災害を「自分ごと」にして防災意識を高めるVR/ARの疑似体験

2022年9月26日

毎年開催されている防災訓練は、水害や火災、煙害などさまざまな災害を擬似的に体験することで、実際に災害が起きた時に身を守る術を学んでおくことが目的だ。だが、毎年同じことをやっているとマンネリ化してしまい、訓練そのものに緊張感がなくなってしまう。そこで、最近ではVR(仮想現実)やAR(拡張現実)の技術を活用し、よりリアルに災害を疑似体験する防災訓練が注目されている。

防災訓練にリアリティを与えるVR/AR技術

コンピュータで現実に似せた仮想世界を作り出し、あたかも自分がそこにいるような感覚が体験できるVR技術や、現実世界で人間が実際に感知している情報に別の情報を付加して拡張するAR技術は、ゲームやエンターテインメントの分野だけではなく、最近では医療分野などでも活用が広がっている。こうした技術を防災訓練でも活用すれば、さまざまな効果が生まれそうだ。

防災訓練は、災害時を想定したシミュレーションを事前に体験しておくことで、実際に災害が発生した際に迅速かつ的確な行動がとれるようにするトレーニングだが、本番さながらの緊張感を持って取り組むのは難しい。毎年行われている企業の防災訓練なども、毎回同じようなシナリオで建物から避難し、公園や広場に集まって点呼するなどマンネリ化してしまい緊張感を感じることもない。

また、火災を想定した防災訓練では、実際に火に向かって消化剤をかけたり放水するといった模擬消火作業も組み込まれているが、そうした訓練は屋外で行う必要があるため、雨や強風など当日の天候によって中止されることもある。

防災訓練を行う意義として、非常口や非常階段などの避難ルートを確認することも大切だが、より重要なことは非常事態に対する心構えを植え付けておくことだ。そのためには、より臨場感のある訓練を通して防災意識を高めることが必要で、VRやARによる仮想体験がそれを可能にするのだ。

東京消防庁が導入したVR防災体験車

東京消防庁が導入した全長約12メートルのVR防災体験車では、最大8人が同時にヘッドマウントディスプレイを使ったVR映像を見ることができる(写真1)。地震や火災、風水害といった3つのストーリーに合わせて座席が動き、火災の熱や水しぶきなどの効果で、災害現場をバーチャル体感する。

また、360度に視界が広がるVR映像を見ながら、煙にむせたり、ガラスが降ってくる音を感じたり、閉じ込められる恐怖を感じたりといった疑似訓練が可能。火災の映像では、火のついた油に水を注いでしまい、被害の範囲が広がる様子もリアルに再現される。こうした映像を見ることで「火のついた油に水を注いではいけない」といった、災害時のNG行動を学ぶなど、参加者に災害現場のリアルな恐ろしさを感じてもらうことで、災害を「自分ごと化」してもらおうとしている。

(写真1)東京消防庁が導入しているVR防災体験車(出典:東京消防庁のホームページより引用) イメージ
(写真1)東京消防庁が導入しているVR防災体験車
(出典:東京消防庁のホームページより引用)

スマートフォンで浸水災害を疑似体験できるARアプリ

ウェザーニューズは、今いる場所が浸水したらどうなるかをスマートフォンで疑似体験できるアプリ「AR浸水シミュレータ」を公開している。スマートフォンのカメラ機能とAR技術を活用し、目の前が浸水した様子を視覚的にわかりやすく表現することで、浸水被害をリアルに体験できる。

浸水の深さは画面上で10センチ単位で設定可能で、浸水が50センチになった場合や1メートルになった場合、今見ている景色がどのように変化するのかをスマートフォンの画面に可視化。水流や水の色も指定できるので、浸水の状況によって徐々に足下が確認できなくなる様子などもよりリアルに体験できる。

(写真2)「AR浸水シミュレータ」による銀座駅周辺(左)と浅草駅周辺(右)のシミュレーション(出典:ウェザーニュースのホームページより引用) イメージ
(写真2)「AR浸水シミュレータ」による銀座駅周辺(左)と浅草駅周辺(右)のシミュレーション
(出典:ウェザーニュースのホームページより引用)

VR/ARアプリを活用した防災訓練を提供するサービスも

災害の「自分ごと化」に適したVR/AR技術を使った防災訓練を支援するサービスを提供しているのが、一般社団法人拡張現実防災普及(ARB)だ。2022年6月26日と7月9日には、東京・渋谷区の小学校で開催された「渋谷防災キャラバン」(渋谷区主催)で、拡張現実防災普及が開発したARによる災害体験アプリ「Disaster Scope」を利用した防災訓練が実施された。

現在、自治体が抱えている防災訓練には「従来の防災訓練では物足りない」「本当に訓練を受けて欲しい若い人が参加しない」「内容がマンネリ化している」「訓練の目玉コンテンツがない」といった課題がある。こうした課題に対応するために、「現実の空間で、この先起こる災害を疑似体験するシステム」として、言葉だけでは伝えられない危機感を映像を通じて多くの人と共有するのが「Disaster Scope」のコンセプトだ(写真3)。

(写真3)災害体験アプリ「Disaster Scope」を利用した小学校での浸水体験シミュレーション(出典:拡張現実防災普及のホームページより引用) イメージ
(写真3)災害体験アプリ「Disaster Scope」を利用した小学校での浸水体験シミュレーション
(出典:拡張現実防災普及のホームページより引用)

拡張現実防災普及では、防災訓練の企画から運営、アプリのレンタル、販売などといったサービスも提供している。すでに、浸水をはじめ、地震や火災、消火訓練などをVRやARで体験できるコンテンツを開発しているが、今後は近年増加する傾向にある豪雨や台風による水害にも対処できるよう、土砂崩れを疑似体験できるARの開発も進めていくという。

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