素ステーションの充実が必須だ。神戸市では、水素ステーションの整備を促進するための積極的な支援も行っている。2025年5月末現在、神戸市内の水素ステーションは3ヵ所だが、今後も数を増やし日常生活の中で燃料電池自動車を利用できる環境を整えていくとしている。

(写真1)神戸市が導入した「水素で走るごみ収集車」(出典:神戸市プレスリリース) イメージ
(写真1)神戸市が導入した「水素で走るごみ収集車」(出典:神戸市プレスリリース)

「未来図メディア」メールマガジン登録

5G×IoTの最新情報やイベント・セミナー情報を
いち早くお届けします。

ミライト・ワンのソリューションに関するご質問、ご相談など
ございましたらお気軽にお問い合わせください。

ページトップへ