さまざまな分野に広がりつつあるデジタルツインの活用

2022年10月24日

近年、デジタルツインという言葉を耳にする機会が増えてきた。今でも、当初からの導入目的であった製造業における活用が大きな潮流となっているが、一方で産業や社会でDXが一層進む中、デジタルツインの活用範囲は製造分野のみならずエネルギーや都市計画、気象などの分野にも拡大しつつある。ここでは、科学技術振興機構 研究開発戦略センター(JST-CRDS)が発表した調査報告書などをもとに、海外におけるデジタルツインの活用状況を見てみよう。

エネルギー・都市分野では国ごとデジタルツイン

エネルギー分野では、各国でカーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組みが進められている。その動きの中でデジタルツインは、エネルギー消費の可視化・最適化に役立つ技術として注目されている。また、エネルギー関連機器の開発や風力発電の運用など、エネルギー生産へデジタルツインを活用する事例もある。

都市分野に関しては、スマートシティとして都市運営をデジタル化する動きが世界的に広がっており、その一環として都市の3Dモデル(デジタルツイン)の構築が進んでいる。スマートシティ関連の取り組みは世界的に数多く存在するが、大半は都市の3Dモデルを構築する段階にとどまっている。

一方で、都市におけるデジタルツインの役割は、防災分野のシミュレーション・シナリオ構築や都市インフラの分析・計画立案、公共交通機関のリアルタイムモニタリング・最適化、環境モニタリングと環境対策など、大きな広がりを見せている。また、最近になって、交通システムや熱・電力・水供給システムなどの特定のアプリケーションでも、デジタルツインの利用が始まっている。

建設分野でも、BIM(Building Information Modeling)をはじめとする多様なデータをデジタルツインとして統合・構築し、建設プロセスの効率化を目指す研究開発が進められており、それらも都市型デジタルツインのアプリケーションの1つと位置付けられる。

2020年4月には、日本でも国土交通省が3D都市モデルを整備・オープンデータ化する「Project PLATEAU」がスタートした。そして、2014年からシンガポールが推進してきた、国をまるごとデジタルツイン化する「バーチャル・シンガポール」は、2018年に3D都市モデルのプラットフォームを完成。2019年からは、地下埋蔵物のデータ作成にも取り組んでいる。現在シンガポール政府は、2030年までにピーク時で2ギガワットの発電が可能な太陽光発電を導入するという公約を達成するため、「バーチャル・シンガポール」によって統合された建物モデルのデータを、太陽光発電達成のロードマップの作成に活用している。

(図1)「バーチャル・シンガポール」を活用した太陽光発電システムの設置に関する分析(出典:バーチャル・シンガポールのホームページ) イメージ
(図1)「バーチャル・シンガポール」を活用した太陽光発電システムの設置に関する分析
(出典:バーチャル・シンガポールのホームページ)

気象・気候分野では地球まるごとデジタルツイン

気象・気候分野では、気象予報や気候変動予測の高度化のために、シミュレーションに関する研究開発が長年行われてきた。1992年には当時のアル・ゴア米国副大統領が、気象やエネルギーなど社会利益分野へ貢献するため、地球全体のインタラクティブなデジタルレプリカの構築が必要として「デジタル・アース」を提唱している。

世界気候研究計画(WCRP)は戦略計画(2019~2028年)の活動の1つとして、デジタルツインを活用した「デジタル・アース」の構築をあげた。そこでは、高解像度モデリングや気候に関するデータの同化、地域デジタル地球システムに関する研究開発が課題となっている。

一方でEUは2022年4月から、「ディスティネーション・アース」の活動を正式に開始。2024年までの目標は、正確な地球のデジタルモデルの開発、および自然災害と気候変動に適応するデジタルツインの構築だ。その後、2027年までに海洋、生物多様性、スマートシティなどのデジタルツインを構築し、それらをプラットフォームに統合して、2030年までに「地球の完全なデジタルレプリカ」を作成することを目標としている。

(図2)EUが開始した地球まるごとデジタルツイン化計画「デジタル・アース」(出典:デジタルEUのYoutube動画より) イメージ
(図2)EUが開始した地球まるごとデジタルツイン化計画「デジタル・アース」
(出典:デジタルEUのYoutube動画より)

スーパーマーケットや物流倉庫での活用も

海外では、こうした大規模なデジタルツインの構築以外にも、小売りやサプライチェーン領域でのデジタルツイン活用も進んでいる。小売り領域では、デンマークのスーパーマーケットが「デジタルツイン冷蔵庫」を実証実験として導入。従来手動で行われていた、冷蔵庫の監視や設定値の調整、アラーム処理などを自動で管理する仕組みをデジタルツインで構築している。冷蔵庫のコンプレッサーや室外機、熱回収ユニットなどに使われる、さまざまな部品から収集されたデータを活用し、電力料金体系に合わせたシステムを最適化。エネルギー効率を高めるだけではなく、故障の事前検出・診断も行っている。

(図3)デンマークのスーパーマーケットで実証実験が進む「デジタルツイン冷蔵庫」のディスプレイキャビネット(左)とコンプレッサーラック(右)(出典:The Energy Technology Development and Demonstration Pro?grammeのホームページより) イメージ
(図3)デンマークのスーパーマーケットで実証実験が進む「デジタルツイン冷蔵庫」のディスプレイキャビネット(左)とコンプレッサーラック(右)
(出典:The Energy Technology Development and Demonstration Pro?grammeのホームページより)

サプライチェーン領域ではDHLが、IoTとデータ分析、さらに物理的な倉庫と仮想的な倉庫の橋渡しをするデジタルツインを用いて、「スマートウェアハウス」ソリューションを構築。倉庫施設のバーチャルな3Dモデルと、保管されているすべてのアイテムのサイズや数量、場所などのデータを組み合わせることで、リアルタイムにデジタルで施設を再現。それによって、物流倉庫におけるオペレーションの効率化や安全性の向上を実現している。

(図4)DHLの「スマートウェアハウス」のイメージ(出典:DHLのホームページより) イメージ
(図4)DHLの「スマートウェアハウス」のイメージ
(出典:DHLのホームページより)

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