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駅の自販機の売上増につながる意外な商品とは? 自販機運用を最適化するAI活用

2022年4月1日

駅に設置された自販機で飲み物を選ぶときに、自分が飲みたい商品がちょうど売っていて嬉しくなったり、気になる商品があってついつい買ってしまったりという体験をしたことがあるだろうか。もしかしたら、それはAIがあなたの嗜好を分析した結果かもしれない。年間2億件を超える膨大なPOSデータとAIを活用し、駅の自販機の商品の最適化を実現する取り組みをみてみよう。

年間2億件を超える膨大なPOSデータをAIで分析

JR東日本管内で、自社ブランドの自販機「acure(アキュア)」約8000台を中心に飲料販売を手がけるJR東日本ウォータービジネス(注)は、自社で運営する自販機の商品ラインナップの最適化を実現するため、2020年12月からAIを導入している。導入したのは、オーストラリアのHIVERY社が開発したAIシステム「HIVERY Enhance」(ハイバリーエンハンス)。JR東日本ウォータービジネスでは、2017年から「HIVERY Enhance」を活用した実証実験を行っており、最大50%以上、全体でも5.27%の売上増加を達成するなどの成果が確認できたことから本格導入に至ったという。

JR東日本ウォータービジネスは、膨大な自販機ビッグデータを保有している。アキュアの自販機は全て交通系電子マネーに対応しており、現金決済も含めて年間で2億件を超える購入商品のPOS(販売時点情報管理)データを取得している。「いつ」、「どこで」、「何が売れたか」に加え、アキュアメンバーズ登録会員については年齢・性別データも取得できる。「HIVERY Enhance」では、この膨大なPOSデータに、気象データなどを加えて分析を行い、売れそうな商品の選定を行う。

「HIVERY Enhance」の運用イメージ(出典:JR東日本ウォータービジネス プレスリリース) イメージ
「HIVERY Enhance」の運用イメージ
(出典:JR東日本ウォータービジネス プレスリリース)

缶コーヒーを増やすか減らすか。経験則に囚われないAIによる商品提供

これまでも、喫煙所の近くの自販機には缶コーヒーを多めに入れたり、女性専用車両が停車する位置にある自販機には健康系の飲料を入れるといった、経験則に基づくノウハウはあった。AIを本格活用することにより、オペレーターの経験や知識に依存しない、データに基づく商品提供を行うことが狙い。「HIVERY Enhance」は、「より売れる」と判断した商品への差し替え提案や、既存商品の配置の入れ替えを提案する。

これまで自販機ラインナップの決定は、実際に現場で補充を行う各オペレーターに任されていた。例えば久里浜駅ではタクシー需要が多いため、担当者が、タクシー運転手が好みそうなショートサイズの缶コーヒーを多く配置していたという。しかし、AIの提案に沿ってカフェオレやココアなど、一本当たりの量が多い商品を増やしたところ、売上が2割増加した。逆に、缶コーヒーを充実させることで売上増につながったケースもある。元々缶コーヒーの売上が多かった鶴見駅の自販機では、ホットとコールドあわせ3種類のブラックコーヒーを販売していた。久里浜駅では、缶コーヒー以外の商品を提案した「HIVERY Enhance」は、鶴見駅の自販機に対しては、ブラックコーヒーをさらに増やして5品とする提案を行い、その結果、売り上げが11.6%増加した。

缶コーヒーを増やすか減らすか。経験則に囚われないAIによる商品提供 イメージ

「売り切れ」による機会損失を最小化し、補充業務を効率化するAI

売上増に加えて、AI導入のもう一つの目的が、飲料補充業務の効率化だ。自販機で売り切れが出ると、当然だがオペレーターが現地に向かい、商品を補充しなければならない。一つの自販機で販売している商品が売り切れになるタイミングがバラバラだと、売り切れのまま放置される時間が長くなり、大きな機会損失が発生してしまう。エキナカの自販機は、月に300万円売り上げるものもあり、機会損失によるロスは馬鹿にならない。補充作業の効率化と、機会損失の最小化という観点からは、全ての商品の在庫が均等に減っていき、一斉に売り切れになるのが理想的だ。そこでAIを活用し、売上予測から各商品の欠品までの日数を計算し、訪問回数を抑えるように収納本数の最適化を図る。こうすることで、訪問頻度の最適化を実現する。

「売り切れ」による機会損失を最小化し、補充業務を効率化するAI イメージ

東京駅のホームではしじみ味噌汁が売れる? AIによる驚きの提案で売上4割増も

もちろん、AIとて万能ではない。AIは過去の実績をもとに提案を行うため、イベント開催などの突発的な需要の増減には対応できない。また、売れる商品だけを優先すると、同じホームにある自販機の品揃えがどれも同じようになってしまう懸念もある。JR東日本ウォータービジネスでも、「HIVERY Enhance」に完全に頼るのではなく、オペレーターの知見も活用しながら、商品の最適化を進めている。

それでも、東京駅のホームの自販機に、しじみの味噌汁やコーンスープを追加しようというような発想は、なかなか人間には難しい。東京駅の7-8番線ホームに設置された自販機にこの2つの新商品が追加されると、従来と比べて売上が39.5%増加した。JR東日本ウォータービジネスでは、「HIVERY Enhance」導入により、月に200万円の売上増が実現できているという。ビッグデータとAIの活用の可能性を示す事例として、今後、どのような驚きの提案が出てくるのか注目したい。

(注)JR東日本ウォータービジネスは、2021年4月1日にJR東日本リテールネットに吸収合併された。それ以降は、JR東日本リテールネットから商号変更したJR東日本クロスステーションの社内カンパニーである「ウォータービジネスカンパニー」が、事業を継承している。本記事では、JR東日本ウォータービジネスで統一。

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