四国から広がる地域GXの取り組み

2023年1月16日

地球温暖化対策の推進に関する法律では、都道府県および市町村は、その区域の自然的および社会的条件に応じて、温室効果ガス排出の削減などに向けた総合的かつ計画的な施策を策定し、実施するように努めるものとされている。こうした制度を踏まえ、脱炭素社会に向けた、2050年の二酸化炭素実質排出量ゼロへの取り組みを表明した地方公共団体が増えつつある。ここでは、全国に先駆けて四国の自治体が取り組んでいる、先進的なGXについて紹介する。

森林資源を活用したGXに取り組む梼原町

日本政府は、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロとする方針を掲げたが、その目標を実現するには、国と地方の協働・共創による取り組みが必要不可欠だ。そこで、地域が主役となり、地域の魅力と質を向上させながら地方創生にもつなげることを目的とした「地域脱炭素ロードマップ」が、2021年6月に環境省によって策定された。このロードマップでは、脱炭素に強い意欲を示し、実現可能性が高いと思われる地域を起点とし、その意欲が全国に広がっていく「実行の脱炭素ドミノ」に期待している。

その起点となる脱炭素先行地域の1回目の募集が2022年1月25日から2月21日まで実施され、日本全国の地方公共団体から79件の計画提案があり26件の計画が選定された。その後、7月26日から8月26日まで実施された2回目の募集では50件の提案があり、20件の計画が選定されている。

その中の1つが、四国4県の中から唯一「脱炭素先行地域」に選定された、高知県梼原町の脱炭素への取り組みだ。選定されたのは、送電網の空き容量不足を踏まえ、町の中心地と観光客が多く訪れる施設群を自営線で結んだ周辺エリアの官民施設において、屋根などにPPA(Power Purchase Agreement:電力販売契約)による太陽光・蓄電池を導入する計画だ。

こうした計画と並行して、梼原町は設立予定の地域エネルギー公社を通じて、エネルギーマネジメントを行いながら、新設した木質バイオマス発電や既設の太陽光・小水力発電の余剰電力を、対象施設に供給して脱炭素化を図る。さらに、木質バイオマス発電による排熱供給に加え、木質ペレット工場を増設し、地域の雇用創出や農林業の活性化なども図っていくという。

(図1)化石燃料からのシフトでCO2の削減効果を発揮する、木質バイオマス地域循環利用の取り組み(出典:梼原町のホームページより引用) イメージ
(図1)化石燃料からのシフトでCO 2 の削減効果を発揮する、木質バイオマス地域循環利用の取り組み
(出典:梼原町のホームページより引用)

もともと、梼原町は面積の91%を森林が占めるという自然豊かな町で、森、水、風、光などの自然エネルギーを活かした、生き物にやさしい環境への取り組みを進めてきた。例えば、20年以上前に標高1,400メートルにある高原に風力発電機を設置し、再生可能エネルギーの活用に取り組んできた。現在この風力発電機による売電益を利用し、太陽光発電設備の設置に1kw当たり20万円を補助する他、ペレットストーブの導入コストの4分の3を補助する制度を設けている。

こうした制度によって、家庭における太陽光発電施設の設置率は10軒に1戸ほど(全戸数の9.1%)となった。さらに、CO 2 吸収源の整備として、間伐を行った森林所有者に交付金を交付しており、2001年度から8年間で、山手線の内側の面積に匹敵する面積(約5.8千ha)の間伐が行われている。

(図2)梼原町が取り組む風力発電による売電益の活用(出典:梼原町のホームページより引用) イメージ
(図2)梼原町が取り組む風力発電による売電益の活用
(出典:梼原町のホームページより引用)

一方で梼原町では、過疎化による人口減と経済縮小の中、豊富な森林資源の管理が課題となっていた。その課題解決のため、梼原町は2022年8月26日に長瀬産業と「森林クレジット創出」の実証を目的とした協定を締結した。協定では、長瀬産業がこれまでに得たさまざまな技術知見や最新ICT技術などを活かし、梼原町の地域活性化への貢献、およびサステナブルな事業共創のモデルケースづくりに取り組む。

例えば、現在、森林の測量には人工衛星や航空測量などが利用されているが、高コストであることや上空からだと大きな木々間の計測ができないなどの課題がある。そうした課題を、ドローンやバックパックレーザー技術を活用して解決できないかを実証する実験を2023年3月から開始するという。

また、産・官・学・金でGXに挑戦する「GXリーグ」の賛同企業でもある長瀬産業は、梼原町との協業を通じて得られたナレッジを活かし、自社のカーボンニュートラル達成や森林クレジット創出の支援、地域社会や林業への価値提供を目的としたソリューション開発を目指す。

水素社会の実現に向けてGXに取り組む徳島県

徳島県では、持続可能な未来の創造を目指し、「環境首都とくしま」の実現に取り組んでいる。2016年度には、全国初となる「脱炭素社会」と「気候変動対策」を掲げた「徳島県脱炭素社会の実現に向けた気候変動対策推進条例」を制定し、「緩和策」と「適応策」を両輪とする各種施策を実施している。その中で、特に「水素社会」の実現に向けた取り組みに力を入れるために、自然エネルギーによるCO 2 フリー水素の製造・利活用を見据えた水素グリッドの導入に取り組んでいる。

2021年12月には、徳島バスが「中四国」では初となる「水素バス」を導入。燃料電池を搭載した水素バスは、水素タンクに充填された水素と空気中の酸素から電気を作りモーター駆動で走行するため、走行時にCO 2 や排気ガスを出さない。

徳島県では、こうした燃料電池車両の普及を推進するため、2022年4月には水素の製造と供給を一体化した国内初の水素ステーションを本格稼働させている。さらに、県内の法人や個人向けに、燃料電池車両の購入を補助する予算も成立させた。

(写真1)徳島バスが導入した燃料電池を搭載した水素バス(出典:徳島県のホームページより引用) イメージ
(写真1)徳島バスが導入した燃料電池を搭載した水素バス
(出典:徳島県のホームページより引用)

讃岐うどんで発電する高松市

香川県は「うどん県」ならではの発想で、うどんによる発電に取り組んでいる。現在、県東部の下水処理場では、下水道施設で発生する消化ガスをバイオマス発電の燃料として使用し電気を作っている。高松市はその施設で、讃岐うどんなどを含む食品廃棄物を利用し、発電量を増加させる実験を2022年6月から始めた。この実験のために、さぬき麺業から試料となる廃棄うどんが月400~600キログラム提供されている。

実験期間は1年間で、既存施設である消化タンクに廃棄うどんを投入し、下水汚泥と混合することで発生する消化ガス(バイオガス)を増量させ、発電量が増加できるかを検証する。バイオマス発電設備の下水処理場で発生する消化ガスは、カーボンニュートラルな燃料として温室効果ガスには換算されないため、発電した電気はクリーンエネルギーとして「ゼロカーボンシティたかまつ」の推進に貢献するという。

(図3)うどん発電を目指す高松市(出典:高松市の報道資料より抜粋) イメージ
(図3)うどん発電を目指す高松市
(出典:高松市の報道資料より抜粋)

今後も地方におけるGXの取り組みは拡大していくと見られる。ミライト・ワンでも福島県とトヨタ自動車による 「水素を活用した未来のまちづくり」 の社会実装に参加するなど、各地の自治体と連携しながら、地方におけるGXの取り組みを支援していく。

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