「2030年問題」に向けて、地方自治体が取り組む医療DXとは
日本では2040年までに65歳以上の人口が全体の35%を超えると予想されています。日本の高齢化が進む中で、行政や自治体が直面する医療費増加と医療従事者不足は深刻な課題です。高齢化社会において、医療分野のDXは、地域社会の持続可能性を高めるために欠かせない取り組みになっています。
「2030年問題」を抱える日本の医療・介護業界の動向
「2030年問題」とは、主に団塊の世代(1947年〜1949年生まれの約800万人)が全員75歳以上の後期高齢者となる2030年頃に起こるとされる医療・介護を中心とした社会問題の総称です。医療や介護サービスの需要が急激に増加し、社会保障費用の急増や人材不足、施設不足など、さまざまな問題が発生することが懸念されています。
このような中で、2025年6月、石破内閣が「経済財政運営と改革の基本方針2025-『今日より明日はよくなる』と実感できる社会へ-」(骨太方針2025)を閣議決定しました。2025年の「骨太の方針」では、医療や介護分野のDXが重点項目として掲げられ、電子カルテやPHR(Personal Health Record:個人の健康・医療・介護などのデータ)の普及が明文化されています。医療現場の構造的課題に対するテクノロジーの活用に向け、制度と技術、行政と企業の連携が加速しています。

(出典:株式会社オロ ホームページ)
地方自治体が取り組む医療DX
①山口県防府市の休日夜間急患センターにおけるオンライン診療
山口県防府市は人口約11万人(2025年7月末現在)、全国平均と比較して休日患者数・夜間時間外患者数が多く、医師会員の高齢化および診療所数の減少や二次輪番病院や三次救急病院(県立医療センター)の負担が大きいという医療課題を抱えていました。
これらの課題を解決するため、防府市は株式会社ジェイエムインテグラルが提供するオンライン診療サービスを導入しました。オンライン診療は2024年10月より開始され、毎週木曜日・土曜日の19:00〜22:00の時間帯で実施されています。
受診希望者は自宅などから専用の回線へ電話し、看護師の問診を受けます。その後、スマホなどにショートメールで届くURLから申し込みフォームに保険証などの必要な情報を記入し、ビデオ通話で医師の診療を受けた後、午後10時までに本人や家族らが休日診療所に行き、支払いを済ませてから薬を受け取る流れになっています。
オンライン診療システムにより、診療所での待ち時間が短縮され、患者の負担が軽減されるとともに、夜間の一次救急医療体制が充実することで防府市の救急医療体制全体が強化されています。
②長野県伊那市の「医師の乗らない移動診療車」
長野県伊那市は、全国平均よりも高齢化率が高い地域で開業医も高齢化しており、往診の担い手が不足しています。また、平地だけでなく山間地域にも多くの患者が住んでいるため、往診にあたっての移動コストの問題を抱えています。伊那市は、このような医療課題をMaaS(Mobility as a Service)によって解決するべく、モバイルクリニック実証事業を推進しています。
伊那市が推進するモバイルクリニック実証事業は、MONET Technologies、フィリップス・ジャパンとの協業で行うヘルスケアモビリティの運用事業で、「医師の乗らない移動診療車」を活用した取り組みです。
あらかじめ患者が合意したオンライン診療の予約時間に合わせて、看護師がMONET Technologiesのアプリから医療機器を搭載したオンライン診療用車両「INAヘルスモビリティ」の配車を予約します。車両に看護師が同乗して患者の元まで移動し、患者が車内に乗り込んだ後、遠隔地の医師がテレビ電話で患者を診察、看護師が医師の指示に従って診察の補助を行う仕組みです。
このモデルでは、移動診察車が患者の近くまで出向くため患者自身が病院に足を運ぶ必要がなくなります。また、訪問診療にかかっていた医師の移動時間も大幅に削減され、より専門的な診察や緊急対応へ振り分けることが可能となりました。

(出典:内閣府「伊那市モバイルクリニック事業 現状の課題と規制改革要望」)
オンライン診療の可能性
近年急速に進展しているオンライン診療や遠隔医療は、ICTやデジタル技術を活用することで、場所や時間の制約なく診察・相談が可能になり、患者の通院負担軽減や医療アクセス改善につながります。特に、体力が低下してきた高齢者や足腰が悪い患者にとっては、大きなメリットです。
オンライン診療や遠隔医療の活用により、患者一人ひとりがよりきめ細かく継続的な医療サービスを受けることができ、医療機関とのコミュニケーションも一層深まることが期待されます。
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