自治体と医療機関をつなぐ情報連携システムを活用した健康支援
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高齢化が進む日本において、自治体はさまざまな課題に直面している。特に医療・介護サービスの需要増加は避けて通れない。自治体は国と連携しながら、高齢者が要介護状態になっても住み慣れた場所で最後まで暮らせるように地域包括ケアシステムの構築をはじめ、マイナンバーカードを活用した健康増進への取り組みなど多岐にわたる対策を講じているようだ。
デジタル庁がマイナンバーカードを活用した医療情報の連携機能を開発
自治体は医療費助成や介護保険、予防接種、母子保健などの業務の実施主体となっているが、紙での情報連携にかかる業務負担が多く改善が求められている。一方、国は医療分野でのDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進することで、医療サービスの効率化や質の向上を目指している。
2023年6月2日には厚生労働省が、医療DXの推進に関する工程表を発表した。そこには、「関係機関や行政機関などの間で必要な情報を安全に交換できる情報連携の仕組みを整備し、自治体システムの標準化の取り組みと連動しながら、介護保険や予防接種、母子保健、公費負担医療や地方単独の医療費助成などに係る情報を共有していく」という方針が示されている。
こうした中、医療に関わる領域においてもマイナンバーカードを活用したデジタル化の取り組みを推進するデジタル庁は、2023年度に情報連携機能を有するシステム「PMH(Public Medical Hub)」を開発。希望する自治体向けに医療費助成分野、予防接種・母子保健分野を対象とした先行実施事業を開始しており、2025年5月12日時点で183団体(22都府県、161市町村)が事業に取り組んでいる。

(図1)自治体・医療機関の情報連携基盤(出典:デジタル庁 資料)
神戸市が高齢者を対象に疾病、介護予防にPMHと連携した個人情報を活用
実際に自治体がPMHを有効活用するには、個人の健康や医療に関わる情報(健康・医療・介護などのデータ)を電子記録として本人や家族が正確に把握するための仕組み「PHR(Personal Health Record)」との連携が重要になる。この連携が、よりパーソナライズされた医療サービスの提供や、効果的な健康管理の促進を可能にすると期待されている。例えば、神戸市をはじめとする複数の自治体で、高齢者を対象に疾病、介護予防にPHRを活用する取り組みが進められており、個人のスマホではなく公共の場(公民館など)に設置したタブレットが使用されている。
神戸市立神戸アイセンター病院では2025年1月20日、PHRのアプリである「NOBORI」を導入し運用を開始したと発表。これにより、アプリ上で診察予約や診察待ちの順番などが確認できる他、診察予約日のリマインドや診療費後払いなど、患者の通院にとって便利な各種機能を提供し、診察待ち時間の解消を図ろうとしている。
患者は「NOBORI」を利用することで、アプリの画面上で診察順番の案内や通院予定、履歴の確認が可能になり、診察予約日のリマインド(通院1週間前、前日に自動でリマインド)が受けられる。また、診療費後払いシステムの利用や、マイナポータルから医療情報(予防接種情報、特定検診受診情報、医療費情報、薬剤情報)を取得できるようになる。

(図2)「NOBORI」の画面イメージ(通院確認、検診情報参照、後払いシステム)(出典:神戸市 プレスリリース)
焼津市がPHRの健康データなどを活用して市民の健康支援を実施
静岡県焼津市が2025年8月から開始した「地域で取り組む健幸・デジタル生活推進事業」では、PHRの健康データなどを活用して、オンラインでの個別面談/相談、チャット相談が行われる。事業では、ヘルステック企業のWellmiraが提供するAI健康アプリ「カロママ プラス」が活用され、市の保健事業などで特定した市民を対象に「特定保健指導」や「糖尿病重症化予防」「妊産婦向け健康支援」を実施している。
「カロママ プラス」では、食事・運動・睡眠などのライフログや健康診断結果、ウェアラブルデバイスから連携したPHRデータをもとに、パーソナルAIコーチ「カロママ」がリアルタイムにパーソナルな健康アドバイスを提供。「ダイエット」や「健康維持」から「生活習慣病予防」「産前産後サポート」など、幅広いニーズに応えた健康づくりを支援する。
また、焼津市スマートシティ推進協議会との連携で、推定野菜摂取量、野菜摂取レベルを簡単に測定できるカゴメの「ベジチェック」を、市内の小売店や保健センターなど市民が普段の生活の中で立ち寄る場所に設置し、野菜摂取の啓発を図る。さらに、測定結果を「カロママ プラス」に登録することで、静岡県内で使える特典やサービスと交換できる「やいづ健康マイレージポイント」を付与し、体験を一過性にせず習慣化を目指していくという。
10月以降は、焼津市内の企業を対象に「カロママ プラス」を従業員向けに提供。事業者には、従業員の生活習慣を分析した「健康経営レポート」を提供し、企業の健康経営を支援する。

(図3)静岡県内で使える特典やサービスと交換できる「やいづ健康マイレージポイント」(出典:Wellmiraプレスリリース)
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