官民共用で費用を抑えたローカル5Gで、洪水から街をまもる

2022年3月18日

2019年10月に日本に上陸した台風19号は、平成以降の日本における台風被害で最悪の規模となった。記録的な大雨と強風により71河川が氾濫し、3万3000棟以上の住宅が全半壊するなど、東日本に甚大な被害をもたらした。栃木県でも、河川の決壊や浸水が相次ぎ、一時は約2万人が避難するなど大きな被害を受けた。そんな栃木県で、地域ワイヤレスジャパンやケーブルテレビなどにより、ローカル5Gを防災に役立てようとする取組みが始まっている。ローカル5Gを活用した効率的な情報収集や住民への情報公開の仕組み、そして、ローカル5Gの導入や運用費用の負担を抑えて本格導入につなげる工夫を見てみよう。

ローカル5Gで、避難情報発令の根拠となる災害状況を把握する

2021年1月から3月に実施された実証実験では、栃木県栃木市の巴波川(うずまがわ)と永野川に、ミリ波とSub6両方を用いたローカル5Gの無線ネットワーク環境を構築した。4Kカメラで撮影した河川の映像をローカル5Gで伝送し、AI分析も活用しながら、刻一刻と変化する災害の状況を正確に把握し、迅速かつ的確な避難情報の発令を行うための検証を行った。

実証実験フィールド(出展:総務省資料) イメージ
実証実験フィールド(出展:総務省資料)

避難情報とは、「避難指示」や「緊急安全確保」など、各市町村長が住民向けに発令するもので、警戒レベル4の「避難指示」では、対象地域の住民全員の避難が求められる。このような避難情報は、河川の水位や、現在・今後の雨の降り方、気象庁が発表する防災気象情報(台風情報、気象警報・注意報、記録的短時間大雨情報、土砂災害警戒情報、洪水予報、天気予報など)など、様々な情報をもとに発令される。台風接近時に避難情報を発令するかどうかを決めるには、河川の水位や雨の状況を把握することが非常に重要だが、水位が上昇している河川の近くに行って現地状況を確認するのは危険だ。4Kカメラとローカル5Gを活用することで、安全に、かつリアルタイムに災害状況を確認することが可能になる。

集めた情報はダッシュボードで一元管理し、迅速かつ的確な意思決定をサポート

これまで栃木市では、河川が増水しやすい季節に配備されるノートパソコン2台に多種多様な情報を表示し、画面を切り替えながら状況の確認を行っていた。そのため、情報の見落としや確認漏れが生じたり、職員間での情報共有が円滑に行えないという課題があった。避難情報の発令を判断する基準水位が設けられている河川は複数あり、それらの河川の状況をノートパソコンの画面で同時に確認し、避難情報を適切なタイミングで発令することは困難だった。

実証では、ローカル5Gで伝送された河川映像や、水位センサーのデータ、気象庁が発表した情報を、市役所の危機管理室に設置した「防災情報ダッシュボード」に集約して表示する検証を行った。災害情報を一目で確認できるようにすることにより、「避難指示」を出すべきかどうか、あるいは、どのタイミングで出すかを的確に判断できるようになる。水位の予測にはAI分析も活用した。

危機管理室に設置した「防災情報ダッシュボード」(出典:令和2年度L5G開発実証成果報告書_No14) イメージ
危機管理室に設置した「防災情報ダッシュボード」
(出典:令和2年度L5G開発実証成果報告書_No14)

4Kカメラの高精細映像が、住民の危機意識を高め避難を促す

災害時には、「避難指示」や「避難指示」などの避難情報に従って迅速に避難することが求められる。しかし、台風19号の被害後に行われたアンケート調査では、多くの住民が、自分自身の状況判断に基づいて避難するかどうかを決めていることが分かった。そこで、実証実験では、住民の防災意識の向上と適切な避難行動の促進を目的として、河川の高精細映像をケーブルテレビのコミュニティチャンネルで配信した。栃木市では、ケーブルテレビを視聴できるのは全世帯の約半数であるため、より多くの住民が高精細映像を閲覧できるよう、YouTube等の動画配信サイトでも配信を行った。

実証実験の構成イメージ(出展:ワイヤレスジャパン ニュースリリース) イメージ
実証実験の構成イメージ
(出展:ワイヤレスジャパン ニュースリリース)

ローカル5Gの導入・運用負担を抑える官民共用モデル

このように、防災対策として有効活用が期待できるローカル5Gだが、実証終了後にも継続利用するためには、導入・運用に必要なコストを自治体が負担できるレベルまで落とす必要がある。ここで鍵を握るのが、ケーブルテレビ事業者だ。具体的には、ローカル5Gの無線ネットワーク機器や映像配信に関する設備は、自治体ではなくケーブルテレビ事業社が保有する。ケーブルテレビ事業者は、平時にはローカル5Gを活用した超高速インターネットサービスをBtoCサービスとして提供して収入を得る。この収入の一部を、基地局等のローカル5G ネットワークの維持費に充てることで、自治体の費用負担を減らすビジネスモデルだ。

栃木市をモデルとした検証では、栃木市の導入に要する費用は、最小規模でのスタートと仮定して初期費用が数百万円程度(~500 万程度)、運用費用で数百万円程度(導入規模により異なる)と想定される。一方、BtoC サービスの収入は、1 基地局あたり 40-60 回線程度の超高速インターネットサービスを単価4,000円/月で提供する場合、年間で 190 万円~290 万円程度が期待できる。ローカル5Gを官民共用することで、自治体の負担を相当削減することが可能となるのだ。今後は、実証に参加したケーブルテレビのサービス提供エリアで、栃木市同様に 2019 年の台風 19 号による被害の大きかった壬生町と下野市への横展開を検討しているという。官民共用モデルの活用により、住民の安全に大きく貢献するローカル5Gが全国で手軽に利用できるようになる日が楽しみだ。

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