オランダから学ぶ、日本のスマート農業の未来

2022年6月3日

今でこそ、スマート農業先進国として世界から視察団が訪れるオランダだが、昔からそうだったわけではない。オランダの国土面積は九州程度で、農地面積も日本の半分に満たない。土壌は岩塩交じりで日照時間も短く、北海からの強風が吹きよせ気温も低い。決して農業に適した環境とはいえないのだ。しかも、1980年代には、ECが進める貿易自由化で、スペインなどから安価な農作物が大量に輸入されるようになり、オランダの農業は危機的状況に陥った。そこからどのようにして、オランダは農業のイノベーションを実現し、輸出額で米国に次ぐ世界2位となるまで成長したのか。そして、日本のスマート農業を推進するために、オランダから学べることは何か、見てみよう。

選択と集中で危機を克服

国内農業が苦境に陥った時、オランダは、輸入品に対抗するのではなく、トマトやパプリカなどの果菜類とチューリップなどの、付加価値の高い作物を効率的に生産する方針へと舵を切った。競争力の高い少数品目に集中すれば、技術の開発やノウハウの蓄積を効率的に進めることができる。逆に、収益性の低い麦などは、その多くを輸入に頼っている。大胆な選択と集中が可能だったのは、オランダが置かれている地理的、政治的な条件も大きい。近隣の欧州諸国から、安定的に作物を輸入できれば、食糧の自給率を過度に気にする必要はない。日本では、コメの生産調整など、トップダウンで作付け品目を決定することがあるが、オランダでは、あくまで経済的な視点から農業の効率化が図られている。農地の集約が進んでいるのもオランダの農業の特徴だ。

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IoT活用で最適化された施設園芸で効率化を追求

効率化の追求を支えるのが、徹底したテクノロジーの活用だ。オランダでは、屋根が半透明なガラスハウスに太陽光を取り入れて、温度や湿度、CO2濃度を管理しながら栽培を行う「施設園芸」が中心だ。日本では、軒高2mぐらいのビニールハウスが主流だが、日当たりを良くするため、オランダでは5m超が主流となっている。さらに光合成を促進するため、CO2濃度を通常よりも高めている。オランダでは、多くの温室に北海油田から安価に共有される天然ガスを利用した大型発電設備が設置されており、発電時に発生する熱やCO2を無駄なく利用する仕組みが出来上がっている。農業でのCO2利用は、気候変動対策としても注目されており、最近では、石油精製工場やごみ焼却施設など、CO2排出源の近隣に温室が作られることが多いという。

IoT活用で最適化された施設園芸で効率化を追求 イメージ

センサーで収集したデータを解析し、施肥や給水の最適化を行うのみならず、自動的に植物の光合成が最も効率的に行われる環境を作り出すことで、驚異的な生産性を実現する。また、農業コンサルティング企業と制御システムメーカーが連携して、周辺環境の変化に合わせてハウスの天窓を自動で閉めたり、シェードやカーテンを自動で開くような仕組みを実用化した。データを収集し、分析するのみならず、データを活用して制御するプロセスまで自動化が進んでいるのだ。オランダでは、8割の農家で、施肥や給水などを自動制御するシステムを導入している。このような取組みの結果、面積あたりのオランダのトマトの収穫量は、日本の8倍に達するという。

AIロボットで、きゅうりの成長を促進

きゅうり栽培の効率化には、ロボットが活躍する。きゅうりの成長を促すためには、周囲の葉を選定し、日当たりを良くする必要がある。しかし、トマトやイチゴなどと異なり、きゅうりは、実が出来る部分と、そうでない部分を見分けることが難しい。オランダで開発されたロボットは、人間の顔を識別するために使われるAIを活用し、葉だけを切り落とすことができる。これにより、面積あたりのきゅうりの収穫量を30%増やすことができるという。

きゅうりの葉を剪定するロボット(出所:Bosman Van Zaal社プレスリリース) イメージ
きゅうりの葉を剪定するロボット
(出所:Bosman Van Zaal社プレスリリース)

屋内ドローンで病害対策

温室内での害虫対策には、ドローンが利用されている。オランダで開発された手のひらサイズの農業用ドローンには、室内で自律飛行するためのセンサー機能が搭載されており、蛾を発見すると、自動で追いかけて、ローターで駆除してくれる仕組みだ。また、てんとう虫のような益虫と害虫を見分け、害虫だけを駆除することができる。このようなドローンを活用して育てた作物は、殺虫剤を使用しないため、高級レストランなどに高価で販売できるという。オランダでは、ドローンが撮影した画像から作物の病気を発見できるAIも開発されており、病害虫対策として、2割近くの農家が、温室内でドローンを活用している。

蛾を駆除する屋内ドローン(出所:PATS Indoor Drone Solutions YouTubeチャンネル) イメージ
蛾を駆除する屋内ドローン
(出所:PATS Indoor Drone Solutions YouTubeチャンネル)

日本企業も集まる農業イノベーションの最先端「フードバレー」

このような技術革新を支えるのが、フードバレーと呼ばれる、食の科学とビジネスに関する一大集積拠点だ。首都アムステルダムから南東約80 kmに位置するフードバレーには、世界中から1500社を超える食品関連や化学関連企業が集まっており、日本からも、キッコーマンやニッスイなどが参加している。2021年には、不二製油グループが現地に研究開発センターを設立した。

日本らしいスマート農業の実現に向けて

日本においても、労働力不足や新規就農者の技術習熟度の低さなどの課題を解決するため、スマート農業の推進が進む。パナソニックがトマト収穫ロボットを開発するなど、ロボットを活用した自動化や、スマートグラスを活用した遠隔からの技術指導など、様々な取組みが各地で実施されている。室内での消毒剤の散布など、屋内でのドローン活用も始まっており、このような技術を、農業に活かすことも可能だろう。2020年度に約262億円だったスマート農業市場は、2027年度には約606億まで成長すると予測されている。北海道や新潟市などでは、オランダを参考とし、ニューフードバレー構想に取り組む動きも始まっている。

オランダが得意とするトマト栽培においても、例えば、日本の高糖度トマト「アメーラ」は、手間をかけ、きめ細かい栽培管理をすることで、糖度・酸味・うま味が絶妙なバランスで凝縮した高品質なトマトとして高く評価されている。葉のしおれ具合や茎の太さをAIで分析し、測定し、水の量を制御することで、高糖度のトマトを安定的に生産することに成功したような事例も登場している。日本のものづくりの良さと、テクノロジーをバランス良く組み合わせることが、日本のスマート農業の進む道なのではないだろうか。

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