道路の信号制御にAIを積極的に導入する海外事例

2026年4月20日

都市における交通渋滞は、非効率な信号制御が連鎖して増幅することがある。そうした課題の解決に、海外ではAIが交通量や速度、滞留、事故、工事などの事象を学習し、青信号の時間配分やオフセットを秒単位で更新するシステムの実装が進んでいる。

分散最適と強固な運用設計に注力するピッツバーグ

AIによる交通信号制御の代表的な事例の1つとして挙げられるのが、米ペンシルベニア州のピッツバーグで実証された適応信号制御システムだ。「スケーラブル都市交通制御(SURTRAC)」と呼ばれているこのシステムは、ピッツバーグ市内にあるカーネギーメロン大学によって開発された。

SURTRACは交差点ごとに到来交通を推定し、隣接交差点と緩く協調しながら次サイクルの青信号時間を更新する、分散型の考え方が中心となっている。中央で都市全体を一括最適化する方式に比べ、通信断や局所イベントにフレキシブルに対応でき、交差点を段階的に追加しながら効果が検証できる点が評価されている。実装後は旅行時間(2地点間を移動するのに要する時間)や停止時間の減少、バスなどの定時性改善が指摘されているが、SURTRACの核心は「最適化」よりも「運用の壊れにくさ」にある。AIが推奨するパラメータを自動反映するだけではなく、警察や消防車両の緊急対応、スタジアムイベント後の退場、降雪や事故による車線規制のような非定常対応も現場で対処できる権限設計が欠かせない。

また、北米では検知器やカメラの欠損を前提にした、安全設計が重視される。実運用では機器の故障や汚れ、通信遅延などが起きるため、データの欠損時にも交通の安全性を保ちながら退避するフェイルセーフや、ログと変更履歴の監査、設定値のロールバックが必要だ。さらに、信号は自治体や州、委託事業者の分業で運用されることが多く、AIの効果を説明する指標も合意形成の対象となる。旅行時間だけでは住民の体感とずれる場合があり、停止回数や交差点の滞留長、右左折別の遅れ、緊急車両通過の阻害回数などを同時に追う設計が求められている。

(図1)AIによって車両や歩行者、自転車、公共交通機関を感知するSURTRAC(出典:カーネギーメロン大学のニュースリリースより) イメージ
(図1)AIによって車両や歩行者、自転車、公共交通機関を感知するSURTRAC(出典:カーネギーメロン大学のニュースリリースより)

大気汚染の除去効果も狙うロンドンの信号制御

欧州は歴史的に都市全体の協調制御を重視してきた地域であり、英ロンドンでは需要変動を検知するシステムで交通を制御する枠組みが長年運用されてきた。近年はこの枠組みにAIを組み合わせ、短時間先の需要予測や異常検知を強化しつつ、交通制御の目的を「自動車の遅れ最小」から「公共交通・歩行者・自転車を含む総合最適」へ拡張する動きが目立っている。

従来のシステムでは、道路に埋め込まれた磁気探知機を使って通過する自動車を検知し、それに基づいて信号のタイミングを調整していた。しかし、例えばバス優先レーンでは、単純に優先信号を出すだけでは交差道路側の渋滞を増やすため、遅れ量や混雑度、後続間隔を加味して優先の強さを変える設計が有効となる。歩行者についても、横断待ちの長さは安全行動に影響する可能性がある。このように、古いシステムでは、すべての人にとって効果的な最適化が困難だった。

新しいシステムは、バスだけでなく自動車、自転車や歩行者を含むすべての道路利用者にとって最適となるよう、青信号の時間を最適化している。ロンドンで導入された「インテリジェント適応型交通信号システム」は、約6,400カ所の交通信号システムをクラウドベースのシステムに移行。これによって、「移動時間」「交通の流れ」「事故への対応」などが改善され、移動需要と道路網パターンに関するデータも向上した。さらに、ロンドンではCO2の削減による、市内の空気の質の改善も狙っている。

(図2)ロンドンに導入された「インテリジェント適応型交通信号システム」による大気汚染の除去効果(出典:Yunex Trafficのニュースリリースより) イメージ
(図2)ロンドンに導入された「インテリジェント適応型交通信号システム」による大気汚染の除去効果(出典:Yunex Trafficのニュースリリースより)

AIによる信号制御システムが経済効果をもたらした台北

アジアでは信号制御を、単独の交通施策ではなくスマートシティ基盤の一機能として束ねる事例が多い。台湾の台北市でも、交通渋滞の緩和と大気環境の改善を目指したスマートシティの実現に向け、数年前からさまざまな信号機管理ソリューションを検討している。台北市には2,500台以上の信号機が設置されており、通勤ラッシュ時には何時間も無駄に渋滞に巻き込まれることから、監視カメラとAIアルゴリズムを組み合わせた「スマートAI信号制御システム」を導入している。

同システムでは、実際の交通量に基づいた柔軟な信号調整を行い、交通の流れを効率化する。監視カメラが車や歩行者の状況をデータとして収集し、AIを用いた画像検知機能によって人や車の位置を計算。必要に応じて、青信号を延長したり応答信号を作動させたりするなど、リアルタイムの信号機調整を行っている。

「スマートAI信号制御システム」の導入後に行われた統計分析によると、台北市の交通の待ち時間が大幅に改善されたことが報告されている。例えば、車両の平均待ち時間が15〜78%減少し、夜間の幹線道路の赤信号での待ち時間が35%減少、幹線道路の青信号の表示時間が7〜79%増加することで、交通の効率が上がった。台北市の分析では、この効果を省エネ・省炭素データに換算すると年間約23トンのCO2排出量を削減したことになり、約183万台湾ドルの経済効果が得られたとしている。

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