「ウーブン・シティ」 モビリティの実証実験の街

2026年1月26日

トヨタ自動車は静岡県裾野市で、次世代のモビリティやサービスの実証実験を行う施設として「Toyota Woven City(ウーブン・シティ)」を建設している。2025年9月にはフェーズ1と呼ばれる住居エリアがオープンし、先行して入居する住民に対して、モビリティに限らずさまざまな分野の実証実験を開始した。

試作と改良を繰り返す「カケザン」のサイクルで実証

ウーブン・シティは1967年から2020年まで752万台の車を製造した、旧東富士工場の跡地の一部を利用して建設されている。現在完成しているのは、住居棟やオフィス棟などの施設があるフェーズ1のエリアで、すでにトヨタの関係者300人ほどが入居している(写真1)。今後の計画では、現在工事中のフェーズ2のエリアも合わせて、入居者は2000人ほどまで増える予定だ。

フェーズ2のエリアには旧東富士工場の一部を残して、新たなモビリティのプロトタイプを製作する施設や、それらを実証するテストコースも作られる計画だ。なお、フェーズ2エリアの造成工事は2026年秋頃まで行われ、その後に建物の建設が開始される(写真2)。

(写真1)現在300人ほどが入居しているフェーズ1の住居エリア イメージ
(写真1)現在300人ほどが入居しているフェーズ1の住居エリア
(写真2)造成工事中のフェーズ2エリア イメージ
(写真2)造成工事中のフェーズ2エリア

ウーブン・バイ・トヨタの広報担当者によると、「トヨタでは、モビリティは人の心を動かすもの全てと考えている。ウーブン・シティはその実証の場であり、ここはスマートシティではなくモビリティのテストコースもしくは実証実験の街と呼んでいる」と説明する。車に限らず新しい製品やサービスを、実際に街に住んでいる人に使ってもらいながら、よりよいものを作る場という位置づけだ。車に乗っている人と横断歩道を渡る人、そしてインフラまでを一緒に検証することで、よりモビリティの安全性が高まるという。

トヨタでは、ウーブン・シティで実証実験に参加する人たちや企業を、「インベンターズ」と「ウィーバーズ」と呼んでいる(写真3)。インベンターズはものを作る人や開発者で、現時点でさまざまな分野の20社が実証実験を始めている。ウィーバーズはインベンターズが作ったものを実際に試してフィードバックする役割を持ち、住民以外にも外部からの来訪者も含まれる。インベンターズが作ったものを、ウィーバーズが試すというサイクルを繰り返して製品を改良する過程を「カケザン」と呼び、トヨタでは「カイゼン」に続く新たなコンセプトと位置づけているという。

(写真3)インベンターズが作ったものをウィーバーズが試す「カケザン」のサイクル イメージ
(写真3)インベンターズが作ったものをウィーバーズが試す「カケザン」のサイクル

車道から地下までウーブン・シティでしかできない実証実験

ウーブン・シティ内の移動には、主に17人乗りの自動運転バス「e-Palette」(写真4)が使われるが、乗客を乗せた移動はドライバーによる手動運転で移動し、自動運転に関しては別途無人で実証実験を行っている。ウーブン・シティ内の道路ではe-Paletteと信号機が情報をやりとりして、歩行者の有無などに応じてフレキシブルに動作させる実験が行われている。例えば、車道側の信号は常に「赤」、横断歩道の歩行者用信号は常に「青」となっており、e-Paletteが横断歩道に接近した時だけ車道側が「青」、歩行者側が「赤」に変わるようになっている(写真5)。これによって、モビリティの移動をスムーズにして渋滞が起きにくい交通環境を実証する。

(写真4)ウーブン・シティ内の公共交通を担うe-Palette イメージ
(写真4)ウーブン・シティ内の公共交通を担うe-Palette
(写真5)e-Palette と信号機が連携して信号機を自律的に制御 イメージ
(写真5)e-Palette と信号機が連携して信号機を自律的に制御

この信号機はウーブン・バイ・トヨタが開発した「多機能ポール」に組み付けられており、ウーブン・シティ内にはこのように、センサーやカメラなどが内蔵されたポールがいくつも設置されている(写真6)。今後、新しいインフラをテストする際にも、設定を柔軟に変えながら実証を行っていくことを想定しているという。

(写真6)さまざまな用途での活用が想定されている「多機能ポール」 イメージ
(写真6)さまざまな用途での活用が想定されている「多機能ポール」

また、信号機はモビリティから情報を受信するだけではなく、カメラで接近を認識して信号を変えることもできる。この機能の実験車両の1つが、トヨタが開発中の1人乗りパーソナルモビリティビークル「Swake(スウェイク)」だ(写真7)。電動の3輪車で、時速は最大20キロとなり16歳以上なら免許なしで乗れる。3輪にしたことで安定性が向上したが、現時点では一般販売の計画はない。

こうした交通インフラと密接に連携した取り組みは、まさに公共道路と遮断された閉じられた街だからこそ可能になる実証と言える。

(写真7)ウーブン・シティ内の移動に使われているパーソナルモビリティビークル「Swake」 イメージ
(写真7)ウーブン・シティ内の移動に使われているパーソナルモビリティビークル「Swake」

一方、ウーブン・シティの建物はすべて地下でつながっており、そこでは物流の実証実験が行われている(写真8)。例えばスマートロジスティクスの実験では、外部の宅配業者から受け取った荷物が地下の配送センターに集められ、そこから住民の居住棟までは物流ロボットが無人で自動配送する。さらに先についても、一部の住居には玄関に設置されたポストまでロボットが配送する。地下という環境は雨や風など天候に左右されずに一定の条件が保てるため、モビリティの実証を行う上で重要な場所の1つであるという。

(写真8)スマートロジティクスの実証実験が行われている地下通路 イメージ
(写真8)スマートロジスティクスの実証実験が行われている地下通路

さまざまな分野のインベンターズも実証実験を開始

インベンターズとして、実際にウーブン・シティの中に店舗を構えて実証実験を行う企業もある。UCCジャパンは上島珈琲の店舗において、参加登録した来店客の動作を天井のカメラで撮影し、人工知能(AI)で分析する実証実験を行っている(写真9)。退店時にアンケートに回答してもらい、コーヒーの香りや味わい、店舗の環境が人の集中力や作業効率に与える影響を検証する。UCCジャパンによると、「実験室で行う限定的な検証と違って、より現実に近いデータが収集できる」と、ウーブン・シティで実証実験を進めるメリットを語る。

(写真9)上島珈琲の実証実験が行われている店舗では、通常の営業も行っている イメージ
(写真9)上島珈琲の実証実験が行われている店舗では、通常の営業も行っている

ダイドードリンコの自動販売機スペースでは、自由にデザインが変えられる白い自動販売機を設置(写真10)。利用者はスマートフォンでQRコードを読み込み、画面で商品を選択してキャッシュレスで飲料水を購入する。実験では自動販売機の周囲にカメラを設置し、購入者の滞留時間や商品を選ぶ時間などを記録して個人の購買行動を分析する。こうした実験も、公共施設ではプライバシー保護の問題もあって難しいが、ウーブン・シティの中であれば住民の協力によって実現可能になる。

(写真10)ダイドードリンコの白い自動販売機は、いろんな場所に溶け込むデザインも模索する イメージ
(写真10)ダイドードリンコの白い自動販売機は、いろんな場所に溶け込むデザインも模索する

他にも、増進会ホールディングスが認可外保育施設を2025年10月から開設(写真11)。AIを活用して子どもの発達段階の定量化などを目指すが、2026年度には小学生向けの「エレメンタリースクール」や学童保育の「アフタースクール」などを開校する予定だ。

(写真11)増進会ホールディングスが開設した認可外保育施設 イメージ
(写真11)増進会ホールディングスが開設した認可外保育施設

こうしたインベンターズが作った試作品や製作途中の製品が置かれ、実際に住民に触ってもらって感想を述べてもらう場が「Kakezan Invention Hub」だ(写真12)。インベンターズ同士の交流の場でもあるが、トヨタとしても他業種の強みとの掛け合わせによって、新しいプロダクトを生み出すことも考えているという。

(写真 12)インベンターズの試作品や製作途中の製品を住民に触ってもらって感想を聞く「Kakezan Invention Hub」 イメージ
(写真 12)インベンターズの試作品や製作途中の製品を住民に触ってもらって感想を聞く「Kakezan Invention Hub」

現時点のウーブン・シティは住民が増えるまでの準備期間であるが、実証実験が本格化する2026年度以降は地域住民にも開放し、見学を受け入れる方針だという。

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