カーボンニュートラルとサプライチェーンにおける3つのスコープ(スコープ1,2,3)とは

2024年1月15日

世界共通の目標であるカーボンニュートラルを実現するには、 自社だけではなくサプライチェーン全体で温室効果ガス(Greenhause Gas:GHG)の削減に向けて取り組まなくてはならない。

GHGは、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素など、 保温効果のあるガスの総称 を指す。GHGが大気中に増えると温室効果が高くなり、地球温暖化につながってしまう。経済活動はGHG増加の一因であるため、企業はサプライチェーンにおけるGHGの排出量を国際的な基準に基づいて算定し、削減していく必要がある。

なお、サプライチェーンにおけるGHGの排出量はスコープ1、2、3のカテゴリーに分類され、それぞれ対象が異なる。この記事では、 3つのスコープの意味や、企業がサプライチェーン排出量の削減に取り組むメリット、排出量を開示している企業を紹介する。

GHGプロトコルとは

GHGプロトコルとは イメージ

本記事のテーマである、サプライチェーンにおける3つのスコープは「スコープ3基準」とも呼ばれ、「GHGプロトコル」で定められている。

GHGプロトコルとは、 民間や公的機関の事業活動や、サプライチェーンなどから排出される温室効果ガス(GHG)を算定し、管理するための国際的な基準のこと。 世界資源研究所(WRI)と、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)が主体となり「GHGプロトコルイニシアチブ」が発足し、GHG排出量の測定を標準化している。

直接排出量である「スコープ1」だけでなく、間接排出量である「スコープ2」と「スコープ3」も重視して、サプライチェーン全体の排出量を対象としている点が特徴となる。

サプライチェーン排出量を構成する3つのスコープとは

サプライチェーンの図 イメージ

(出典: サプライチェーン排出量全般|環境省・経済産業省

サプライチェーン排出量とは、 自社だけでなく、製品やサービスの製造・供給プロセス全体におけるGHGの総排出量のこと。 サプライチェーン排出量の算出は、原材料の調達や輸送、製造、販売、廃棄といった、企業活動における上流から下流までを対象としている。

GHGプロトコルによると、サプライチェーン排出量は3つのスコープ(範囲・領域)で構成されている。ここからは、スコープ1、2、3、それぞれの概要を見てみよう。

スコープ1(Scope 1)

スコープ1は、 自社によるGHGの直接排出量を対象としている。 具体的には、以下の活動による、二酸化炭素などのGHGの排出が含まれる。

● 燃料の燃焼(石炭の燃焼など)
● 自家発電
● 製造プロセス(石油を化学的に加工するなど)
● 社用車の稼働

スコープ2(Scope 2)

スコープ2は、 他社から調達した電力や熱、蒸気を自社で消費したことによるGHGの間接排出量を対象としている。

GHGプロトコルによると、スコープ2は世界最大のGHG排出源のひとつで、 電力と熱の供給は世界のGHG排出量の3分の1を占めている。 そこで化石燃料に依存しない代替エネルギーを活用すると、スコープ2におけるGHG間接排出量の削減に大きく貢献するだろう。

日本では、スコープ1と2のGHG排出量の算定や削減のための取り組みが積極的に進められている。さらなる削減を目指して、 サプライチェーン上で発生する自社の企業活動以外の排出量を対象とする「スコープ3」にも目を向ける必要がある。

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スコープ3(Scope 3)

スコープ3は、 自社から見たサプライチェーンの上流・下流におけるGHGの排出量を対象としている。 スコープ1と2は、企業活動を通して排出するGHGを対象としている点がスコープ3との違いになる。

つまり、 自社の企業活動に関わる企業や消費者による間接的なGHG排出量が、スコープ3に含まれる。

サプライチェーンの上流・下流におけるスコープ3の対象は、次のとおり。

スコープ3の対象
上流 原料調達や製造、輸送、雇用者の通勤など
下流 販売した製品の使用、廃棄など

さらにスコープ3は、以下の15カテゴリーに分類されている。

スコープ3のカテゴリー 活動例
上流 1.購入した製品・サービス 原材料やパッケージ、部品などが製造されるまでの事業活動
2.資本財 自社が購入または調達した資本財の建設や製造
3.燃料及びエネルギー関連活動
(スコープ1、2に含まれないもの)
自社が調達した燃料・電力の採掘や精製など
4.輸送、配送(上流) 購入または調達した製品やサービスのサプライヤーから自社への物流
5.事業から出る廃棄物 廃棄物の輸送や処理
6.出張 従業員による出張時の交通
7.雇用者の通勤 従業員による出勤時の交通
8.リース資産(上流) 自社のリース資産の操業
下流 9.輸送、配送(下流) 自社が提供する商品の物流
(自社に物流コストが発生していないもの)
10.販売した製品の加工 中間製品の加工
11.販売した製品の使用 消費者や企業による製品の利用
12.販売した製品の廃棄 消費者や企業による製品の廃棄処理
13.リース資産(下流) 賃貸事業者として運用しているリース資産の活用
14.フランチャイズ フランチャイズ加盟店による事業活動
15.投資 株式投資および債券投資などの運用

サプライチェーン排出量の削減に取り組むメリット

サプライチェーン排出量の削減に取り組むメリット イメージ

ここでは、企業がサプライチェーン排出量の削減に取り組む3つのメリットを紹介する。

サプライチェーン全体でカーボンニュートラルの実現が可能に
SBT認定の取得につながる
企業評価が高くなる

サプライチェーン全体でカーボンニュートラルの実現が可能に

自社だけで削減できるGHGの排出量には限りがあるが、 スコープ1から3までを対象としたサプライチェーン全体で考えることで、カーボンニュートラルの実現に近づく。 大企業だけでなく、上流や下流に位置する中小企業も、排出量の削減に向けて取り組むことが重要である。

また、サプライチェーン全体で考えることで、 自社のサプライチェーン排出量の全体像を把握でき、削減に向けて優先すべき活動を特定しやすくなる。 関連事業者と協力することで、連携が強化される点もメリットといえるだろう。

SBT認定の取得につながる

企業がサプライチェーン排出量の削減に取り組むことで、SBT認定の取得につながる。SBT(Science Based Targets)とは、パリ協定が求める水準に整合した、 企業によるGHG排出削減目標のこと。 企業は、気候科学に基づく 共通基準 で評価された目標を設定し、SBTイニシアティブによって評価・認定してもらう必要がある。

SBT認定を受ける過程では、企業のGHG排出量をスコープ1,2,3に分類し、特にスコープ3(サプライチェーン排出量)の削減が求められている。SBT認定企業はスコープ3における削減目標も設定するため、サプライヤーに対して目標設定を求める企業も存在する。

SBT認定を取得すると、 カーボンニュートラルに積極的な企業であることをアピールでき、投資家からの「ESG投資」の呼び込みに役立つ。 ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、統治体制(Governance)の3要素を重視した投資のこと。ESG投資家は、投資先企業に対して、カーボンニュートラルのコミットメントを持つことを強く求めている。これに伴い、今後カーボンニュートラルに向けた取り組みを行わない企業は、 投資や融資を受けられなくなる可能性も出てきている。

企業評価が高くなる

スコープ1から3においてGHG排出量を算定し、削減に取り組むことで企業評価が高くなる点もメリットのひとつ。 消費者や国際NGOなども企業が環境に配慮した活動をしているかをチェックしているため、カーボンニュートラルに取り組むことでイメージ向上につながる。

また最近では、投資家だけでなく格付機関の質問項目にもGHG排出量の管理や取り組みが含まれるケースも見られるため、しっかりと回答することで信用度が高まるだろう。

サプライチェーン排出量を開示する企業の事例

サプライチェーン排出量を開示する企業の事例 イメージ

サプライチェーン排出量削減に向けて取り組み、排出量を開示している企業を紹介する。

キリンホールディングス株式会社
ソニーグループ株式会社

それぞれの事例を、詳しく見ていこう。

キリンホールディングス株式会社

キリンホールディングス株式会社は、2009年の時点で「 1990年比で2050年にバリューチェーン全体でGHG排出量を半減する 」と目標を設定し、排出量の削減に向けて取り組んできた。

2023年の時点では、2030年に以下の目標を達成すると発表している(※2019年比)。

● スコープ1とスコープ2の合計で50%減
● スコープ3は30%減

上記の目標に対し、2022年には以下の実績を公開している(2019年比)。

● スコープ1とスコープ2の合計で18%減、2022年の排出量は66.6万トン
● スコープ3は1%減、2022年の排出量は421万トン

キリンホールディングス株式会社の具体的な取り組み内容は、次のとおり。

● キリンビールの5工場において、電力として再生可能エネルギーを100%購入
● キリンビールの9工場において、大規模の太陽光発電設備を導入
● 製造プロセスにおいて、冷凍システムの効率改善で省エネを促進 など

参考: 気候変動の取り組み|キリンホールディングス

ソニーグループ株式会社

ソニーグループ株式会社は、2010年に「Road to Zero」と呼ばれる、2050年までに環境負荷ゼロを目指す計画を策定していた。現在は、2050年から2040年に前倒しして、 製品ライフサイクル全体でGHG排出量をゼロにするために、さまざまな活動に取り組んでいる。

「Roat to Zero」のロードマップは、次のとおり。

● 2030年...スコープ1と2の排出をネットゼロ
● 2035年...スコープ3の炭素除去
● 2040年...製品ライフサイクル全体で排出量ゼロ

2022年におけるスコープ1から3までのGHG排出量の実績は、次のように公開されている。

● スコープ1から3...2,142万トン

また、ソニーグループ株式会社では、GHG排出量ゼロを目指し以下の取り組みを実施している。

● サプライチェーン全体における排出量削減
● 世界各地の事業所における100%再生エネルギー化に向けた取り組み
● 製品の省電力化 など

まとめ

GHGプロトコルによると、 サプライチェーン排出量は3つのスコープに区分されている。

● スコープ1...GHGの直接排出量
● スコープ2...GHGの間接排出量
● スコープ3...上流・下流におけるGHG排出量

カーボンニュートラルを達成するには、 自社だけでなく上流・下流を含めたサプライチェーン全体に視野を広げることが重要といえる。 企業は「スコープ3基準」を参考に、サプライチェーン排出量を算出して優先事項を把握し、削減に向けて取り組む必要がある。

とくにスコープ2の電力と熱の供給はGHG排出の要因のひとつであるため、 再生可能エネルギーに置き換えるなど、化石燃料を使用しない方法が求められている。

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