SFの世界が現実に。食糧問題を解決する注目技術を紹介

2022年6月17日

水田や畑を荒らす害虫をカメラで探知し、レーザー光線で撃ち落とす。そんなSFのような未来がもうすぐ実現しそうだ。世界の人口増加と経済成長により、食料需給のひっ迫が予想されるが、世界の食料総生産の15%以上が、害虫によって失われているという。そんな害虫対策の切り札となりそうな新技術や、ドローンやAIを活用した雑草対策、さらには、昆虫工場で食糧問題を解決しようとする取組みまで、農業の未来を覗いてみよう。

2025年の実現を目指す、レーザーによる害虫駆除

内閣府では、破壊的イノベーションの創出を目指し、従来の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発を推進する仕組みとして、「ムーンショット型研究開発制度」を設けている。農業分野では、「2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出」することを目標に掲げ、ムーンショット型農林水産研究開発事業が実施されている。

そのうちの一つ、「害虫被害ゼロコンソーシアム(先端的な物理手法と未利用の生物機能を駆使した害虫被害ゼロ農業の実現)」では、レーザー狙撃により害虫を駆除する方法の研究開発を行っている。レーザーで狙撃するといっても、害虫は一ヵ所に留まっていない。害虫の居場所を検知してから、レーザーで狙撃するまでの間には、0.03秒程度のタイムラグが生じるため、検知した位置にレーザーを発射しても、害虫に命中しないという課題があった。

この課題を解決する技術を開発したのが、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)だ。農業害虫として知られるハスモンヨトウは、秒速1~2メートルで飛翔する。農研機構では、一秒間に55回の頻度で飛翔するハスモンヨトウを撮影し、その飛行軌跡を計測した。このデータをもとに、飛行パターンをモデル化し、リアルタイムで計測される位置と組み合わせることで、少しだけ先の動き(飛行位置)を1.4cm程度の精度で予測できる方法を開発した。

レーザー狙撃による害虫防除システムの概略(出典:農研機構プレスリリース) イメージ
レーザー狙撃による害虫防除システムの概略
(出典:農研機構プレスリリース)

農研機構の研究グループでは、複数のハスモンヨトウの追尾と飛行位置の予測を実現するモデルと、レーザー照射方向の制御を組み込んだシミュレータを開発している。「害虫被害ゼロコンソーシアム」では、2025年までにこの手法による害虫駆除技術の実用化を目指すという。

化学農薬依存を減らし、SDGsにも貢献

レーザーによる害虫駆除が実現すれば、化学農薬(殺虫剤)に頼らずに農作物被害を減らすことができる。化学農薬は、現在の害虫対策の主力だが、開発コストの増加や開発期間の長期化により、新規薬剤の開発数は年々、減少傾向にある。また、化学農薬を使い続けると、害虫に耐性がうまれ、農薬が使えなくなることが課題となっている。

効き目が薄れたからといって化学農薬の量を増やせば、生態系や生物多様性への悪影響は避けられない。食糧生産の増加と環境保護を両立するためには、化学農薬主体の害虫対策から脱却するための、新しいアプローチが求められている。レーザーによる害虫駆除は、まさにこの課題に応えるものといえるだろう。

ドローンとAIを組み合わせて、雑草種を特定

農薬の効率的な散布にAIとドローンを活用しようという動きもある。DJI JAPAN と日本農薬は、DJIの精密農業・土地管理用ドローンと、日本農薬が提供するAI病害虫雑草診断に使われるAIエンジンを組み合わせることで、上空から圃場の異常を検知し、最適な防除の実現を目指している。

この構想では、まず、高高度から圃場を自動センシングし、雑草の発生地点を見つけ出す。その後、地面の近くまで寄ることができるドローンで雑草を撮影し、AIエンジンで雑草種を特定する。やみくもに強力な薬剤をまくのではなく、特定された雑草に最適な薬剤を利用することができるわけだ。ドローンやAIを利用することで、少子高齢化が進む農業の効率化に寄与するだけではなく、環境への影響を軽減するという点でも期待できる。

昆虫で世界の食糧問題を解決

海外では、食物の生産能力を強化するために、昆虫を利用する取組みが始まっている。近年、昆虫食は日本でも話題になっているが、フランスで2011年に創業した農業技術のスタートアップ企業?nsectは、昆虫を原料とする養殖魚介類の餌や植物用肥料を生産している。フランスのブルゴーニュ地方にある同社の工場では、年間1,000トンの昆虫を生産しており、ブドウ園の肥料として昆虫たんぱく質を使うと、従来の化学肥料と比較して成長が25%速くなるという。現在同社は、フランスのアミアン近郊に世界最大規模の昆虫工場を建設しており、生産が始まれば、年間20万トンの昆虫由来のたんぱく質を生産できる。

?nsectが建設する昆虫工場のイメージ図(出典:?nsect報道用資料) イメージ
?nsectが建設する昆虫工場のイメージ図
(出典:?nsect報道用資料)

昆虫工場で生産した餌を動物や魚の飼料として利用すれば、これまで飼料の栽培に使っていた土地を、人が食べる作物の栽培に利用することができる。また、効率的な生産が可能な昆虫工場なら、環境への負荷も抑えられる。食糧問題と環境問題という人類の大きな課題に昆虫を通じて取り組む同社は、仏大統領エマニュエル・マクロンが、「明日のチャンピオン」と称するなど、現地でも大きな注目を浴びている。?nsectは、2年以内に日本でも昆虫工場の建設を予定している。数年内には、日本でも昆虫餌で育った養殖魚や、昆虫由来の肥料で育った農作物がスーパーに並ぶかもしれない。

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