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海に囲まれた日本で期待される浮体式洋上風力発電
洋上に浮かべた大きな風車で、風の運動エネルギーを回転エネルギーに変えて発電する「浮体式洋上風力発電」は、海に囲まれた日本に適したクリーンエネルギーだろう。とはいえ、その実用化には、いろいろと課題もあるようだ。浮体式洋上風力発電の実用化のポイントが、どこにあるのか見てみよう。
日本の海に適した浮体式洋上風力発電
洋上風力発電は、世界第6位の排他的経済水域を持つ海洋大国である日本において政府としても期待しており、2030年までに1,000万kW、2040年までに3,000万kW~4,500万kWの発電目標を掲げている。とはいえ、海岸線に大きなプロペラを設置するには、景観や騒音、漁業への影響なども考慮する必要があり、できるだけ沖合に発電機を設置することが求められる。
そこで注目されているのが、浮体式洋上風力発電だ。発電用の風車を海底に固定する着床式に対し、浮体式洋上風力発電はアンカーやチェーンなどで海底につなぎとめられた浮体構造物に風車を設置する。着床式に適しているのは水深50m以下の海域だが、浮体式ならばより深い海域でも設置できる。そもそも、日本には遠浅の海が少ないため、どうしても水深が深い沖合に発電機を設置しなくてはならないのだ。
一方で、浮体式の施設は洋上に浮かぶ構造物であるため、風が風車に与える荷重に加えて、波や海流が浮体に与える荷重が加わる。また、浮体の上に風車を設置することから、浮体を制御する技術も重要になる。こうした課題から、現在、日本における洋上風力発電はほとんどが着床式だ。浮体式の洋上風力発電施設の本格的な活用に向けては、様々な技術的課題を解決する必要がある。

(図1)着床式洋上風力発電と浮体式洋上風力発電の比較(出典:国土交通省の資料より引用)
長崎県五島沖で浮体式洋上風力発電を導入
日本における浮体式洋上風力発電の歴史は以外と古く、10年以上前に遡る。2013年10月には環境省の浮体式洋上風力発電実証事業によって、戸田建設を代表とする受託者グループが、長崎県五島市椛島沖にて2MW級の浮体式洋上風力発電施設「はえんかぜ」の設置に成功した。その後、運転・試験・保守を含めた浮体式洋上風力発電施設の本格的な運用について知見を深めるとともに、周辺海域の海洋生物や、生活環境への影響調査を継続し、漁業協調型の浮体式洋上風力発電確立に向けた実証事業を行っている。
こうした実証事業によって、長崎県五島市の浮体式洋上風力発電施設は安全で環境への影響が小さく、生物多様性に貢献する発電施設であることが確認された。その後、2015年度に椛島沖での2年間の実証運転を終え、約10km離れた五島市福江島にある崎山沖約5kmの洋上に移動した。そして、2015年度の事業終了後は、五島市再生可能エネルギー基本構想のもと、浮体式洋上風力発電の普及促進を目指し「崎山沖2MW浮体式洋上風力発電所」として民間事業による実用化を実現。現在も運転を継続している。
五島市の浮体式洋上風力発電設備は、細長い円筒形状の浮体構造の上に風車及びタワーが海上に突出して固定される「スパー型」で、浮体構造の上部に鋼製部材、下部に鉄筋コンクリートを使用するハイブリッド構造を採用。コンクリートは水圧や海水にも強いため、これを浮体下部に用いることでコストダウンを図るとともに、重心を下げて安定性も向上させている。

(図2)長崎県五島市の浮体式洋上風力発電施設の実証機(出典:五島市の広報誌より引用)
漁業に配慮した浮体式基礎構造体の実証実験
五島市の事例で見られるように、日本ではスパー型の他、コンパクトセミサブ型などによる浮体式洋上風力発電の実用化が先行しているが、これらの方式は浮体の動揺が大きく、発電効率が低いといった課題がある。こうした中、大林組は2024年8月27日、青森県下北郡東通村岩屋の沖合3kmの海域に、TLP(テンション・レグ・プラットフォーム)型の浮体を設置。1年間の挙動観測を開始したことを発表した。
TLP型は、浮体の動揺安定性や発電効率が高いことが期待されるとともに、海域の占有面積が小さく、漁業への影響が少ないという特徴を持つ。一方でTLP型は一般的に設置が難しいとされており、海底油田などでは実績があるものの、洋上風力発電の基礎としては国内での実用化が遅れている。
今回の実証実験では、浮体製作の低コスト化や大量生産を図るため、五島市の事例のように鋼製部材と鉄筋コンクリートによるハイブリッド構造を採用している。また、今回の浮体には風車は搭載されていないが、1年間の挙動観測を通して実際に海の波の中での動揺安定性の確認や、コンクリート浮体の水密性の検証を行い、TLP型浮体の耐用性を確認していく計画だ。
今後、日本における浮体式洋上風力発電の本格的な活用には、洋上での浮体の制御も重要なポイントになりそうだ。

(図3)大林組によって設置された洋上風力発電のための浮体(出典:大林組のプレスリリースより引用)
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