自然災害の増加にともない期待が高まる防災テック

2024年9月9日

最近は、地球温暖化の影響もあり、自然災害が増加している。令和5年の防災白書では、「近年の平均気温の上昇や大雨の頻度の増加など、気候変動とその影響が全国各地で現れており、我が国にとって重要な問題である。」と記載している。

今年の7月も梅雨前線や線状降水帯の発生により、四国地方や東北地方では、死者を出す甚大な被害が起きている。

防災・減災のためには河川整備やダム建設等の「防災・減災インフラ」の整備が必要だが、それには、長い年月と多額の予算が必要になる。そのため、あらかじめ自然災害の危険を察知し、早めの避難が重要になる。そこで、注目されているのが、ITを活用した防災テックだ。ここでは、スタートアップを中心に防災テックを紹介する。

AIを活用した浸水シミュレーションシステム

Arithmer(アリスマー)株式会社は、水位データと予想する降水量データを入力することで、その後の経過時間に応じて川の越水・溢水(いっすい)状況がわかるとともに、住宅への浸水や田畑・道路などの浸水状況もわかるシミュレーションシステム「浸水AI」を提供している。このシステムは計測された実測値を元にパラメーター推定をAIで実施するため、河川氾濫前の浸水高予測、河川氾濫後の浸水被害推定を可能にしている。

(図1)「浸水AI」による河川氾濫前の浸水高予測(出典:Arithmer) イメージ
(図1)「浸水AI」による河川氾濫前の浸水高予測(出典:Arithmer)

2020年7月に起こった、熊本県人吉市の播磨川の氾濫時には、三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損害保険が被災住宅の全壊判断にArithmerを使用し、使用可能なレベルであることを確認した。

また、福島県広野町は今年から浸水AIシステムの利用を開始。浅見川の水位データと予想する降水量データを入力すると、その後の経過時間に応じて川の越水・溢水状況がわかるとともに、住宅への浸水や田畑・道路などの浸水状況もわかるシミュレーションシステムを導入している。

(図2)福島県広野町が導入した浸水AIシステム(出典:Arithmer) イメージ
(図2)福島県広野町が導入した浸水AIシステム(出典:Arithmer)

リアルタイム浸水推定図で初動対応を迅速化

株式会社Spectee(スペクティ)は、AI防災・危機管理サービス「Spectee Pro」を提供している。「Spectee Pro」は、SNSや気象情報、自動車のプローブデータ(走行中の多数の車から通信ネットワーク等を通じて得られる位置、速度などの情報)、全国1万台以上の道路・河川カメラなどを解析し、全国で発生する災害や危機を収集、可視化、予測する。

また同社は、SNSに投稿された画像や、河川・道路カメラ情報から浸水した場所や深さを自動的に割り出し、降水量、地形データ等と組み合わせて統合的に解析することで、氾濫発生から10分以内に浸水範囲と各地の浸水深を地図上に表示する「リアルタイム浸水推定図」も提供。

浜松市は昨年、「リアルタイム浸水推定図」を活用することで、これまで市役所職員による現地での目視確認によって行ってきた浸水状況の把握を「リアルタイム浸水推定図」で代用する実証実験を行った。浜松市が災害後の市職員による現地調査をもとに作成した浸水実績図と「リアルタイム浸水推定図」を比較したところ、両者の結果が概ね一致しているエリアも見られたという。さらに、飛び地等の把握ができていなかった一部の浸水箇所について、浸水推定図では浸水した可能性があることが判明できたという。同市は、「推定精度が上がれば、被災者支援の漏れの防止や、初動対応の迅速化に活用できる」という感触を得たという。

(図3)浜松市の浸水実績図と「リアルタイム浸水推定図」の結果が概ね一致(出典:Spectee) イメージ
(図3)浜松市の浸水実績図と「リアルタイム浸水推定図」の結果が概ね一致(出典:Spectee)

そのほか同社は、AIを活用したデジタルツイン技術で、水害発生時の浸水範囲をリアルタイムに3Dマップ上に再現している。災害発生時からほぼリアルタイムに浸水範囲と浸水深を3Dマップ上に再現することで、被害状況をビジュアルにわかりやすく把握し、災害対応計画の策定を迅速化する。SNSの画像1枚からでも非常に正確な浸水範囲及び周辺地域の浸水深の推定が可能であることから、水害が発生した場合、SNSや道路や河川のカメラ等を通じて取得できる僅かな画像・映像の情報からも、その周辺地域も含めた推定浸水範囲及び浸水深をリアルタイムに3Dマップ化し被害状況を把握できるという。

(図4)3Dマップ(出典:Spectee) イメージ
(図4)3Dマップ(出典:Spectee)

防災気象情報を利用者の現在地や登録地点に基づき配信

ゲヒルン株式会社は、防災気象情報を発信する「特務機関NERV防災アプリ」 を提供している。同アプリは、地震・津波・噴火にかかる特別警報の速報、大雨による土砂・洪水・浸水等の水害の危険度といった防災気象情報を、利用者の現在地や登録地点に基づき配信するスマートフォン用アプリ。

(図5)「特務機関NERV防災アプリ」(出典:ゲヒルン) イメージ
(図5)「特務機関NERV防災アプリ」(出典:ゲヒルン)

同アプリでは、気象庁が指定する「気象業務支援センター」と接続した専用線から、気象庁独自形式の情報データを受け取り、変換処理できるプログラムを開発しているため、気象庁からデータを受信してからすぐに、情報を配信することができる。

また、気象庁のデータの他にも、「河川情報センター」から受信するダム放流通知情報や、「災害情報共有システム(Lアラート)」から受信する避難準備、避難勧告、避難指示等の避難情報や避難所・避難場所情報等、利用者にとって、その時その場所で必要な防災気象情報を通知する。同アプリが情報の種類や経過時間、緊急度に応じて独自の優先度で情報を並び替えるため、利用者は、災害時に刻一刻と状況が変わる場合においても、最新の必要な情報を確認できる。また、視覚障がいや読字障がいの人にも伝わりやすいよう、音声での読み上げ機能も搭載している。

ドローンにより津波避難を呼びかけ

仙台市は、津波からの避難を呼び掛けるための新たな広報手段として、津波避難広報ドローンの整備を行い、令和4年10月17日から本格運用を開始した。

これは、津波警報等(津波注意報、津波警報及び大津波警報)の発表とともに、全自動で2機のドローンが離陸・飛行し、沿岸部を訪れている人に対して、搭載するスピーカーから避難を呼びかける音声とサイレンを流すことにより、人の手を介さずに、自動で避難広報を行うという。

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