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コンビニや流通分野におけるロボットとの協働・協調による未来像

2025年3月31日(2025年4月21日公開)
話し手
  • 産業技術総合研究所 情報・人間工学領域 インダストリアルCPS研究センター
  • 研究センター長
  • (現、ウェルビーイング実装研究センター 研究センター長)
  • 谷川 民生

リテール領域は、DXが遅れていると言われる分野だが、徐々にロボットの導入も進みつつある。そこで、「コンビニなどのリテール向けAIシステム研究」を行っている、産業技術総合研究所 情報・人間工学領域 インダストリアルCPS研究センター、研究センター長である谷川 民生(たにかわ たみお)氏に、コンビニや流通分野におけるロボットとの協働・協調による未来像を聞いた。
(なお、所属は2025年3月の取材時点のものであり、2025年4月より谷川氏は産業技術総合研究所 ウェルビーイング実装研究センター、研究センター長となっている。)

産業技術総合研究所 情報・人間工学領域 インダストリアルCPS研究センター、研究センター長 谷川 民生氏
産業技術総合研究所 情報・人間工学領域 インダストリアルCPS研究センター、研究センター長 谷川 民生氏

──インダストリアルCPS研究センターでは、どのような研究をしているのでしょうか?

谷川氏:少子高齢化社会において、どのように生産力を維持していくのかという課題に対して、遠隔操作や人と機械の協調という形で、AIとロボットをつなげていくための研究をしています。ロボット単体の話ではなく、AIの活用が重要なので、学習データとなる、現場のデータがとても重要です。このあたりは、IoT技術の連携が重要となります。AIには現場のあらゆるデータが必要であり、理想的には、すべての現場のデータが取れるならば、サイバー空間に物理環境と同じ環境が再現できることになります。ここで、物理空間と常に一致したサイバー空間を表現することがデジタルツインというもので、このデジタルツインができることにより、物理空間では取得が困難なデータや大量のデータをシミュレーション技術を使うことで取得することができます。例えば、事故のようなトラブル現象は、実際の物理空間で行うことは難しいですが、サイバー空間であれば簡単に再現できます。サイバー空間を使うことで、人とロボットの接触などのデータが安全に取得でき、ロボットに対する人の安全性のシミュレーションを行うことができます。
今後、少子高齢化により労働者は不足していきます。一般的にロボットは人の作業の代替として自動化ということで活用されてきました。しかし、人手が必要な作業に、単純な自動化システムを活用することは困難です。例えば、お弁当などの食品という不定形物のハンドリングや、物流倉庫での多種多様な商品を扱うという作業は従来のロボット技術だけでは非常に難しい作業です。我々の考え方としては、一人の人間をロボットに替えるという完全自動化ではなく、二人のうち一人をロボットにすることを想定しています。人の柔軟性とロボットの生産性の高さを上手くマッチングさせていくのが、1つのターゲットになっています。

人とロボットが協力し合って安全に作業するにはまず人を理解することが重要です。たとえば人の動きが挙げられます。ここで、加速度センサーなどを使うと人の動きをリアルタイムで取得することが可能となります。その上で、現状の人手の作業を分析することで、どこをロボット化すると人が楽になるかという評価軸ができるので、生産ラインのこの部分はロボットに任せる、この部分は人が行うという話ができます。

さらに、人の作業データをロギングしていくと次の動きが推測できるので、ロボットが人の動きを前もって予測することで、安全に人の支援を行うことが可能となります。

──遠隔操作は、どのように効率化に役立てられるのでしょうか?

谷川氏:コロナ禍では遠隔就労やテレワークが進みましたが、現場での物理的な作業、例えば物の組み立てやメンテナンスなどは、人が現場に居なくてはいけません。その問題を解決するために、遠隔による無人化施工と呼ばれるものが登場しました。具体的な事例として一番有名なものは、建機を遠隔で動かすというもので、現在実用化されています。

また、道路交通法が改正されて、遠隔であっても人が運転を行うのであれば、ロボットが公道を走っても良いことになりました。楽天やUber Eats等のロボット配送も始まっていますが、基本的には、遠隔操作で人が責任を取るのであれば道路交通法上はロボットの走行を許可することになったので、徐々にこのような遠隔就労の事例は出てくると思っています。

面白い例として「分身ロボットカフェDAWN」がありますが、このロボットは障害者の方が遠隔操作し、コミュニケーションサービスを提供しています。これも遠隔就労の一つの事例で、かつ就労しにくい人たちが就労できる例だと思います。

──リテール分野での遠隔就労についてはどう思われますか?

谷川氏:今はコンビニ環境を対象に取り組みを行っていますが、現在のコンビニサービスのすべてに適応というのは、難しいと思っています。まずはコンビニのバックヤードや物流倉庫などの商品の個別ピッキングでのニーズがあると思っています。

三次元の商品データがあれば、それをAIで学習することで、ペットボトルが何個並んでいるのかということが分かります。また、こういったデータを使用することで、サイバー空間が手軽に構築できます。例えば、この空間を活用し、遠隔の指示者が立体的な環境情報を得ながら、この商品を持って来てほしいとロボットにお願いすると、ロボット自体がモーション(動き)を自動生成して、サイバー空間の中でシミュレーションを行って、ロボットを動かすことができます。このようにロボット単体の一挙手一投足を動かす遠隔操作ではなく、ロボットに大局的な指示を出すだけで、ロボットの自律動作と組み合わせた仕組みを遠隔就労の一つにできないかと思っています。

従来のロボット自動化のシステムへの活用事例も挙げられます。部品を供給する作業では、自動で問題なく動いているときは良いのですが、部品を落としてしまうなど、トラブルが起きることがあります。例えば、部品の配置が悪く、吸着型のハンドで取り出せないといったことです。色々なところでオートメーション化されていますが、トラブルの時だけ遠隔で人が介入することで、いちいちロボットを非常停止し、メンテナンスの人が現場に駆けつけてトラブルの原因を取り除くということをする必要が無く、トラブル時の停止時間を短くできます。また、トラブルが複数の工場にまたがっていても、人が遠隔操作で介入することで、メンテナンスの作業者が現場にいく必要が無くなると考えています。

また、従来のロボット単体を遠隔操作する技術もAIを活用することで、有益性が増し増す。ロボットの動きを作り出すためにはプログラミングが必要ですが、より複雑な作業をプログラミングすることは非常に困難です。そこで、前述したように加速度センサーなどで人間の動きを学習データとして活用しそれをロボットに転写することも可能ですが、人間の動きはロボットよりも自由度が高いので、単純にロボットに転写することができません。そこで、ロボット単体を人間が遠隔操作することで、ロボット自身のAIが自分がどのように動かされて作業しているのか学習することで、最終的には服を畳むといった複雑な作業も自律でできるようになります。一台のロボットで可能であれば、その学習されたモジュールを使うことで同じロボットを10台、20台と簡単に増やすことができ、生産性が大きく向上します。

──コンビニを対象としたマニピュレーション高度化の研究をされていますが、これはどういった研究でしょうか?

谷川氏:コンビニに限らず、Amazonなどのeコマースでも、個別ピッキングはすべて人が行っています。人は経験的に、商品のおおよその重さがわかります。しかし、ロボットにはその経験という情報がないので、前もって商品ごとに三次元データを活用することで、商品の操作情報を作っておくことで、ピッキングの際に、「商品のここを掴め」というデータから簡単にピッキングすることができます。そのようにロボットが実用的な動作をできるような仕組みに関する研究をしています。

この研究で一番ニーズが高いのは、物流倉庫での個別パッケージングです。倉庫での物の移動はロボットでできますが、「箱から1本取り出す」、「倉庫から1個持って来る」という個別包装は、人間が行うしかありません。物流倉庫は深刻な人手不足なので、個別ピッキングのニーズは高いと思います。

──流通領域でDXが進まないのは、何か原因があるのでしょうか?

谷川氏:流通ではデータ連携が非常に重要で、Society 5.0でも言っているように、様々なシステムのデータを連携して、全体を最適化していくことを目指しています。あるメーカーからどれだけの商品が出荷され、どの商品がコンビニに行き、どの商品が消費者に行くのかというトレーサビリティができて、初めて機械が導入しやすくなります。ペットボトルを流通させる際に、そのペットボトルの重さと形状に関する情報も一緒に連携できると、そのデータをAIで学習することで、コンビニの陳列画像からペットボトルの数が自動的にカウントできます。すなわち、商品の形状や姿勢が簡単に認識できればロボットも導入しやすいわけです。例えばポテトチップスの袋だったら、どれだけ変形するので、ゆっくり掴んだほうが良いとか、そういった商品の情報をいかに連携させるのかというところがポイントになると思います。

さらにそこから進んで、製品を構成する部品の材質と構造がわかると、リサイクル、今で言うサーキュラーエコノミーの話もしやすくなっていきます。そのため、生産データをどのように物流に活用しながら消費者まで持っていくのかということが、非常に重要な話になります。

──個別の商品を認識する部分では、どういった点が重要なのでしょうか?

谷川氏:モノの認識はAIで学習しますが、その際に商品を色々な方向から見たときのデータが大量に必要になります。これまでは、YouTubeなどに代表されるインターネット上の大量な画像データから集めるなどしていましたが、商品の三次元データがあれば、背景はいくらでも変えることができ、棚に載った商品や、机に載った商品、後ろから見た商品など、自動的に作り出すことができます。つまり、基本となる三次元データが非常に重要になります。

──そういったデータはメーカーから、今後、提供されるようになると思われますか?

谷川氏:メーカーが情報を出すインセンティブをどう作り出せるかによると思います。昔からRFIDを付けるという話がありますが、そのコストは誰が払うのかという問題になり、なかなか話が進みません。衣服などに関しては進んできているのですが、チューインガム1個にRFIDを貼るという話になると、コストの問題が出て難しくなってきます。人手不足なので人手では流通コストが上がるが、ロボットを活用するために商品のデータを提供してもらえば流通コストが下がるなど、メーカー側がデータを出すためのインセンティブを作らなければ難しいと思っています。

──店舗でロボットを活用していく動きは、ないのでしょうか?

谷川氏:マニピュレーション(人間の手足のような巧みな動作)というのが、ロボットの中で一番難しい領域ですから、喫緊の課題にはなっていますがまだ時間がかかると思います。何でもロボットでピッキングするのは難しいので、例えばペットボトルだけにターゲットを絞ってやりましょうとか、缶詰からやりましょうという話は出ています。そのためには、コンビニやスーパーの作りを、ロボット用に変えていかなければ難しいと思います。

──店舗をロボット用に変えていくというのは、どのようにすれば良いのでしょうか?

谷川氏:ロボットがアクセスしやすいような棚に変える、棚に位置情報を示すマーカーを付けるなど、自動的に棚卸しがしやすいようなエリアだけはロボットに任せられるように、商品陳列を分けるしかないと思います。

お酒の横におつまみがあれば一緒に買ってくれるといったような陳列のアルゴリズムは、各社いろいろなノウハウを持っていますが、それをロボットがやりやすいような違ったコンセプトの陳列に変更し、ここはロボットで棚卸ししましょう、ここは人間でやりましょうという、役割分担で効率化を図るしかないと思います。

──リテールテック分野の近未来はどのようになると思われますか?

谷川氏:ペットボトルなど、ある部分だけはロボットで扱いましょうというやり方になっていくと思います。しかし、生成AIで行うにしても、データ連携がなければリテール業界でのロボットによる自動化は進まないと思っています。ロボットのハードウェアの問題というよりは、データをどう流通させるかというところです。
UberEatsなど、移動に関しては実用化されていますが、最後に残ってくるのは商品の個別ピッキングの問題になるので、その部分はもう少し時間がかかると思います。

──リテール分野でロボットによる自動化ニーズが高いのは、どういった分野でしょうか?

谷川氏:物流倉庫です。店舗のバックヤードというのは、結局、物流倉庫なので、ピッキングが重要になります。Amazonや楽天などは、物流倉庫で沢山の人が働いています。
もう一つは食品分野です。食品分野はもともと食品自体が多種多様であり、人が手作業で弁当を作るなどしているため労働者不足が非常に深刻であり、ロボット化のニーズはとても高いと思います。

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