• HOME
  • 未来を語る
  • 鉄道から未来の乗りものまで5GとAIでモビリティインフラの安全を保つ

鉄道から未来の乗りものまで5GとAIでモビリティインフラの安全を保つ

2022年4月1日
鉄道から未来の乗りものまで5GとAIでモビリティインフラの安全を保つ
鉄道から未来の乗りものまで5GとAIでモビリティインフラの安全を保つ
話し手
  • 中央復建コンサルタンツ株式会社
    計画系部門 事業創生グループ プロジェクトマネージャー
  • 松島 敏和

大量輸送機関である鉄道は、エネルギー消費が少なく環境負荷が小さいなど、公共交通機関としてさまざまなメリットがある。そうしたメリット以外にも、鉄道ならば目的地への移動時間があらかじめ調べられるので、ビジネスでもプライベートでも旅行計画が立てやすい。一方で、鉄道会社は安定した列車の運行を維持するために、日々さまざまな努力を続けている。そのために必要な点検作業などを効率化する、5GとAIディープラーニングを活用した鉄道インフラのリアルタイム遠隔・自動監視システムの構築に関わっている中央復建コンサルタンツの松島敏和氏に、取り組みの概要や今後の展開、将来展望などについて伺った。

生活に大きな影響を与える鉄道の定時運行を守る

日本が抱える労働人口減少の問題は、公共交通の安全性にも関わる大きな課題となっている。特に鉄道の場合、小さな事故であっても利用者に与える影響は大きく、都心では運行の遅れが大混乱を引き起こす例もときどき発生している。一方で、鉄道インフラに関わる保守管理体制は、古くから軌道や土木、建設、車両、電気、信号、通信などさまざまな施設で人の経験に基づいて構築されてきた。

「今後はそういった施設で人材が確保できなくなり、技術伝承もできなくなることが懸念されています。そのため、早い段階で最新技術を組み合わせた鉄道インフラの保守管理体制を構築し、自動化や省力化を進めていくことが期待されています」(松島氏)。

こうした背景から、中央復建コンサルタンツとNTTドコモ、京浜急行電鉄(京急電鉄)、横須賀市の4者がコンソーシアムを組み、5GとAIの活用によって鉄道インフラをリアルタイムに遠隔から自動監視する実証試験が、2020年12月21日から2021年2月12日まで京急電鉄の久里浜工場で行われた。実証実験では、ドローンなどによって撮影された4K映像を5Gで伝送し、AIによるディープラーニングで解析された結果をさらに5Gで遠隔地にリアルタイム配信している。

中央復建コンサルタンツ株式会社 計画系部門 事業創生グループ プロジェクトマネージャー 松島敏和氏
中央復建コンサルタンツ株式会社 計画系部門 事業創生グループ
プロジェクトマネージャー 松島敏和氏

顧客サービスの向上にも役立つ5Gを活用した鉄道インフラの監視

実際の検証では、災害時を想定した「線路巡視」と通常時の「車両監視」が対象となった。「線路巡視」では、ドローンに取り付けた4Kカメラで線路を撮影し、擬似的に置かれた障害物を検知する検証が行われた。「車両監視」では、固定された4Kカメラとサーマルカメラで車両の床下機器を撮影し、台車に疑似的に描かれたき裂、ブレーキパッドの摩耗、機器収容箱ハンドルの開き、車軸温度の上昇を検知する検証が行われた。それぞれの検知結果は、遠隔で監視するPCにリアルタイムで配信される(図1)。

「今回の実験では、4K映像を5Gでクラウドに伝送してAI解析し、結果を遠隔地に配信しました。計算リソースを効率化し、エッジコンピューティング技術を活用することで、撮影から結果確認までの時間を0.94秒まで短縮しました」(松島氏)。

(図1)中央復建コンサルタンツとNTTドコモ、京急電鉄、横須賀市の4 者で行った実証実験の構成(資料提供:中央復建コンサルタンツ)
(図1)中央復建コンサルタンツとNTTドコモ、京急電鉄、横須賀市の4 者で行った実証実験の構成
(資料提供:中央復建コンサルタンツ)

このように、5GとAIを活用した「線路巡視」や「車両監視」は、実際の業務にはどのように役立つのだろうか。京急電鉄は山中を走る路線が多く、トンネルなども多いため、台風や豪雨などといった発生頻度が高い自然災害からも被害を受けやすい。台風などが去った後は、作業員が線路を歩いて目視で障害物を確認しているが、始発電車が発車する前に早朝の薄暗い中で行う作業は二次災害の危険性もある。また、基本的に作業は2人体制で行われるが、大きな倒木などが線路上にあった場合は別途応援を要請するため、応援要員が集まるまで時間がかかってしまう。そこで、人が目視で点検する前にドローンを飛ばして確認すれば、重点的に確認すべき場所が分かり、復旧要員の適切な配置が可能になる。

「そうやって作業が効率化できれば復旧も早まるので、顧客サービスの向上にも繋がるでしょう。また、災害後の保線作業員の二次災害を防ぐことにもつながります」(松島氏)。

5Gが描くモビリティの未来像は自分で考える電車か

一方、「車両監視」についても、京急電鉄では現状6日に1回の頻度で列車点検を実施しているが、駆動系の装置は不具合が発生すると影響が甚大になるため、列車検査以外に監視を行うことができれば、より一層の安全性向上を図ることができる。

こうした、従来型の「TBM(タイムベース・ベースド・マネジメント)」の車両監視に対して、今回の取り組みで目指すのが「CBM(コンディション・ベースド・メンテナンス)」の車両監視だ。CBMでは車体や線路などさまざまなものにセンサを取り付け、常に状態を監視しながら、いつもと違う傾向がみられたら異常が起きる前に点検して部品交換などを行う。

「鉄道の世界でも、複数のセンサからのデータを統合的に処理する"センサ・フュージョン"を実現することが必要だと思っています。そのためにも、5Gによる大容量データの低遅延、複数接続という機能が不可欠になってきます」(松島氏)。

顧客サービスの向上にも役立つ5Gを活用した鉄道インフラの監視 イメージ

京急電鉄、NTTドコモ、中央復建コンサルタンツでは、2021年度は「車両監視」に特化した取り組みを進めている。実際に京急電鉄の「羽田空港第1・第2ターミナル」の駅に複数台のカメラを置き、営業車両に疑似的なクラックをマジックで描いてAIに検知させる実験を評価している。今後もAIに大量の学習データを与え、「車両監視」の精度を高めていくことを目指している。

「未来の鉄道では、例えばセンサ・フュージョンによって車両自体が考えて行動することも可能ではないかと考えています。走行中にどこかに異常な熱が発生したら電車自体が感知し、運転手や次の駅に伝えるようなこともできるかもしれません。臭いセンサなどによって、ガソリンなど危険物を持った人物が乗り込んで来たことまで電車自体が感知できれば、より安全な運行が期待できるでしょう」(松島氏)。

道路から空飛ぶクルマまでさまざまな交通インフラを支援する5G

中央復建コンサルタンツとNTTドコモは、5Gを活用した防災・減災への取り組みを道路にも広げている。2022年1月には埼玉県越谷市の東埼玉道路などにおいて、「平常時」と「災害時」における取り組みの実証実験を行った。同実証にはミライトも参加している。

「平常時」では、自動運転車両に4Kカメラやその他センシング機材(GNSSアンテナ、加速度・方位センサなど)を搭載して運行。収集した4K映像をAI解析し、その他の情報も融合させてリアルタイム分析することで、顕在化した異常から潜在的な危険まで可視化する(図2)。「災害時」では、4Kカメラやレーザスキャナーをドローンや車体などに搭載し、災害模擬現場の4K映像や3D点群データを収集。それらのデータを災害前のデータと突き合わせ、被災状況を迅速に確認する(図3)。

「レーザスキャナーによる点群データの容量も数GB規模になるので、現場から比較的短時間に伝送するには大容量の無線通信の5Gが必要になってきます」(松島氏)。

(図2)平常時における5Gを活用した効率的な道路管理の実証実験(出典:「令和3年度 課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」実証事業企画概要)
(図2)平常時における5Gを活用した効率的な道路管理の実証実験
(出典:「令和3年度 課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」実証事業企画概要)
(図3)災害時における5Gを活用した被災状況の迅速な確認の実証実験(出典:「令和3年度 課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」実証事業企画概要)
(図3)災害時における5Gを活用した被災状況の迅速な確認の実証実験
(出典:「令和3年度 課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」実証事業企画概要)

道路インフラにおいても、災害時に応急復旧を迅速化して被害を最小化するには、早急な被災状況の確認が必要だ。被災状況を確認した道路管理者の意思決定が早ければ早いほど、助かる命も増える。今回の取り組みでは、通常ならば丸一日かかってしまうような作業を、6時間以内にやることを目標として実験を進めたという。

「現在、道路パトロールは運転する人と道路を目視で確認して記録する人の2人1組で行われています。目視で確認して記録する人がAIに置き換わり、運転する人が自動運転に置き換わったら人員が削減できます。さらに、自動運転車を公共交通として運行すれば、お客さんも乗せられます。これによって、道路インフラの課題と公共交通の課題の両方を一度に解決できる未来の姿を描いています」(松島氏)。

中央復建コンサルタンツ株式会社 計画系部門 事業創生グループ プロジェクトマネージャー 松島敏和氏

さらに、松島氏の交通インフラの整備に関わる構想は、空にも広がっていく。

「空飛ぶクルマ(eVTOL:電動垂直離着陸機)などの、次世代空モビリティのインフラ構築にも興味があります。将来的には、空飛ぶクルマのポート設計から関わり、そこにローカル5Gのエリアを構築して運行制御や各種サービス提供をするようなことまでできないかなど、いろいろと想像を膨らませています」(松島氏)。

さまざまな公共交通機関の安全・安心な運行を5Gが支援する未来が到来するのは、遠い先のことではないだろう。

「未来図メディア」メールマガジン登録

5G×IoTの最新情報やイベント・セミナー情報を
いち早くお届けします。

ミライト・ワンのソリューションに関するご質問、ご相談など
ございましたらお気軽にお問い合わせください。

ページトップへ