「デジタル田園都市構想」実現の鍵となる5Gネットワークの整備

2022年1月14日
「デジタル田園都市構想」実現の鍵となる5Gネットワークの整備
#5G
「デジタル田園都市構想」実現の鍵となる5Gネットワークの整備
#5G

岸田首相は、「新しい資本主義」の実現に向けた成長戦略の最も重要な柱として、地方からデジタル技術の実装を進め、都市間格差の解消と地域活性化を目指す、「デジタル田園都市国家構想」を掲げている。「心ゆたかな暮らし」と「持続可能な環境・社会・経済」を実現するデジタル田園都市国家構想の内容と、その実現に不可欠な5Gネットワークの整備状況や今後の展望を探った。

デジタル田園都市国家構想実現の鍵は、5Gネットワークの全国整備

政府は、5Gネットワークの整備などを通じ、地方活性化を図る「デジタル田園都市国家構想」の実現に向け、デジタル田園都市国家構想実現会議を設置し、11月11日に初会合を開催した。「デジタル田園都市国家構想」は、デジタル技術を使った新しいサービスや省力化技術などを地方で普及させて、人口減少がさらに進んでも便利で豊かな生活を維持できるようにすることを目指す。

デジタル化による地域課題解決のモデル事例(2021年11月 デジタル田園都市国家構想実現会議 配付資料より引用) イメージ
デジタル化による地域課題解決のモデル事例
(2021年11月 デジタル田園都市国家構想実現会議 配付資料より引用)

田園都市国家構想は、故大平首相が40年ほど前に掲げた政策だ。東京への一極集中が問題視されるなかで、自然環境が豊かな地方で、大都市と変わらない暮らしを提供しようという構想だったが、東京への人口集中を改善するには至らなかった。今、地方では、人口減少と人手不足により、公共交通や水道や電気などのインフラの維持管理が大きな負担となっている。5Gを活用した自動運転やオンデマンド配車、また、5G接続のスマートメーター、5G対応のスマートグリッドによる効率的なインフラ管理は、このような課題を解決し、人口減少の時代においても、便利で豊かな生活を維持する大きな助けとなる。

また、これまでに未来図でも取り上げてきたように、全国各地で、5Gを活用した遠隔医療で、都市と地方の「医療の偏在」と「医療格差」を解消したり、スマート農業で新たな成長産業を創出しようとする取組みが実施されている。このような取組を推進するため、既に様々な施策が展開されているが、政府は新たに、「デジタル田園都市国家構想推進交付金」として100億円を2021年度補正予算案に計上し、ドローン宅配や自動運転、オンライン学習など、デジタル技術を活用した地方発の事業を支援する方針だ。

このようなサービスやソリューションが、日本全国、どこでも、誰でも利用可能になるのが、「デジタル田園都市国家構想」が目指す姿といえるだろう。そのためには、通信インフラやデータセンターといったデジタル基盤が全国で整備されることが鍵となる。

地方での5Gインフラ整備推進には、インフラシェアリングが欠かせない

通信各社の5G整備状況をみると、NTTドコモは、2021年度末までに5G基地局2万局、人口カバー率55%の達成を目指している。一方、2020年度末に5G基地局を約1万局へ拡大したKDDIとソフトバンクは、2021年度には、基地局を5万局に増やし、人口カバー率を90%にする計画だ。KDDIは鉄道路線の5G化にも注力しており、山手線と大阪環状線の駅間は全て5Gが利用可能だ。2021年度末までには、JR・私鉄を含む関東21路線、関西5路線の主要区間のホーム、駅間・駅構内での5Gエリア化を目指す。

「鉄道路線5G化」を宣言したKDDIは、2021年9月、JR東日本の山手線とJR西日本の大阪環状線の駅間を5Gエリア化(KDDI発表資料より引用) イメージ
「鉄道路線5G化」を宣言したKDDIは、2021年9月、
JR東日本の山手線とJR西日本の大阪環状線の駅間を5Gエリア化
(KDDI発表資料より引用)

2020年3月のサービス開始時に比べると、5G対応のスマートフォンも増え、各社の積極的な設備投資もあり、カバーエリアは拡大している。しかし、各社が公開しているサービスエリアマップを見ると、5Gに対応するのは人口が集中する三大都市圏が中心であり、全国であまねく5Gが利用できるようになるのは、数年先とみられる。

全国規模での5Gネットワーク整備がデジタル田園都市構想の鍵を握る イメージ
全国規模での5Gネットワーク整備がデジタル田園都市構想の鍵を握る

岸田首相が所信表明で述べたように、「地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮める」ためには、5Gのエリア拡大を加速させる必要があるが、そのためには、5Gの共同アンテナが重要になりそうだ。実際に、KDDIとソフトバンクは、5Gの地方展開を推進するために「5G JAPAN」を設立し、地方での基地局設備の相互利用を進めている。政府も、過疎地等の条件不利地域への5G基地局整備を支援するため、複数者が整備する際の補助率を1者整備よりも有利とするなど、インフラシェアリングの推進に向けた施策を展開している。ただ、8割が共同アンテナともいわれる米国と比較すると、日本の共同アンテナの割合は数パーセントであり、インフラ整備の効率化には大きな改善余地がある。デジタル田園都市国家構想実現会議の第一回会合でも、PPPやPFIなどの手法を使い、5Gの共同アンテナを増やしていくことの重要性が指摘された。

デジタル田園都市構想の実現には、宇宙空間の活用も視野に

5G、そしてBeyond 5Gや6Gの時代に向けて、宇宙空間の活用も視野に入る。KDDIは、2021年9月に米SpaceXと提携し、衛星ブロードバンドの「Starlink」を活用していくことを発表した。携帯ネットワークのカバー率で遅れをとる楽天モバイルは、米AST & Scienceの衛星と技術を利用し、2023年以降に日本全国を100%カバーする「スペースモバイル計画」を打ち出している。ドコモやソフトバンクは、成層圏で自律飛行する無人機「HAPS」(High Altitude Platform Station)を通信基地局として活用する技術の開発を進める。

成層圏をテスト飛行するHAPSモバイル(ソフトバンク子会社)の無人航空機Sunglider(HAPSモバイルのYouTubeチャンネルより引用) イメージ
成層圏をテスト飛行するHAPSモバイル(ソフトバンク子会社)の無人航空機Sunglider
(HAPSモバイルのYouTubeチャンネルより引用)

高速通信のインフラを空に構築できれば、人口が少なく採算性の低い地方の山間部などに基地局を設置し、管理する必要がなくなる。衛星やHAPSを活用した通信技術は、通信インフラが宇宙や海にもひろがる6G時代の技術として注目されているが、デジタル田園都市構想を効率的に実現する技術ともいえるだろう。2022年も、このような技術の開発状況や実証の進捗から目が離せない。

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