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中山間地の暮らしをサポートする
ドローン配送事業が自治体主導でスタート

2022年12月5日

全国の地方自治体の多くは、人口減少や少子高齢化の課題を抱えている。そうした課題を最新のテクノロジーで解決するために、経済産業省を中心とした「地方版IoT推進ラボ」などの取り組みも進められているが、ドローンを活用した独自のソリューションを構築して、住民サービスを提供している自治体もある。今回は、長野県伊那市がKDDIとの協業によって2020年8月から始めた、ドローン配送による買い物支援事業について見てみよう。

伊那市が自治体運営によるドローン物流事業を開始

伊那市は、南アルプスと中央アルプスという2つのアルプスの山々に囲まれた地方都市だ。中山間地やその周辺の地域での暮らしは、標高差もあり移動が大変なところが多い。さらに、山あいの集落では少子高齢化が進んだことで、物流や交通、買物などが地域課題となっており、高齢者を中心に食料品をはじめとする日用品などの買物困難者が増加している。

このような課題の解決に向け、伊那市では以前から既存の物流に加えてドローンによる物流の導入も検討していた。ところが、従来のドローンで採用されている通信方式では、伊那市の物流で必要とされる10km前後の長距離での自律飛行が難しい。そこで、伊那市はKDDIが提案する、LTE通信によって長距離自律飛行と遠隔制御を可能にするドローンシステム技術「スマートドローンプラットフォーム」を採用。2018年よりKDDIとの協業によって、物流拠点から各集落までのローカルエリア配送や、買い物の注文から決済までをケーブルテレビのリモコンを使って実現する「空飛ぶデリバリーサービス構築事業」を進めてきた。そのため、伊那市はゼンリンとも協業し、河川上空をドローン物流航路とし、中心市街地と中山間地域の物流拠点を結ぶ「INAドローン アクア・スカイウェイ事業」の開発・実証を重ねてきた。

伊那市が2020年8月5日から事業を開始した「ゆうあいマーケット」は、こうした取り組みの成果として、ドローンを活用して商品配達を行う買物サービスだ。商品紹介や注文システムの開発に伊那ケーブルテレビジョン(ICT)が加わり、食料品などの日用品をスマートフォンやパソコンなどを必要とせず、リモコンで手軽に注文してドローンが当日配送するシステムを構築。これによって買い物困難者を支援するとともに、買物支援の担い手不足などの地域課題解決までを図る。伊那市によれば、自治体が運営主体となってドローン配送事業の本格運用を開始するのは、日本では初めての取り組みになるという。

(図1)伊那市が提供を開始した、ドローンで商品配達を行う買物サービス「ゆうあいマーケット」の概要(出典:KDDIのニュースリリースより) イメージ
(図1)伊那市が提供を開始した、ドローンで商品配達を行う買物サービス「ゆうあいマーケット」の概要
(出典:KDDIのニュースリリースより)

5kgまで荷物を運べる専用のドローンで河川上空を飛行

配送に使用されるドローンは、KDDIのモバイル通信ネットワークに対応し、目視外自律飛行、遠隔監視制御が可能なスマートドローンだ。今回のサービスのために専用に開発された機体で、実証実験を通じてプロペラの収納機能やバッテリー着脱の簡易化などの改良がなされている。最大速度は60km/hで、最大5kgの荷物を搭載した状態で約7kmのルートを補給無しで飛行。5kgまで荷物を積載可能した場合、機体と合わせた重量が25kg以上となるため、航空法に基づく「補助者無し目視外飛行」と「最大離陸重量25kg以上の無人航空機の機能及び性能」の承認下でのサービス提供となっている。

(写真1)「ゆうあいマーケット」で使用されるスマートドローン(出典:KDDIのニュースリリースより) イメージ
(写真1)「ゆうあいマーケット」で使用されるスマートドローン
(出典:KDDIのニュースリリースより)

また、スマートドローンはKDDIの4Gネットワークに対応し、対人・対物へのリスクを考慮して河川上空を中心とした効率的な配送ルートが設定された。完全に無人で規定のルートを飛行する目視外自律飛行が可能で、基本的には人が操縦に介入しないことからパイロットの操縦ミスによる事故がなく、人的コストの削減にもつながるという。さらに、継続的な利用には当事者による運用への関与が必須であるとのことから、機体メーカーやシステム構築関係者を介さず、伊那市が持続的に事業運営を行えるよう、地元運営事業者視点での仕組みの構築や教育サポートが実施されている。

(図2)KDDIが提供するスマートドローンのプラットフォーム(出典:KDDIのニュースリリースより) イメージ
(図2)KDDIが提供するスマートドローンのプラットフォーム
(出典:KDDIのニュースリリースより)

公民館に集まる新たな地域コミュニティの誕生にも期待

「ゆうあいマーケット」では、まずケーブルテレビの画面からリモコンで指示をして商品を注文する。注文された商品は、ドローンで近隣の公民館まで配送されるため、購入者はドローンの着陸地点となる公民館まで荷物を受け取りに行く。サービスの利用料は月額1000円のサブスクリプション制で、購入した商品の支払いはケーブルテレビ利用料と一緒に口座振替で支払うため、その場での金銭のやり取りもない。

午前11時までに注文を受けた商品は、その日の夕方には利用者宅に届く。また、ドローンで運ぶことのできない荷物については軽自動車で運ばれ、ドローンが到着した近隣の公民館まで取りに行けない場合でもボランティアが配達を行うなど、利用者のニーズに合わせた柔軟なサービスが展開されている。

(写真2)公民館へ商品を運ぶドローン(出典:KDDIのニュースリリースより) イメージ
(写真2)公民館へ商品を運ぶドローン
(出典:KDDIのニュースリリースより)

実際にサービスを利用した住民の声として、自宅にあるケーブルテレビを利用しているので、住所や支払い方法などを改めて入力する必要がなく、欲しいものを入力するだけという簡単なステップで注文が完了することにも利便性を感じているようだ。こうした反応を受け、伊那市としても近くの公民館に利用者が商品を受け取りに集まることで、新たな地域コミュニティが生まれることに期待しているという。

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