世界のスマートインフラ市場が加速させるためのデータ活用の紹介
老朽化する社会インフラへの対応、人手不足の深刻化、そして脱炭素社会の実現等、世界各国で共通するこうした課題を背景に、「スマートインフラ」への投資が急速に拡大している。
スマートインフラとは、AIやIoT、センサー、クラウド、デジタルツインなどのデジタル技術を活用し、道路や鉄道、空港、港湾、上下水道、エネルギー設備などの社会基盤を効率的に管理・運営する仕組みである。従来のインフラ整備は、新しい設備を建設・更新することが中心であったが、近年は、既存設備から収集されるデータを活用し、異常の予兆を検知したり、運用を最適化したりする「データドリブン型」のインフラへと進化している。
今回は、その潮流を象徴する2つの最新事例を紹介する。
マカオ国際空港、顔認証と統合管理で「スマート空港」を実現
夏休みや年末年始、空港で長蛇の列を目にすることが多いであろう。そんなストレスを一気に解消するニュースが話題となった。
2026年1月、マカオ国際空港は、6年にわたって推進してきたスマートインフラ構築の成果を発表し、日本でもそのニュースが話題となった。この空港のスマートインフラの中核となるのは、顔認証を活用した「One ID」システムである。搭乗者は一度の本人認証だけで、保安検査場への入場から搭乗までを完全ペーパーレスで利用を可能にした。この導入効果は大きいという。保安検査前の手続き時間は平均19秒まで短縮され、さらに、ミリ波ボディスキャナーを備えた新型スマート保安検査レーンによって検査能力は従来比約1.8倍に向上している。1時間あたり約1,680人を処理ができ、混雑を抑えながら、空港利用者は、2分程度で、保安検査を終えることができるという。世界でもこの速度は最短レベルであり、このシステムの恩恵を受ける日本人旅行客は多いであろう。
また、空港全体の運営を支える「空港統合管理センター」では、航空会社や地上支援会社、保安部門などがリアルタイムで情報を共有し、迅速な意思決定を実現した。さらに、中国の国家交通流管理システムとも連携し、中国や香港、珠海との航空管制情報をリアルタイムで共有することで、フライト運航の最適化にもつなげているという。
この事例が示しているのは、「顔認証を導入した空港」という点ではない。重要なのは、利用者サービス、施設運営、航空管制までを一つのデータ基盤で結び付け、空港全体をデータで最適化する仕組みを構築したことである。スマートインフラが目指す姿を象徴する取り組みなのである。
ダンロップ、タイヤを「走るセンサー」へ スマートインフラ活用を提案

写真はイメージです
もう一つ注目されたのが、「人とくるまのテクノロジー展2026」で住友ゴム工業(ダンロップ)が披露した独自ソフトウェア技術「SENSING CORE(センシングコア)」である。
この技術は、タイヤの回転から得られる車輪速データと車両のCANデータを解析し、空気圧や摩耗状態、荷重、路面状況などをリアルタイムで把握するものだ。単なる車両管理にとどまらず、自動運転、スマートナビゲーション、保険、メンテナンス、デジタルツイン、さらにはスマートインフラ分野への活用も視野に入れている。
例えば、多数の車両から収集されるタイヤデータを分析すれば、道路の損傷や舗装劣化、滑りやすい箇所などを早期に検知できる可能性がある。インフラ管理者は異常が発生してから補修するのではなく、データに基づいて予防保全を行えるようになる。つまり、タイヤそのものが「道路状態を測るセンサー」として機能することができる。
さらに、同社はトヨタのクラウド型データ解析サービス「WAVEBASE」を活用したタイヤ材料の解析事例も紹介した。これまで研究者の経験や勘に頼っていた材料開発をデータ解析へ置き換えることで、解析時間を従来の100分の1以下に短縮。分子レベルで材料特性を分析し、高性能タイヤの開発を加速させている。
この取り組みは製品開発だけでなく、「データを資産として活用するものづくり」への転換を示す事例としても注目される。
データが社会インフラの価値を高める時代へ
今回紹介した2つのニュースは、一見すると「空港」と「タイヤ」という異なる分野の話に見える。しかし共通しているのは、データをリアルタイムで分析し、社会インフラ全体の効率化や安全性向上につなげている点である。
今後はAIによる異常予兆検知やデジタルツインによるシミュレーション、複数のインフラを横断したデータ連携がさらに進むと予想される。道路、橋梁、鉄道、港湾、空港、物流など、あらゆる社会基盤がデータでつながることで、インフラは「造る時代」から「賢く運営する時代」へと移行しつつある。
日本でも高度経済成長期に整備されたインフラの老朽化が大きな課題となっている。限られた人員と予算の中で安全性を維持するためには、AIやIoTを活用したスマートインフラの導入は不可欠だ。海外や民間企業の先進事例は、日本のインフラDXを加速させるヒントとして、今後ますます注目を集めるだろう。
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