都市のカーボンニュートラルを目指すEUと、先行するコペンハーゲン

2022年8月19日

欧州連合(EU)は、2030年までにCO2排出量を1990年の水準から55%下げ、2050年までにカーボンニュートラルを達成することを表明した。EUでは、27の加盟国の人口約4億4700万人の3/4が、EUの陸地面積のわずか4%を占める都市に居住している。加えて、住宅やオフィス、学校、病院、公共施設など建物の建設や利用、改築、解体などに由来する温室効果ガスの排出量が、EU全体の排出量の36%を占めるという。人口が集中する都市部における温暖化対策は、EUのカーボンニュートラル目標を達成するためには不可欠といえる。都市のCO2排出量の削減に向けたEUの取組や、その中でも一歩先を行くコペンハーゲンの事情を紹介しよう。

2030年のカーボンニュートラル実現を目指す100都市が選定

都市のカーボンニュートラル、そしてスマートシティ化を推進するため、欧州委員会では、2021年9月、2030年までにカーボンニュートラルを達成するスマートシティを100都市実現するという目標を掲げ、この計画に参加する都市の募集を開始した。参加する都市には、クリーンモビリティやエネルギー効率、グリーン都市計画などの分野における研究および技術革新を推進するため、今後2年間で3億6,000万ユーロの資金が提供される。これらの都市が、先行者としてカーボンニュートラルの実現に向けた様々な取組を実施し、そこから生まれた施策を、EU全域に広げていくことで、2050年までに、EUの全ての都市でカーボンニュートラルを達成するというのが、この計画の長期的な目標だ。

応募期間中に377の都市から応募があり、2022年4月に、100都市が発表された。100都市は、パリやマドリードなど、12ヵ国の首都を含む大都市から小規模な都市まで、そしてEUに加盟する全27ヵ国から選ばれている。また、EUの100都市に加えて、2020年にEUを離脱した英国や、トルコ、イスラエル、ノルウェーなどの関連国からも12都市が本プログラムに選ばれた。幅広い規模の、そして、気候変動への備えのレベルも様々な都市がまんべんなく選ばれたのは、今後の横展開を見据えての戦略だろう。

5年前倒しで目標達成を目指すコペンハーゲン

100都市の中でも、カーボンニュートラルに向けた動きで先行するのがコペンハーゲンだ。同市は、今回の計画に参加する以前から、2025年までにカーボンニュートラルを実現するという目標を掲げ、再生可能エネルギーの活用やスマートグリッドの活用を進める。

コペンハーゲンの特徴ともいえるのが、街のいたるところに設置されたセンサーを活用した交通のスマート化だ。車よりも自転車の台数の方が多い同市では、朝夕には自転車の通勤ラッシュが生じる。そこで、交差点に設置されたセンサーが、自転車が5台程度同時に来た場合は、自転車の信号機の色を青にしておくという仕組みが採用されている。

コペンハーゲンでは、車や自転車、歩行者の交通量やパターンをリアルタイムに可視化し、シミュレーションを行うシステムが実装されている。コペンハーゲン・インテリジェント・トラフィック・ソリューションと名付けられたシステムがあり、例えば、市バスの運転速度を時速50kmから40kmに変更した場合、渋滞にどのような影響がでるか、というような検証を簡単に行うことができるのだ。

自動車の脱炭素化も進んでいる。デンマークでは、2030年までに全てのタクシーを、排出ゼロのクルマにすることを目指しており、その先駆けとして、2021年11月には、トヨタの燃料電池自動車「トヨタ・ミライ」100台が、コペンハーゲンのタクシーとして採用された。導入したのは、DRIVRというタクシー会社で、同社のアプリでは、タクシーを呼ぶときに、ハイブリッドやEV、あるいは、水素で走行する車を選ぶことができる。トヨタ・ミライが100台加わったことで、温暖化対策への意識が高いユーザーにとって、より使いやすいサービスになったといえるだろう。

コペンハーゲンに導入されたトヨタ「ミライ」タクシー(出典:トヨタEU プレスリリース) イメージ
コペンハーゲンに導入されたトヨタ「ミライ」タクシー
(出典:トヨタEU プレスリリース)

カーボンニュートラルを推進するきっかけは、オイルショックと自然災害

今でこそ環境先進都市といえるコペンハーゲンだが、1970年代は、自動車の方が自転車よりも多い、"普通"の都市だった。また、当時のデンマークは、日本と同様、燃料のほとんどを石油の輸入に頼っていた。しかし、オイルショックで大きな影響を受けた同国では、エネルギーを国内供給していく方向へ舵を切り、風力発電などの規模を少しずつ拡大させていた。また、2011年には、大雨の影響で、コペンハーゲンは床下浸水により大きな被害を受けた。この時に、「温暖化」に対する警戒感も高まり、カーボンニュートラルを推進する動きが加速していったという。今では、デンマークの電力の半分は、太陽光や風力発電によってまかなわれている。

もちろん、デンマークには、三方が海に囲まれた平地であり、強い偏西風が吹くというアドバンテージがある。地形や気象条件が異なる日本では、安定的に強い風力を得られるデンマークと同じことをすることは難しい。日本では、 「東北大学との連携でスーパーシティを目指す仙台市」 「地元愛が鍵となる地方都市のスマートシティ化」 「柏の葉が目指すスマートシティ構想」 「5G時代のまちづくり みなとみらいの挑戦」 などで紹介してきたように、全国各地、様々な規模の都市において、スマートシティや省エネの実現に向けた取組が進んでいる。海外の先進事例から学ぶべきところは学び、日本独自の最適解を見つけ、スマートシティやカーボンニュートラルが実現することに期待したい。

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