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私たちの生活の質を向上させるリアルハプティクス技術と5G

2021年12月03日
話し手
  • 慶應義塾大学 ハプティクス研究センター
  • センター長
  • 大西 公平氏

  • 副センター長
  • 永島 晃氏

慶應義塾大学ハプティクス研究センターでは、産官学の連携によって産業界にリアルハプティクス技術を応用した新しいソリューションを創出することを目指している。リアルハプティクスとはどのような技術で、そこに5Gがどのように必要とされているのか。今回は、触覚通信技術を発明し特許を取得した、慶應義塾大学ハプティクス研究センターのセンター長である大西公平氏と副センター長の永島晃氏に、リアルハプティクス技術と5Gによって実現される新しい社会の姿などについてお話しを伺った。

ロボットに人間の感覚を与えるリアルハプティクス技術

 少子高齢化による若年労働者不足は、今後日本だけではなく世界的な課題となってきそうだ。しかも、これから不足してくる人材は製造業や建設業などといったものづくりに関わる産業だけではない。福祉や介護を含めたサービス業などの現場でも、働き手が足りなくなってくると見られている。そんな中、大西氏は日本のものづくり産業の実態について、「産業用ロボットの3分の2が半導体と自動車製造に関わる製造工場で利用されています」と説明する。「ところが、それらの工場は日本の産業全体から見たらごく一部の現場でしかなく、それ以外のさまざまな産業分野の工場にはロボットが導入されていません」(大西氏)。

 では、なぜ特定の分野でしか産業用ロボットが利用されていないのか。「今の産業用ロボットは単機能で、決まり切った作業しかできません。産業用ロボットを、人間のように臨機応変な作業に対応させるのは無理なのです。なぜなら、現状の産業用ロボットは人間とは関節の構造などが全く異なるため、人間と同じような動きができないからです。そのため、工場の現場ではティーチングといった作業によって、人間がロボットの構造に合わせてものをつかんだりといった動作を教え込んでいます」(大西氏)。

 最近では、産業用ロボットも工場で人間と協働作業ができるように、人間の関節に近い構造を持つロボットも開発され始めている。さらに、そうしたロボットにAIを組み込み、自分で考える脳を与えようとしている。しかし、ロボットの脳となるAIに、ロボットの筋肉となるモーターなどを直結させても、人間のような動作をさせることは難しいと大西氏は語る。「私たちは、ロボットの脳と筋肉を結びつける神経のような働きをする、リアルハプティクス(力触覚)技術を開発しています。神経を組み込むことでロボットに触覚を与え、ロボット自らが力加減を制御して、人間が行うような非定型の作業にも対応させようとしています」(大西氏)。

慶應義塾大学 ハプティクス研究センター センター長の大西公平氏
慶應義塾大学 ハプティクス研究センター センター長の
大西公平氏

リアルハプティクス技術の伝達に必要な5Gの通信技術

 人間はものを持ち上げる際、ものに触った感覚を感じる「触覚」だけではなく、ものをつかむ力を感じる感覚「力覚」も感じている。この2つを合わせた感覚が「力触覚」であり、リアルハプティクス技術はこの「力触覚」を数値化して、ロボットが生卵のような柔らかいものでもつかめるようにする。「人間がさまざまなものをつかめるのは、それまでの経験に基づくスキルがあるからです。そういったスキルをデジタル化してロボットに教えます。とはいえ、単に柔らかいものをつかむだけでは単純な作業しか実現できません。人間と同じ仕事をさせるには、手でつかむだけではなく上下に動かしたり回したりひねったりなど、さまざまな動作が必要になります」(大西氏)。

 例えば、単にネジを締める作業であっても、人間なら最初は手で軽く締めて、うまく嵌合しているかどうかを感触で感じ取り、さらに機械を使って締めたりする。こうした人間が行うさまざまな動作を、すべてデータ化するのは簡単ではない。そこで大西氏が考えているのが、さまざまな動作のデジタル情報をクラウドに集約して、必要に応じて通信ネットワークを利用してみんなで活用する、リアルハプティクス技術のソーシャルインフラ「IoA(Internet of Actions)」の構築だ。「さまざまな業種の企業などが、自分たちがロボットに教え込んでいるリアルハプティクスのデータをクラウドに登録します。それらのデータを活用して、他の企業や病院、介護施設などでロボットを動かすのです。そうすれば、例えばある工場でものを動かしたりしているロボットの動作が、介護現場でベッドを動かしたりする動作に役立つかもしれません。そうやって、みんなで日本の人手不足の課題を解決させます」(大西氏)。

 その時に必須となるのが、高速で低遅延、大量の同時接続が可能な通信ネットワークだ。「クラウドに登録されたリアルハプティクスのデータを利用する際に遅延があれば、実際の現場ではロボットが正常に動作できません。リアルハプティクスのデータ伝送には、高速、大容量、高セキュア、そしてリアルタイム性が極めて重要であり、こうしたハードリアルタイムM2M通信を実現するには5G以上の通信技術の活用が必須なのです。私たちの目標はIoAを、リアルハプティクス技術とAI、それに5Gを融合させることで成り立たせることであり、そこに向かって研究開発を進めています」(大西氏)。

リアルハプティクス技術によってスキンシップによるコミュニケーションを実現

 リアルハプティクス技術をペットロボットに活用すれば、遠隔でもスキンシップを感じられるコミュニケーションが実現できるようになる。永島氏が製品化を目指している「ゴロニャン」は、リアルハプティクス技術を活用して双方向スキンシップを実現するペットロボットだ。2匹のゴロニャンを高速・低遅延でネットワーク接続して連携させると、一方のゴロニャンを動かした動作が遠隔にあるもう一方のゴロニャンにリアルタイムに伝わり、まるで2人で直接対面して同じゴロニャンを操作しているかのような感触が感じられるという。

ゴロニャン
(写真)リアルハプティクス技術を搭載したペットロボット「ゴロニャン」
(写真提供:慶應義塾大学 ハプティクス研究センター)
(図)ゴロニャンが実現する4種類のスキンシップ機能(資料提供:慶應義塾大学 ハプティクス研究センター)
(図)ゴロニャンが実現する4種類のスキンシップ機能
(資料提供:慶應義塾大学 ハプティクス研究センター)

 人と人が直接触れあうコミュニケーションに関しては、残念ながら新型コロナウイルス感染症の影響によってすぐには復活しないかもしれない。とはいえ、人間にとってスキンシップによるコミュニケーションは今後も必要とされるだろう。「猫が仲間とじゃれ合うように、人間も言葉では伝えられない思いや親愛の情を、触れ合いを通して伝え合ってきました。一方、遠隔コミュニケーションでは音声や映像情報は高品質・高速で伝達されるのですが、触れ合いに関する情報は欠落してきました。そこで、リアルハプティクス技術と5Gの低遅延技術を活用すれば、こちら側のロボットの動きと遠隔にある相手側のロボットの反応とがリアルタイムで双方向に伝わり、指令通りに動くのでなく、双方向でのコミュニケーションによる合意によって、動きが定まるようになります。まさに、リアルな双方向コミュニケーションが実現できるのです」(永島氏)。

 永島氏がゴロニャンの活用で考えているのが、敬老ホームなどでの利用だ。「特に男性は会社生活から離れてしまうと、周りの人とコミュニケーションを取ることが難しくなったりします。そこで、離れて暮らす家族や友人とゴロニャンを通じて、スキンシップによるコミュニケーションをとれば、音声や画像だけのコミュニケーションよりも温もりを感じることができるのです。今では、ペットロボットも部屋の中を自律的に動き回ったり、会話できたりなどいろいろな機能を持つものが出てきました。でも、ゴロニャンは人間と機械をつなぐペットロボットではなく、人間と人間をつなぐペットロボットなのです。これから老人が元気よく生きていくために非常に重要になってくると思っています」(永島氏)。

慶應義塾大学 ハプティクス研究センター 副センター長の永島晃氏
慶應義塾大学 ハプティクス研究センター 副センター長の
永島晃氏

リアルハプティクス技術と5Gで私たちの生活をより豊かに

 大西氏が関わるのは産業界における課題解決だが、永島氏が関わるスキンシップの実現とはまったく方向性が違うソリューションのように見える。「ゴロニャンが高齢者の介護にも役立てるようになれば、若い労働力を介護以外の別の産業分野で活用できるようになります。そういう意味では、リアルハプティクス技術によるスキンシップの実現も、産業界の課題解決につながっていくと思います」(永島氏)。

 一方で、大西氏も永島氏も、今回紹介したようなリアルハプティクス技術を活用した新たなサービスが本領を発揮するには、ビヨンド5Gや6Gの実用化まで待つ必要があるかもしれないとも考えているようだ。

 「パソコンやスマートフォンなどのプロセッサは、製造プロセスの進化などによって年々高速に処理できるようになりました。通信技術に関しては、5Gによってようやくその進化に追いついてきたと感じています。今までの通信技術は高速かつ大量に情報を送ることだけに力を入れていたように思えるのですが、ビヨンド5Gや6Gではさらなる双方向性の実現にも期待できるので、われわれにとっては非常にありがたいと思っています」(大西氏)。

 「コミュニケーションを支援するマルチメディアには、感覚の統合が必要だと思っています。これまでの視覚、聴覚に触覚が加わることで、本当の意味でのマルチメディアが可能になるのではないでしょうか。力触覚の情報量は非常に小さいのですが、極短時間に大量に送られます。それを遅延無くこなすには5Gが必須で、その技術が私たちのQOL(Quality Of Life:生活の質)を高め、豊かで生きがいのある21世紀社会に向けた環境構築を支援してくれると期待しています」(永島氏)。

 リアルハプティクス技術と5Gの融合は、人間とロボットとの付き合い方を大きく変えてくれるものになるかもしれない。

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