NEXCO東日本がSMHで目指すスマートメンテナンスとは?

2026年3月23日
話し手
  • ネクスコ東日本エンジニアリング
  • 常務取締役 兼 執行役員技術本部長
    北海道大学 データ駆動型融合研究創発拠点 客員教授
  • 久保竜志
ネクスコ東日本エンジニアリング 常務取締役 兼 執行役員技術本部長 北海道大学 データ駆動型融合研究創発拠点 客員教授 久保竜志氏
ネクスコ東日本エンジニアリング 常務取締役 兼 執行役員技術本部長 北海道大学 データ駆動型融合研究創発拠点 客員教授 久保竜志氏

NEXCO東日本は現在、高速道路の点検・維持管理業務の効率化と高度化を目指し、2014年からSMH(スマートメンテナンスハイウェイ)プロジェクトに取り組んでいる。現状、SMHの進捗や効果はどのようになっているのか。プロジェクトの初期から携わっていた、ネクスコ東日本エンジニアリング 常務取締役 兼 執行役員技術本部長 久保 竜志(くぼ りゅうし)氏に聞いた。

──SMHが始まったきっかけは何だったのでしょうか?

久保氏:直接の契機は、2012年12月に発生した「笹子トンネル天井板崩落事故」です。今後、ますますインフラが老朽化していく中で、人間だけによる点検では限界があるのではないかという議論がNEXCO東日本の中でも強くなりました。当時、私はNEXCO東日本の本社で維持管理部門を担当していました。笹子トンネルの事故は、NEXCO中日本管内で発生した事故でしたが、われわれの管内でも起こり得るのではないかと考えました。暗い空間で天井板を吊っている構造など、人の目視だけで完全に状況を確認できるのかという危機感があり、人間の点検を補うセンサーやロボット、AIを組み合わせた「安全を確保する持続可能な維持管理体制」を構築する必要性が高まりました。

SMHとは(出典:NEXCO東日本)
SMHとは(出典:NEXCO東日本)

──SMHは作業の効率化よりも、検査精度の向上が主な目的だったのでしょうか?

久保氏:プロジェクトの目的は安全性の確保ですが、その検討プロセスは「生産性向上」が中心です。将来、人が減る、コストを削減するという課題は必ず発生するので、日本のインフラを守るには大幅な生産性向上が不可欠だと考えていました。SMHは単なる技術導入ではなく、点検から意思決定までのプロセス全体を刷新することが重要でした。今で言うDXです。

NEXCO東日本の管理資産数(出典:NEXCO東日本)
NEXCO東日本の管理資産数(出典:NEXCO東日本)

──久保さんはSMHにどのように関わってきたのですか?

久保氏:2013年にSMH構想を立ち上げ、2014年に基本計画を策定しましたが、私は当時、NEXCO東日本本社のSMH推進チームで、サブリーダーを務めていました。その後、2015年頃から「計画したものが現場で使えるのか実証してほしい」といわれ、モデル事務所であった関東支社の佐久管理事務所で所長として、4年弱、PoC(実証)を進めました。そこで成果が出たものを全国展開していったという流れです。

──SMHの中で特に成果が大きかった取り組みは何ですか?

久保氏:われわれが特に意識したのは、保全計画会議資料作成の自動化です。この会議は、現場の点検データを見ながら損傷状態がどうなっているのか、補修計画はどうするのか、計画通り点検補修ができているのかを確認するためのものです。以前は手書き入力して、ExcelやPPTなどで会議資料を作っていましたが、大きな労力がかかっていました。そこで、入力のタブレットアプリ「e-点検し太郎」をつくり、入力が終われば、BIでデータを可視化するようにデータが飛んでいって、今どういう状況なのか、つぶさに分かる仕組みを導入し、自動化しました。この仕組みは全社的に、すべての現場で実装できています。ここまで自動化できている例は、他社ではあまり見られないと思います。また、データだけだと現場がよく分からないので、社内用のストリートビューを作りました。

入力のタブレットアプリケーション「e-点検し太郎」(出典:NEXCO東日本)
入力のタブレットアプリケーション「e-点検し太郎」(出典:NEXCO東日本)

──「社内用ストリートビュー」とは、どのようなものですか?

久保氏:現場の映像をデータ化し、座標情報を埋め込むことで、映像上で状況確認やどのくらいの高さがあるのか、どのくらいの幅があるのかといったスケール計測が可能になります。さらに「タグ付け」により、橋梁の損傷履歴や注意点、過去の出来事なども備忘録として映像上に記録できます。これにより、担当者が2~3年で異動しても、現場ノウハウが引き継がれ、業務品質を一定に保てます。これは非常に大事で、現場状況が引き継げないまま人が変わると、パフォーマンスが落ちてしまいます。これを何とかしなければならないと考えました。

「社内版ストリートビュー」といわれる全周囲道路映像(出典:NEXCO東日本)
「社内版ストリートビュー」といわれる全周囲道路映像(出典:NEXCO東日本)

──橋梁点検では、どのような技術が活用されているのですか?

久保氏:橋梁点検では、移動式高解像度カメラ装置「スパイダーアイ」やUAV(ドローン)を使い、人と機械を組み合わせて総合的に管理する体制をSMHで構築しています。

ただ、「スパイダーアイ」はワイヤーを伝って移動しますが、点検のためのワイヤー設置に手間がかかるため、小型ドローンで代替できないかなど、継続的に改善を検討しています。

「スパイダーアイ」(出典:NEXCO東日本)
「スパイダーアイ」(出典:NEXCO東日本)

また、関越道の片品川橋などは、橋脚が55メートルの高さがあり、橋梁点検車両や高所作業でカバーできないエリアは、人がロープでアクセスしています。そのために専門業者呼んで点検するため、労力とコストがかかっています。そこで、壁昇降ロボットを開発しており、ほぼ完成しています。

「壁昇降点検ロボット」(出典:NEXCO東日本)
「壁昇降点検ロボット」(出典:NEXCO東日本)

──そのほか、センサーも活用しているようですが・・・

久保氏:傾斜計やレーザースキャンなど、さまざまな監視センサーを使って、一部の高速道路構造物のデータを収集し、ネットワークを通じてクラウドへ送信しています。センサーは軽微な変化に気づけるというメリットはありますが、費用対効果が厳しいため、全線への埋め込みは難しい状況です。現状は必要な箇所で、最低限のセンシングを行っています。

一方で課題は、各メーカーのセンシング機器が個別システムになっており、現場が複数システムを確認しなければならない点です。そこで現在は、どの会社のセンサーでも統合的に可視化できるプラットフォーム化に取り組んでいます。

──「ロードアイデイズ」とは何ですか?

久保氏:ロードアイデイズ(Road Eye-DAYS)は、LiDAR(レーザーを照射し、反射光を検知して距離や3D形状を測定)と高精細カメラを使って高速道路の路面と空間映像を連続的にプロファイルし、3~4日毎に全線をデータ化しようという取り組みです。

従来は1年に1回の調査で年単位の断続データしかありませんので、経年劣化を予測して、路面の補修計画を作っています。ロードアイデイズのような仕組みが実現すれば、リアルタイムに近い状況で補修計画が立てられるようになります。連続データにより劣化進行を敏感に捉えられるようになるということです。ただ、LiDARやラインスキャンカメラなどの機器が高額であり、日常点検に使うにはコストダウンが必要です。現在は大型機器をコンパクト化し、最終的には黄色のパトロール車両に搭載できるようにすることを目指しています。なお、すでに現場に3台の計測車両を配置して走行実証しています。

また、これは私見ですが、将来は一般車のドライブレコーダーの映像や、高速の定期バスの装置からデータを取得できないか考えています。私は、こういった全産業が協力して日本のインフラを守る時代が来るのではないかと思っています。1つの車両ではわずかしか測れなかったものが、いろいろな車両からデータが集まってくると、データが線や面情報になります。それをデータセンターで一括的に分析して管理するようになると、日本のアセットマネジメントは、飛躍的にコストが下がると思っています。

「ロードアイデイズ」(出典:NEXCO東日本)
「ロードアイデイズ」(出典:NEXCO東日本)

──BIM/CIMなどの3D管理はSMHでも重要なのでしょうか?

久保氏:BIM/CIMは有効ですが、既に供用している4,000km規模の高速道路全体で導入するにはコストが大きいという課題があります。

そこで注目しているのが「3DGS(3D Gaussian Splatting)」です。iPhone15 Proで撮影した映像でもフォトリアルな3Dモデルが生成でき、将来的な点検管理の可能性が広がっています。

単純にiPhone撮影だけでは橋梁下部など複雑な環境では精度が十分ではありません。そのため、マルチハンディスキャンというSLAM技術(カメラやセンサーで地図をリアルタイムに作成し、自分の位置を特定する技術)を使ったデバイスを活用し、3D技術を簡易に点検に使えないか研究しています。損傷箇所を3Dモデル上にデータで可視化し、画像処理やAIで損傷レベルごとにスクリーニングして、技術レベルの高い点検員が、本当に危険な場所だけを確認する仕組みを目指しています。

「3DGS」(出典:NEXCO東日本)
「3DGS」(出典:NEXCO東日本)

──災害対応や危機管理では、どのようにデータを活用していますか?

久保氏:災害対応ではGIS(Geographic Information System:地理情報システム)を活用し、現場でスマホから入力した情報を本社・支社・事務所が同時に共有できる仕組みを整えています。

また現場やSNS情報なども時系列で取り込んでいます。例えば、関東地方で大雪となった時は2,000件規模のスレッドが登録されるので事案終了後はAIで要約化し、災害対応のノウハウを蓄積する取り組みも進めています。

──SMHのこれまで効果は、どの程度あったのでしょうか?

久保氏:保全計画会議資料作成の業務では、生産性が何十倍にも向上しています。インフラ管理全体で見るとまだ課題は残りますが、個別業務では「何十時間かかっていた作業が数十分で終わる」レベルの改善が随所で起きています。

──次期SMHで目指す方向性は何ですか?

久保氏:次期SMHでは「技術者とAIが調和するデータ駆動型の維持管理」を目指しています。リアルタイムな実測データや高精度な予測など、出来る限りデータによる意思決定を行うことで、不確実性への対応を安全と生産性を両立して高めていくことがテーマです。

SMHで目指す方向性(出典:NEXCO東日本)
SMHで目指す方向性(出典:NEXCO東日本)

──SMHの課題は何だと考えていますか?

久保氏:課題は多くあります。例えば、データ分析モデルが確立できていない、データ活用するためのクレンジングがまだ十分でない、リスクベースのアセットマネジメント(どこから先に手を付けるか)をもっと客観的に行う必要がある、開発リソース(人・資金)が不足している、業務全体を見たときにDXに到達していないというような点です。部分最適は進んでいますが、全体最適のDXにはまだ距離があると考えています。

──SMHを「DX」として完成させるために必要なことは何でしょうか?

久保氏:プロジェクトを単発で終わらせるのではなく、新たな顧客体験の価値創造を行って、それを外販まで結びつけるのがDXといわれています。つまり、全体を通して「プロダクト化」していく視点が重要です。そのためにはプロダクトマネージャー機能を強化する必要があります。また、現場のPDCAと、データによるシミュレーション・モニタリングを往復させる仕組みを作り、いわゆるデジタルツインとして管理を高度化していきたいと考えています。

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