成長する防災情報システム・サービス市場の新しい取り組み

2022年9月26日

近年、自然災害による被害の拡大は止まることを知らない。自然災害の被害を最小限に抑えるには、事前に備える防災対策の充実が重要になるが、今後防災情報システムやサービスの市場はどのように推移していくのか。ICT技術を活用した防災テックの最新トレンドや地方自治体の取り組みとあわせて探ってみた。

官公庁と民間の防災情報システム・サービス市場は2026年に約1352億円に

調査会社のシード・プランニングは、防災情報システム・サービスに関する市場調査を行った結果をまとめた。近年、自然災害は頻発化・激甚化の傾向にあり、住民生活や産業経済に計り知れない影響を与えている。今後、災害に強い地域づくりを進めるには、防災に関する情報の収集・分析が不可欠であり、国や地方公共団体は、防災情報システムや各種センサー設備、防災行政無線を活用した防災・減災を推進している。また、近年では、ICTやAIを用いた災害対策が注目され、災害時のSNS投稿分析サービスやAIによる河川水位予測といった新ビジネスも続々と誕生している。

こうした技術革新や防災関連サービスの実用化を踏まえ、「災害対策で情報を重要視する政策」「災害ビッグデータの積極的活用」、「SNS活用型の災害対策」の動きが市場全体として顕著になり、企業の商品開発の取り組みをさらに後押しているという。さらに、国土強靱化において情報・ビッグデータに重きを置く政策が本格化すれば、従来からの官公庁の調達案件や市場構造が様変わりする可能性があるだろう。

また、防災情報システムに関しては、従来官公庁を中心に調達されてきたが、近年は企業のBCP(事業継続計画)やサプライチェーンリスク対策の一環として、従業員の安否確認システムやクラウドサービス、災害対策用の衛星携帯電話などを活用する企業も一部で見受けられる。

こうした背景から、今回シード・プランニングでは防災情報システム・サービスに関する官需および民需の国内市場を調査し、最新の市場動向を明らかにして市場展望を考察。その結果、高成長シナリオとして、防災情報システム・サービス市場は2021年度の1039億円から2026年に約1,352億円に発展すると予測している(図1)。

(図1)シード・プランニングによる防災情報システム・サービス市場の予測(出典:シード・プランニングのホームページ) イメージ
(図1)シード・プランニングによる防災情報システム・サービス市場の予測
(出典:シード・プランニングのホームページ)

人工衛星を使って地盤災害の前兆を解析する防災テック

現在注目されている防災テックの1つが、小型SAR(合成開口レーダー:電波を地上に反射させて地表を観測)衛星を開発・運用し、衛星データを活用したソリューションサービスを提供する、宇宙スタートアップ「株式会社Synspective(シンスペクティブ)」の人工衛星を活用した防災対策だ。Synspectiveは、斜面崩壊などの土砂災害発生前の予兆変動を検知する地盤変動解析装置と、地盤変動解析方法である斜面不安定性検知機能を開発したと発表した。

Synspectiveはこれまで、SAR衛星データの特徴を活かし、広域の地盤変動を解析してその結果を提供するLand Displacement Monitoring(LDM)ソリューションサービスを提供している。LDMソリューションサービスでは、地盤の変動を監視(モニタリング)し、広域な地表面の変動量をミリメートル単位で検出して時系列で表示することが可能だ。さらに2021年4月には、同サービスによる陥没の可能性箇所を特定する陥没領域抽出機能もリリースした。

昨今、大雨や洪水、地震や地盤の劣化から起こる地滑りや地盤沈下など、自然災害の影響が世界規模で人々の安全を脅かす大きな社会問題となっている。そこで、Synspectiveでは地盤の変動状況を監視するだけではなく、地盤災害の前兆を発見して警告を行うことが重要と考え、これまでの地盤変動における監視(モニタリング)に加え、新たに地盤沈没の可能性箇所を予測する機能や、地すべりや斜面崩壊という地盤災害の前兆を発見して警告する解析装置および解析方法を開発した(図2)。

(図2)地盤災害の前兆を発見する解析結果のイメージ。左が局所領域における不安定な変動点の分布で、右が地盤変動が顕著な領域(ホットスポット)の分布及び変動速度によるリスクレベル表示(出典:Synspectiveのプレスリリース) イメージ
(図2)地盤災害の前兆を発見する解析結果のイメージ。左が局所領域における不安定な変動点の分布で、右が地盤変動が顕著な領域(ホットスポット)の分布及び変動速度によるリスクレベル表示
(出典:Synspectiveのプレスリリース)

この技術によって、どの時点のどの場所で、地盤災害の前兆となる変動が起きているのかといった地盤変動の状況を捉えることができ、捉えた地盤変動の状況に基づいて、災害リスクの早期警告などを活用することが可能となる。例えば、実際に地盤災害が発生する前に、その前兆となる現象が起きていることを報知することが可能。また、時系列顕著性データのうち、一部期間の顕著性指標値を対象として前兆地点を検出することにより、地盤変動の状況を捉え、警告を行うことが可能になるという。

自宅で参加可能なデジタル防災訓練システム

自治体の取り組みとしてユニークなのが、岐阜県大垣市が進めている「デジタル防災訓練システム」だ。大垣市は、スタートアップ企業との協働実験を通じて自治体が抱える社会課題を解決するプロジェクト「Urban Innovation OGAKI(アーバンイノベーション大垣)」に提案した企業を審査し、防災に関わる3件の課題の実証に参加するための協定を締結した。実証実験はすでに2021年10月から開始されており、2022年度内に報告をまとめ来年度以降のサービスの導入を目指している。

3件の課題のうちの1つ「自宅de防災訓練~ウィズコロナ時代のデジタル防災訓練~」では、映像・CGなどの制作会社であるスピードが採択され、新型コロナウイルス感染症による3密回避などによって総合防災訓練等が中止となる中、いつでも、どこでも参加できるようにスマートフォンを活用したデジタル防災訓練を実施しようとしている(図3)。

2022年1月30日に行われた体験会では6組の親子が、ビデオ会議システム「ZOOM」を使って自宅から参加。家の中にある防災グッズを登録してポイントを獲得したり、防災クイズに答えてもらいながら実際にデジタル防災訓練システムのコンテンツを利用をした。

(図3)大垣市のデジタル防災訓練システムで使用される防災ゲームのイメージ(出典:大垣市のホームページ) イメージ
(図3)大垣市のデジタル防災訓練システムで使用される防災ゲームのイメージ
(出典:大垣市のホームページ)

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