アバターロボットによる新しい移動を進化させる5G

2021年12月17日
話し手
  • avatarin株式会社
  • 代表取締役CEO
  • 深堀 昂氏

avatarinは、航空運輸業大手のANAホールディングスが2020年4月に立ち上げたスタートアップだ。現在、世界中から集まったエンジニアが自律移動型のロボットを開発している。なぜ、ANAホールディングスがアバター事業に投資することになったのか。avatarinはどのようなサービスを提供しようとしているのか。そこに5Gがどう必要とされるのか。今回は、avatarinのCEOである深堀昴氏に、サービスの概要と5Gによって実現される新しい社会の姿などについてお話しを伺った。

アバターロボットで世界各地に瞬間移動

 自宅にいながら、世界中のどこにでも瞬間異動できる「どこでもドア」。子どもから大人まで、だれでも一度は欲しいと思ったことがあるのではないだろうか。avatarinが提供するのは、そんな夢を実現する瞬間移動サービスだ。とはいっても、人間の体そのものを物理的に移動させるわけではない。国内外のさまざまなスポットに“瞬間移動先”として置かれているアバターロボット「newme」を、自宅などからパソコンで操作することで、まるでその場にいるかのように動き回り、見て聞く体験を可能にする。すなわち、人がロボットに乗り移っていろんな場所を移動するわけだ。

 「ヒューマンリソースの移動に時間を使うのではなく、より効率的より多くの人がエコに移動できるような新しい移動サービスを作ることに取り組んでいます」(深堀氏)

瞬間移動を実現するアバターロボット(写真提供:avatarin)
瞬間移動を実現するアバターロボット
(写真提供:avatarin)

 2021年10月から始まったベータ版のサービスでは、瞬間移動が体験できるスポットは北海道から沖縄県まで6施設となっていたが、その後も大分県の3施設と北海道、山梨県の施設が加わり11施設となった(2021年12月3日現在)。newmeを設置する場所は、さらに国内外に広げていく予定だ。

avatarinのサービスが提供されている施設(2021年12月3日現在)
avatarinのサービスが提供されている施設
(2021年12月3日現在)

 それらの施設以外にも、avatarinが提供するサービスにはオリジナルツアーなどもいろいろと企画されている。例えば、先日はレーシングドライバーの佐藤琢磨氏と一緒に、栃木県のツインリンクもてぎにあるホンダコレクションホールにレーシングカーを見に行くツアーが行われた。

 「アバターロボットを活用したライトな移動手段だからこそ、気軽にさまざまな場所を訪問できるのです。たとえば、平日の夜に子どもと一緒に水族館に瞬間移動してジンベイザメの生態について学んだり、地方の酒蔵に瞬間移動して、現地スタッフの話を聞きながらお酒を選んだりすることもできます。また、諸事情で延期になってしまったのですが、海外ではUAEのドバイで開催されているドバイ万博の日本館に瞬間移動して、会場を動き回れるツアーも実施する予定です」(深堀氏)。

avatarin株式会社 代表取締役CEOの深堀昂氏
avatarin株式会社 代表取締役CEOの深堀昂氏

ビジネスとしてお金を稼いでくれるロボット

 そもそも、なぜANAホールディングスが、アバターロボットを活用したプラットフォームを提供するスタートアップを作ることになったのだろうか。その背景について深堀氏は、「現在、航空機を利用している人は、年間で世界中の人口の約6%しかいません。経済的な理由や身体的な制限などによって、94%の人は航空機を利用した長距離移動をしない、もしくはできないのです。長距離移動というサービスを提供する航空会社にとって、世界中の6%の人にしかサービスを提供できる機会がないということが、大きな課題となっていました」と説明する。

 航空機を利用している人も、もともとは乗ることが目的ではなく、目的地まで移動する手段として利用している。移動する目的は、商談や会議、観光、レジャーなどさまざまだ。移動目的が商談や会議などビジネスに関わることであるなら、すでにオンラインでのビデオ会議でも十分目的を果たせることがわかってきた。だが、観光やレジャーならば、移動先で自由に動き回りたい。そこで、現地を自由に移動できるアバターロボットを活用すれば、航空機を利用できない人でも自宅から遠く離れた観光地やレジャー施設に行って楽しむことができる。すなわち、ANAホールディングスは新しい移動手段の選択肢として、アバターロボットによるサービスを提供するのだ。

 ベータ版で瞬間移動できるavatarinのサービスには、現地の商品を購入できる決済機能も搭載されている。大分県の地方創生推進を目的としたツアーでは、現地の特産品直売所で活魚を購入し、自宅に送ってもらうことも計画されている。こうしたことから、newmeはお金を稼いでくれるロボットであると深堀氏は紹介する。

 「これまでロボットの導入は、作業を効率化したり危険な仕事を人の代わりに担うなど、人手不足の解消などが大きな目的でした。ところが、newmeを導入すれば、これまでターゲットにできなかった遠方の顧客を取り込むことができ、入場料や物販などで売上が得られるという、お金を稼ぐために導入するロボットなのです」(深堀氏)

沖縄美ら海水族館でのavatarinのサービスイメージ(写真提供:avatarin)
沖縄美ら海水族館でのavatarinのサービスイメージ
(写真提供:avatarin)

アバターロボットには必須となる5Gインフラの活用

 深堀氏はそんなアバターロボットにとって、5Gのように高速・大容量、かつ低遅延で複数デバイスの同時接続性も確保されるモバイル通信インフラの活用は必須であると語る。なぜなら、現地での体験をよりリアルなものにするには、できる限り高精細な映像を伝送する必要があるからで、そのためにnewmeには高フレームレートな2Kのステレオカメラが搭載されている。

 「ロボットを遠隔からリアルタイムに操作するだけならば、ワイヤレスよりも有線による通信の方がトラブルも少ないでしょう。また、ロボットを自律移動させる場合には、通信よりもリアルタイムにその場の状況を判断して制御させる技術の方が重要になってきます。一方、瞬間移動して現地の人とコミュニケーションをとったり、観光したりするアバターロボットには、遠隔操作や自律移動の技術だけではなく、できる限り精細な画像や音声を遅延なく送受信することが求められます。特に、avatarinのサービスではデータのダウンロードだけではなく、ロボットからのアップロードのための帯域が必要となります。現状は通信状況に応じてデータ量を自動で増減する仕組みなどを開発し、通信環境が悪い場所でも使えるようにしていますが、将来、よりリアルな映像を活用するためには、今の5Gよりもさらに先の6Gなどの技術が必要になることは明らかです」(深堀氏)

 newmeはavatarinによるオリジナル設計で、大分県にあるパートナー工場で製造まで行っている。ソフトウェアから通信プロトコルまで、すべて世界各国から集まってきたスタッフによって作られている。

 「私たちは通信プロトコルまで作り込むことで、5Gを使わなくても非常に重いデータを高速で送れるようにしました。テレビ会議であれば中央の人だけが動いていれば背景は静止させてもいいのですが、アバターロボットによる観光では画面上のすべてを精細に見せる必要があるからです。一方で同時接続性に関しては、どうしてもインフラの技術に頼らざるを得ません。以前、数万人の観客が入っているサッカースタジアムで、ローカル5Gを利用してアバターロボットによる遠隔からの観戦を試したのですが、それだけの人が集まると現状の5Gでもうまくロボットを動かすことができませんでした」(深堀氏)

社会インフラとしての活用を目指すアバターロボット

 avatarinが目指すのは、社会インフラとしてのロボットの活用だ。新しい移動手段として、まるで飛行機のように、newmeを運行させたいという。それが、CO2排出の抑制にもつながっていく。

 「私たちは、アバターロボットによる新しいライフスタイルを作っていきたいと思っています。アフターコロナになったとしても、従来のように物理的な移動だけに固執すると、環境負荷がかかりすぎます。たとえ電気のようなクリーンエネルギーを活用するにしても、さまざまな環境整備が必要になるので、結局人が移動するにはいろいろなエネルギーが必要なります。アバターロボットによる移動に必要なのは、パソコンとインターネット環境だけです」(深堀氏)

パソコンがあれば可能なライトな移動手段を提供(資料提供:avatarin)
パソコンがあれば可能なライトな移動手段を提供
(資料提供:avatarin)

 一方で、最近ではメタバースのようなバーチャル世界でのコミュニケーションも浸透しようとしているが、アバターロボットはあくまでもリアルな世界での移動とコミュニケーションを提供する手段だ。バーチャルの世界に入り込むことで現実世界に空しさを感じる人も多くなっているが、アバターロボットでの移動体験はそのまま現実世界とつながっている。

 「そこはやはり、航空会社としてのDNAが入っているところがあります。私たちはリアルのつながりを、オンラインの気軽さで提供するのです。それだけでなく、アバターロボットで訪問した施設や場所に、実際に行きたくなる方も多くいます。そうやって、リアルなコミュニケーションを世界中に広げていくことに貢献したいと思っています」(深堀氏)

 さまざまな場所で5Gが使えるようになると、アバターロボットによるサービスもさらに進化していくことになるだろう。

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