カラスとも格闘、無電柱化の推進に向けた日本の取り組み

2021年8月6日

電力会社とカラスの攻防は、日本の春の恒例行事だ。カラスは針金ハンガーや雨にぬれた木の枝など、電気を通すものを巣作りに使う。電柱にカラスの巣が作られると、漏電や停電の原因となるため、都内だけでも年間約700個のカラスの巣が電力会社によって撤去されている。巣を撤去されたカラスが別の電柱に営巣することもあるため、春から夏のカラスの繁殖時期は電力会社にとって悩ましい季節だ。カラスの巣が停電の原因になるのは、日本の電柱が地中化されていないからだ。カラス対策のみならず、景観や防災といった観点から、無電柱化のニーズは高いが、大きな改善には至っていないのが現状だ。

日本は無電柱化後進国

日本には、約3,600万本の電柱が存在し、その数は、年に7万本のペースで増えている。東京23区や大阪市では、電線のほぼ半分が地中化されているが、日本全体では電線が地中化されている割合は5.8%に過ぎない。また、電線の地中化がある程度進んでいる東京23区においても、電柱や電線がない道路の割合はわずか8%だ。無電柱化率100%のロンドンやパリなどの欧米の都市は言うに及ばず、台北(96%)やソウル(49%)といったアジアの都市にも大きく遅れているのが現状だ。

無電柱化 イメージ

無電柱化はなぜ必要なのか

電柱の地中化は、単なる景観の問題ではない。歩道が拡がれば、車いすやベビーカーの通行が便利になる。電柱を伝って侵入する空き巣犯罪も無くなる。そして近年では、防災対策としてのメリットに注目が集まる。2019年の台風15号では、直撃被害を受けた千葉県などで約2,000本の電柱が損壊し、90万戸以上が停電した。倒れた電柱で道路が塞がれ緊急車両が通行できないことで、災害被害が拡大する恐れもある。国土交通省が6月にまとめた新たな無電柱化推進計画では、こうした課題を踏まえ、防災、安全・円滑な交通確保、そして景観形成・観光振興が3つの柱とされた。

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同計画では、災害時に救急車やパトカーなどが走行する幹線道路である「緊急輸送道路」、高齢者や障害者などに配慮するように法律で定められた「特定道路」、そして、世界文化遺産に指定された地区や重要伝統的建造物群保存地区などを対象に、2021年から2025年までの5年間で、約1,600kmの無電柱化を目指す。あわせて、昨年策定された「防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策」においても、約2,400kmの無電柱化に取り組む方針であり、合計で4,000kmの無電柱化という目標を掲げる。

無電柱化の実現には1,500年必要?

日本が無電柱化に向けた取組を開始してから35年が経つ。昭和61年から平成2年までの第一期計画から現在まで、約1万2,300kmの道路における無電柱化が進められてきた。しかし、今もなお電柱の数は毎年7万本のペースで増え続けている。宅地化などによる新設が、地中埋設のペースを上回っているためだ。また、最新の計画では、5年間で4,000kmの無電柱化を進める目標が掲げられているが、日本の道路の総延長は約120万kmである。全ての道路で無電柱化を達成するには、新設される電柱を抜きにしても、単純計算で1,500年かかる計算になる。「脱電柱社会」の実現までの道のりは険しい。

最大の障害は、無電柱化の費用だ。地中化の一般的な手法である電線共同溝方式の費用は、1kmあたり5.3億円必要で、そのうち3.5億円を自治体が、1.8億円を電線管理者が負担する。通常の電柱敷設の場合、電線管理者の負担は1500万円程度であり、価格差は大きい。無電柱化推進計画では、電線をより浅い位置に埋設したり、ケーブルを収納するボックスを小型化することにより費用を抑える方針も盛り込まれた。また、軒下配線や裏配線といった、地中埋設以外の手法も採用し、無電柱化を推進する。無電柱化事業を行うミライトも、豊富な施工経験と高い技術力を元に、工事費用の削減に取り組んでいる。

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コロナ対策としても有効な無電柱化

豪雨災害が激甚化、頻発化するなか、無電柱化の推進は社会のニーズが大きい事業分野といえる。また、無電柱化には、新型コロナウイルス感染症対策という一面もある。2020年6月、国土交通省は、コロナ禍で苦境にある飲食店等を支援するための緊急措置として、沿道飲食店等の路上利用の占用許可基準を緩和した。テラス席などでの営業を行う飲食店にとっては追い風となるが、肝心の路上が電柱で塞がっていては魅力や利便性が損なわれる。無電柱化で路上空間が拡がれば、より広いスペースで密を避けつつ営業を続けることも可能になる。様々なメリットがある無電柱化の推進に向けた取組に期待したい。

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