AIによるインフラ劣化診断を積極導入する国内事例

2026年5月11日

日本では都市部・地方部を問わず、橋梁やトンネル、道路などの社会インフラの老朽化が大きな課題となっている。これまでインフラ点検は、専門技術者が現地で近接目視を行う方法が中心だった。しかし、対象施設の増加や技術者不足を背景に、従来手法だけで維持管理を続けることは難しくなりつつある。こうした中で注目されているのが、AIを用いたインフラ劣化診断だ。

点検支援技術の実装を進める国土交通省

国内では国土交通省が、AIによるインフラ点検の導入をけん引している。橋梁やトンネル、道路附属物などの定期点検では、従来から近接目視が原則とされてきたが、近年は画像計測やAI解析を組み合わせた点検支援技術の活用が広がっている。特に損傷画像の蓄積と機械学習を用いて、ひび割れ幅や損傷位置の推定を支援する技術は、点検現場での実用性が高いとみられている。

国土交通省が重視しているのは、単純な自動判定そのものよりも、現場で使える運用設計である。AIが損傷候補を抽出しても、最終的な健全性の診断や補修の要否判断には技術者の確認が欠かせない。そのため実務では、AIを「点検者を置き換える仕組み」としてではなく、「点検者の見落としの防止や一次スクリーニングを支援する仕組み」として位置付ける考え方が強い。

こうした課題への対応に向けて、国土交通省は産学官関係者連携による「インフラ施設管理AI協議会」を設置。排水機場などの非常用設備に関する設備劣化傾向を、AIを活用して正確かつ迅速に把握するための支援を行う。現在、機能喪失の防止や適切な維持管理体制の確保を可能にする、AIモニタリングシステムの研究開発に着手している。

(図1)河川機械設備(排水機場)の現状と将来像(出典:国土交通省発表資料より引用) イメージ
(図1)河川機械設備(排水機場)の現状と将来像(出典:国土交通省発表資料より引用)

高速道路の維持管理高度化を図るNEXCO

高速道路の点検に関しては、NEXCO東日本、NEXCO中日本、NEXCO西日本や首都高速道路が、AIや画像解析を活用した点検高度化を進めている。高速道路は橋梁や舗装、トンネル、のり面、附属施設など点検対象が膨大で、しかも交通量が多い中で作業しなければならない。そのため、点検車両や走行型計測機器で取得した高精細画像を解析し、舗装のひび割れやトンネル覆工の変状、構造物表面の異常を効率的に把握する仕組みへの期待が大きい。

特に高速道路点検においては、初期の状態では路面変状が現れにくく、路面に変状が確認されると比較的短期間で路面損傷へと進展する特徴があるポットホール(路面の穴)への対応が重要だ。走行中にハンドルを取られ、重大事故につながる危険があるポットホールは、NEXCO中日本管内の高速道路でも年間数千個の発生が確認されているという。

従来の点検では点検員が車両に乗り込み、路面や標識などさまざまな点検対象の確認も併せて目視で行っていたため、時間的ロスが大きく点検品質にばらつきがあるなどの課題があった。こうした状況を受けて、NEXCO中日本は東芝と東芝デジタルソリューションズが開発したポットホールを検知する路面変状検知AIを、高速道路の日常点検に導入する実証実験を行った。点検車両に搭載したカメラで収集した画像にAIを適用し、高速道路の走行中に高精度でリアルタイムにポットホールを検知する技術の有効性を検証している。

実験では、伊勢原保全・サービスセンター管内の新東名高速道路・東名高速道路などを走行して路面画像を収集。画像からポットホールの有無に着目して学習データを作成した結果、一般道の画像で学習した汎用道路モデルと比較して、検知精度は61.25%から84.22%に向上している。

(図2)NEXCO中日本が行ったAIによるポットホール検知の実証実験(出典:東芝のプレスリリースより引用) イメージ
(図2)NEXCO中日本が行ったAIによるポットホール検知の実証実験(出典:東芝のプレスリリースより引用)

ドローンと画像解析を組み合わせる自治体の橋梁・道路点検

地方自治体でも、AIを活用した道路・橋梁点検の導入が広がっている。道路巡回車両やスマートフォン、ドライブレコーダーで取得した映像をAIが解析し、舗装の損傷や道路附属物の異常候補を抽出する手法は、比較的導入しやすいことから採用事例が増えている。自治体にとって重要なのは、AIの検出精度だけでなく、限られた予算と人員の中で、どの施設から優先的に点検・補修するかを判断できるようになることだ。

特に橋梁点検では、河川上や山間部、高所など、人が近づきにくい橋梁において、従来の近接目視に多くの時間と人手を要していたため、ドローンを使った撮影とAI画像解析を組み合わせる動きが広がっている。伊那市とエヌ・ティ・ティ エムイーは、2023年度から2025年度にかけて行った「アジャイルドローンによる橋梁点検構築事業」の成果として、「橋梁点検システム」の運用拡大に関する連携協定を結んでいる。

ドローンで撮影した写真をプラットフォームにアップロードし、それらの画像を合成して点検対象全体の画像を作成することで、AIによるひび割れ位置の特定作業を効率化する。その後、アップロードされた画像からAIがひび割れを検出し、画像上に表示する。AIが検出したひび割れについては、プラットフォーム上で手動による追記や修正が可能で、修正後の情報はPDF形式で出力できるため、点検調書への反映作業の省力化・効率化にも寄与するという。

(図3)伊那市のAI によるコンクリート部材のひび割れ点検作業の効率化のイメージ(出典:エヌ・ティ・ティ エムイーのプレスリリースより引用) イメージ
(図3)伊那市のAI によるコンクリート部材のひび割れ点検作業の効率化のイメージ(出典:エヌ・ティ・ティ エムイーのプレスリリースより引用)

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